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「まずはキーマンを探せ!」レガシー業界に挑む起業家らが語る、参入障壁を崩すヒント

3月5日、500 Startups Japanの創業チームによるCoral Capital(以下、Coral)の立ち上げ発表会で、投資先企業とのパネルディスカッション「成功の方程式はこう変わる、ネクストユニコーン3社が描く未来」が行われました。登壇したのは、株式会社SmartHRの宮田昇始さん、株式会社カケハシの中尾豊さん、株式会社Holmesの笹原健太さん。モデレーターを務めたのは、Coralの創業パートナーであるJames Rineyです。

Coralの前身である500 Startups Japanの投資先には、行政や医療など、長い歴史や文化を持つ「レガシー業界」に挑むスタートアップも多いです。例えばSmartHRは企業が従業員を雇用する際に必要となる社会保険手続きや、雇用契約などをオンライン上で申請・締結できるサービスを提供。KAKEHASHIでは調剤薬局向け、Holmesは契約の仕組みを最適化するクラウド契約システムを展開しています。

そんな彼らが、それぞれのレガシー業界に挑む際、最初にぶつかった壁とは何だったのでしょうか? また、挑み続けているからこそ感じる変化とは?

■登壇者プロフィール
宮田 昇始・・・株式会社SmartHRの代表取締役CEO。2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の提供をスタートさせる。2018年には戦略的スキームSPV(Special Purpose Vehicle)を活用し、15億円の資金調達を実施。2019年1月には、保険業界における非合理の解消を目指す「SmartHR Insurance」を設立した。

中尾 豊・・・株式会社カケハシの代表取締役CEO。武田薬品工業株式会社入社後、MRに従事。医療業界において、サービス面で貢献することが多くの医療従事者や患者さんに貢献できる方法だと考え、同社を退職。「医療をつなぎ、医療を照らす」というビジョンで株式会社カケハシを創業。

笹原 健太・・・株式会社Holmesの代表取締役CEO、元弁護士。契約書の作成/承認/締結/管理をワンストップで可能にし、日本のあらゆる企業における契約フローの最適化を実現するクラウドシステム「Holmes」を提供。2018年にシリーズAラウンド総額約5.2億円の資金調達を実施した。

James Riney(ジェームズ・ライニー)・・・Coral Capital創業パートナーCEO。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。

性別が6択、メールアドレス不在、契約フローの同時並行

SmartHR、KAKEHASHI、Holmes。この3社は行政や医療など、ネットなどのシステム導入もあまり進んでいない業界に挑んでいるスタートアップです。そんなレガシー業界に参入する際、その独特の文化をどのようにクリアしてきたのでしょうか。そこでまずJamesが問いかけたのは、それぞれの業界に初めて参入する際に感じた「とんでもない!」エピソードでした。

宮田:社会保険手続きをオンライン化できるかどうかを調べていたとき、手続き書類にある性別がまさかの「6択」でした。1つ目が男性、2つ目が女性、そして3つ目は「炭鉱で働く人」。信じられないですよね? なぜこのようなフォーマットになっているかというと、高度経済成長期のなごりです。当時、日本にはたくさんの炭鉱がありました。炭鉱で働く人は、普通に働いているよりも怪我などのリスクが高いため、社会保険の料率が異なります。そのため、このような選択肢が必要だったのです。しかし、これはもう何十年も前の話。こういったことが積もり積もって制度や手続きをわかりづらく、不便にしていました。

中尾:これは薬局独特の文化なのですが、コミュニケーションツールがメールではなく、FAXがメインの薬局もまだ残っています。僕らが運営している電子薬歴システム「Musubi」は、導入するためにメールアドレスが必要。つまり、この時点で高い参入障壁があったわけです。それは毎回、商談内容に「メールアドレスをつくりましょう」というフローが入るほど(笑)。また、ネット環境がないところもあり、「デスクトップ」という言葉自体も通じにくい。さらには「サービスに繋がりません」という問い合わせ内容を紐解いてみると、「機内モード」が押されていたり。サービス導入以前の問題が想像以上に多かったことは、驚きでしたね。

笹原:「Holmes」は、契約にまつわる業務に特化したクラウドサービスです。そもそも企業がおこなう事業とは、全て「契約」で成り立っています。つまり、企業にとっては、契約は頭の先から爪の先まで流れている血液のようなものなんですよね。そのために、本部だけでなく、営業や法務など、様々な部署の人間が関係者として契約業務に関わっています。そういった面もあり、「会社全体の契約フローを見直そう」としているところも増えています。しかし、実際には契約フローを新たにしたのはいいけれど紙の稟議と電子の稟議が同時並行していたりして、「電子上ではOKだけど、紙上ではまだOKではない」なんてことも起こっています。この状況を目の当たりにしたときは、さすがに驚きました。

立ちはだかるのは「業界独特の文化」だけじゃない

そういった独特の文化が根強く残る業界だからこそ、営業も一筋縄ではいかないもの。続いてJamesが問いかけたのは「参入時に課題に感じたところ」。特に、長い歴史を持つ薬局業界へ挑むKAKEHASHIに立ちはだかった壁とはどのようなものだったのでしょうか? そこで中尾さんが答えたのは「最も影響力を持つ人を探すこと」でしたーー。

中尾:この業界では「影響力がある人は誰なのか」がわからないと、参入が難しいんです。というのも、薬局業界には薬局薬剤師会があり、縦横のつながりがとても強い。そのため、30店舗持っている薬局より、1店舗のみだけれど影響力のある薬局の一声が、その地域一帯でのサービス導入を大きく左右することもよくあります。僕らはSaaSというジャンルのオンラインサービスを提供していますが、営業では地道にコツコツとやるほうがレバレッジが効くんです。

そして、「キーマンを探す」という意味では、Holmesも同様ーー。

笹原:先ほどお話ししたように、契約とは全社に関係するものです。なので、各企業のロジックに合わせなければならない。そこでは「法務は意外に予算を持っていない」「一方で営業は自由に動ける風土がある」などの考えも必要です。中尾さんと同じく、まずはキーマンを探して導入してもらい、そこから広げていくような営業が求められます。

立ちはだかるのは業界独特の文化だけではありません。深く立ち入れば立ち入るほど、「法律の規制」という壁も露わになります。社会保険など、行政とやりとりすることが多いSmartHRでは、そういった壁にぶつかると、場合によってはロビイングなども行うといいますーー。

宮田:昨年夏に、従業員との雇用契約をオンラインで締結できる新機能をリリースしました。しかし、そこには「労働条件は “紙” で通知しなければならない」という法律の壁がありました。なので、SmartHRではオンライン上で雇用契約ができるものの、最終的には紙が残ってしまうという、妙な状態に陥っていました。うちにはロビイング専門チームはないので、僕と共同創業者の内藤(研介)で、行政の方々と話し合いを重ねましたね。

スタートアップにおいて、参入する業界やフェーズによってロビイング活動の必要性は高まります。話し合いを重ねることは骨の折れるところでもありますが「その手応えは年々変わってきている」と宮田さんーー。

宮田:意外に思われるかもしれませんが、行政の方々などは僕たちの話をけっこう聞いてくださるんです。直接的な影響がどれくらいあったかはわかりませんが、相談した日から約2ヶ月後に法律が変わったこともあります。最近では僕らから話しに行くだけでなく、行政側から話をしに来てくれることも。これは、僕らのようなスタートアップが増え、国としても「支援しなければ」という意識が定着しつつあるからだと思います。これが5年前だったら、話すら聞いてくれてなかった可能性もありますね。

レガシー業界に挑むスタートアップは増えている?

宮田さんも話すように、5年前に比べて日本のスタートアップは増えています。では、レガシー業界に挑むスタートアップも増えているのでしょうか? 現在進行形でレガシー業界に挑み続けている3人に聞くと、答えは「YES」。では、レガシー業界に挑むスタートアップはなぜ増えているのでしょうか?ーー。

宮田:おそらく、僕らのような事例が増えたことも影響しているように思います。というのも、僕はいろいろな起業家から相談されることがあるのですが、よく言われるのが「SmartHRを見て、うちの業界でもSaaSならいけると思って起業しました」です。既存のスタートアップの事業が事例になり、そしてさまざまなメディアが記事にする。それを読んだり見たりした方々がスタートアップをやってみようと起業する。そういった循環が生まれつつあるような気がしていますね。

そして、レガシー業界に挑む起業家には大企業出身者も多い。その理由について、中尾さんは「大手企業で頑張っている人ほど、その業界の課題を熟知している」とのことーー。

中尾:レガシー業界の大手で課題を発見し、それを解決したいと考える人が一定数います。でも、それを企業内でやろうとすると、関係各所で稟議をとる必要があるんですよね。さらに言うと、ようやく新規事業としてスタートできても、それほど多くの予算をとれない可能性も高い。ならば、独立したほうが資金も集めやすいですし、もっと自由にできます。その流れが強まり、起業するケースが増えているんじゃないかと感じているんです。


レガシー業界にも起業家やスタートアップが増えているなか、次のステージについて「プロダクトで根本的課題を解決できるのか、が問われている」と笹原さんーー。

笹原:プロダクト自体は、案外すぐにつくれるものです。しかし、僕らが本当に挑みたいのは、レガシー業界に蔓延る「複雑さ」の解決。例えば、Holmesでは契約手続きの表面上にある手間を省くことはできていますが、根本にある複雑さまで解決できていません。今まさに、僕らのようなスタートアップは、その複雑さを根本的に解決する方法を具体的に考えるステージに来ているんです。

Coralへの期待は「起業家のような投資家集団でいて」

独特の文化、法律の壁、業界に蔓延る「複雑さ」の解決。Coralの前身である500 Startups Japanは、これらに挑む起業家への支援に注力し続けてきました。では、Coralになった今、起業家である彼らが期待している支援とは何でしょうか?ーー。

笹原:ファイナンスはもちろん、やはり重要なのは営業と採用です。立ち上がりは、特に責任者人材の採用はとても大切です。その点、Coralは500 Startups Japanのころからキャリアフェアやイベントなど、積極的に支援してくれています。そこは、引き続き強化していただきたいですね。

また、Coralとして新たなスタートを切ったJamesと澤山に対して、中尾さんの期待は「起業家のような投資家集団になってほしい」でしたーー。

中尾:澤山さんはテクノロジーとファイナンスに長けている人。そしてJamesは、ロジカルでありながら、起業家精神が旺盛です。そして、起業家と投資家という関係性を超えた絆のようなものを感じています。適切なディスカッションをしつつ「頑張ろうぜ」と言い合える起業家のような投資家集団であることは、今後も期待しています。

そして、宮田さんが期待しているのは「レガシー業界へのさらなる投資」「アグレッシブさ」の2つーー。

宮田:僕は、どんどんレガシー業界へ投資してほしいと思っているんです。僕らのような汎用的なSaaSは、連携したいサービスもたくさんあります。そして、連携することでより便利になっていくんです。連携できるサービスを増やすために、スタートアップを増やしてほしいですね。また、今よりももっとアグレッシブなファンドでいてほしいという想いがあります。そもそも、今回発表したCoralのリブランディング自体がとてもアグレッシブですし(笑)。そして、そういった決断ができるVCは、なかなかいません。レガシー業界にもVC業界にも、新しい風を吹き込み、僕らとともに盛り上げてほしいですね。

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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