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「スタートアップ人事大解剖 〜カルチャー/採用/制度のつくり方〜

スタートアップの事業成長の明暗を握る「組織づくり」。数名規模の立ち上げ期から数十名、数百名規模へと拡大させていくなかで、人事はいかにして組織を作っていくべきでしょうか。

去る4月25日、スタートアップ人事はどのような哲学でカルチャーを作り、どのような人材を採用し、能力を最大限に引き出すための制度を設計しているかを紐解くべく、「スタートアップ人事大解剖 〜カルチャー/採用/制度のつくり方〜」と題したイベントを開催しました。

登壇者にCoral Capitalの有力投資先スタートアップで組織づくりを進める、SmartHR人事責任者 薮田孝仁氏と、コネクテッドロボティクス取締役COO 佐藤泰樹氏、Holmes採用責任者 増井隆文氏を迎え、スタートアップにおける組織づくりを「カルチャー」「採用」「制度」の3つの観点から大解剖。クラフトビールを片手に白熱したイベントの様子をお届けします。


創業者のマインドがカルチャーに

津田:今回は、組織づくりを「カルチャー」と「採用」「制度」の3つに分解して、どんなカルチャーを作って、どんな人を同じ船に乗せ、どんな制度や仕組みで活躍してもらっているのかを皆さんに伺いたいます。まずはカルチャーについて。どんなプロセスでカルチャーを作り上げていったのか教えてください。

薮田:SmartHRには、オープンで遊び心があり、全員が主体的でフラットという文化があります。弊社は「クラウド人事労務ソフト」という新規性と社会性を持ち合わせたサービスを提供しているため、社内カルチャーには遊び心があった方がいいのではないかという考えがあるんですね。

たとえば、福岡県で開催されたカンファレンス「RubyKaigi 2019」に参加したときは、社長やCTO、私自らが福岡の街を12軒食べ歩いてグルメマップを作りました。また、Shuttle Sponsorとして会場から主要地までのシャトルバスを走らせたときは、わざわざ「バス停」を作るなどの遊び心のある企画を実施。これらはトップダウンというより、みんなで企画を話し合うなかで生まれたものです。

津田:遊び心のある企画を自分たちで実行できるようなカルチャーはどうやって作ったんですか?

薮田:僕が入社したとき、すでにそういう雰囲気はありましたが、明文化はされていませんでした。そこで、会社のことを深く知るために、当時約70名の全社員と面談して文化を紐解きました。すると、オープンかつフラットで、遊び心のあるマインドが共通していること、またそれが、創業メンバーから醸成されて浸透していることに気づいたんです。

そもそも、創業メンバーがリファラル採用を行っていたので、自然と自分たちに近い人材を仲間にして拡大した歴史があり、その文化の芯がブレないまま成長した。カルチャーは作ろうと思っても作れないので、これはひとつの大きな強みだと思っています。

津田:同じ価値観を持つ人が集まった結果、それがカルチャーとして根付いたんですね。

全力で承認し、承認される熱狂的なカルチャーの維持

佐藤:弊社は「自動たこ焼きロボット」などの調理ロボットを開発している会社なので、ロボット好きが集まっています。

特徴的なのは、経営陣はメンバーを信頼して決済権を渡し、それぞれ好きに仕事をしてもらっていること。ゴールとなる「目標や納期」だけは設定しますが、そのプロセスにはほぼ介入しません。自分の作りたいと考えた方法で作った方が楽しく主体的に作れますよね。

一方で、壁にぶつかったり難しいことに挑戦したりする際は、最後まで諦めずにやり切ってもらう。優しさと厳しさという相反があることで、新しい価値を創出できると考えているので、そういったカルチャーを作っています。

増井:Holmesには2週間に1回開催している「WINパーティー」があります。これは、「OKRの意識」と「徹底的な承認」というカルチャーを体現した取り組みです。

お酒を飲みながら全員が自分のOKR進捗を報告するのですが、たとえば「こんな凄い機能を作りました!」「お客様にこんなことを言ってもらいました!」といったプレゼンに対して、全員が全力で褒めまくるんですね。そして褒められた側は謙遜することなく全力で受け止めて“得意顔”をします。

すると、賞賛する側はもっと賞賛したくなって全体の熱量が上がっていくんです。だからパーティーは毎回大盛り上がりのうちに終わっています。これを2週間に1回、3時間をかけて行っているのは、すごくいいカルチャーだなと思いますね。

津田:その熱狂的な文化は、どう作ってきたのでしょうか?

増井:私が入社する前からあったパーティーなのですが、それをずっと続けられているのは、社長がビジョナリーだからだと思っています。人の感情に訴えるタイプですし、「人には承認される義務がある」という人なので、それに共感した社員が楽しく生き生きと働いているんですね。

私が入社を決めた理由もこの点で、ビジョナリーな社長のもと楽しく働いている社員がいるスタートアップなら、人事の仕事も必ずうまくいくだろうと思いました。

いずれ訪れる「ミドルマネジメント層」不足は逆算して対応

津田:カルチャーは創業者とそこに集まった人の雰囲気からできていくという話がありましたが、その場合後からジョインした人事の役割は何だとお考えですか?

薮田:その組織にとって何が大切で、何を残すべきかを分析することだと思います。今SmartHRは約100人の組織ですが、今後200人300人と拡大したら、どうしても変えないといけないことはでてきます。そのときに残すものと捨てるものを把握しておくのが人事の役割かなと。

津田:残すものと捨てるものは、どんな軸で判断しますか?

薮田:私の場合、入社後に全員と面談したときに「残したい文化と制度」と「あると嫌な文化と制度」をヒアリングして定性的に分析しました。

増井:面談をしたことで他に見えた課題はありましたか?

薮田:文化の話とは少しずれるのですが、将来的にミドルマネジメント層が絶対に不足するな、と。私が入社した頃から経営陣もうっすらとその認識を持っていたので、より「マネジメントを大事にしたい」ということを話すようにしています。

増井:そうなんですよね。特にIT系のスタートアップの場合、20代後半でマネージャー職に就くケースが多いからマネージャー自身が“フルスタック”ではない。結果、組織規模を拡大するときに必要なミドルマネジメントが圧倒的に足りなくなります。

だから、過去に在籍していた会社では「組織づくりができるマネージャー」と「PLが読めて事業づくりができるマネージャー」に分けました。今の会社はまだミドルマネジメントを置くフェーズではありませんが、100人規模になると必ず必要になるので、どんな人を採用すべきか考えているところです。

薮田:組織が拡大して縦や横に距離ができたり、コミュニケーションの数が減ったりするとミドルマネジメント層の存在が重要になりますよね。文化づくりにも重要なポジションなので、外部からの採用と内部の育成の両方に取り組んでいるところです。

ポイントは、カルチャーフィットしない人をどのタイミングで採用するか

津田:次に2つ目のテーマである「採用」について伺います。それぞれのカルチャーを踏まえた上で、採用時に重視するポイントはありますか?

増井:独自に作った「3C」という指標に合うかを重視しています。スキルや経験の条件は職種ごとにありますが、それ以外の部分が「コミュニケーション(Communication)」「コラボレーション(Collaboration)」「カルチャーフィット(Culture)」の頭文字を取った3Cです。

Holmesは契約にまつわる非効率さやわずらわしさなどを解決する「契約マネジメントシステム」を提供しているので、「契約のペイン」に共感したコミュニケーションができない人は合わないんですね。経験上、契約のわずらわしさを知っている人は共感性が高いです。

コラボレーションとは、既存メンバーとの協調のこと。30人規模の組織の場合、1人のメンバーが与える影響が大きいので、スキルや経験よりも既存メンバーとコラボレーションできるかどうかを重視しています。最後はどの会社でも大事なカルチャーフィット。3Cは現在のフェーズでとても大切な指標です。

薮田:僕は「カルチャーフィットしない人」をどのタイミングで採用していくかが悩ましいポイントだなと思っています。

増井:それは深いですね。

薮田:新しい価値を作り出すには、カルチャーにマッチしない人を仲間にして多様性を生み出す必要があります。ただ、そのタイミングと割合が難しい。

増井:まさに、時価総額1000億円の会社にするためのロードマップを描いているのですが、実現するためには、今のカルチャーに合う人ばかりを採用していたのでは、いくら経っても次のフェーズにはいけません。薮田さんの言うように、進化する新しいカルチャーに適応する人材を採用するタイミングの見極めは悩ましいですね。

佐藤:そこでいうと、僕らは国籍やタイプなど毎回違う人を採用しています。だから小規模ながらかなり多様な組織になっています。管理部のメンバーを採用するときも、既存社員が「自分とは違うタイプの人がいい」とはっきり言ってくれました。

エンジニア採用に関しては、世界中で誰も作っていないロボットを作るために、エンジニア自身が仲間にしたい人を国内外から見つけて採用しています。ただ、規模が拡大するとそれは難しくなるので、そろそろ採用プロセスの見直しや詳細設計が必要だと考えています。

スタートアップは、1日でも早く評価制度を導入すべし

津田:それでは、最後のテーマ「評価制度」について伺います。組織づくりのためにどんな制度を設計しているのか教えてください。

増井:しっかりとした評価制度はまだ設計できていませんが、隔週のWINパーティーで全メンバーがプレゼンするOKRの運用は徹底しています。

スタートアップに必要なのは外発的動機よりも内発的動機です。それを最大化するのがWINパーティー。掲げた目標に対する行動と結果を全力で承認することで全員がこの場にいる意味を感じ、モチベーション高く目標に向かえる環境を作っています。

薮田:スタートアップは、とにかく早く評価制度を設計して始めることがすごく大切だと思います。というのも、評価制度は1年経たないと、その制度は果たして自社に合っているのか否かが分からないから。少しでも早く導入して、自社に合う形へと変えていく必要があると思っています。

SmartHRでは、早いタイミングから等級制度を導入し、誰が何等級なのかを全社員にオープンにしているます。もし導入が遅くなっていたら「なんでこの人がこの等級なのか」といった不満が出やすくなると思うので、等級制度の導入、ましてや等級をオープンにするということは難しかったのではないかと思います。

佐藤:たしかに、制度設計は今一番の課題です。まだ小規模の会社なのでコミュニケーションだけでワークしていますが、15人になるまでに設計したいと思っています。ただ、そうなると、評価者の育成と目線合わせが課題になりますよね?

増井:それも適所適材だと思います。メンバーをフォローするのが好きな人と数字を追うのが好きな人のマネジメントスタイルは違うので、いろんなタイプのマネージャーみんなで成長していくのが大切だと思いますよ。

津田:Coral Capitalもまだ5人の組織なので、それぞれの感覚と感性でいい連携を生み出せていますが、今後人数が増えていく中で、カルチャーに基づいた仕組みが必要になってくると感じているので、とても勉強になりました。

今回は、組織づくりについてカルチャーと採用、評価制度の3方面からお話を伺いました。今後も「ヒト」という軸を通じてスタートアップの成長により貢献していくため、定期的に情報交換をできればと思います。今日は貴重なお話、ありがとうございました。


Coral Careersについて
Coral Capitalでは、今回登壇いただいたSmartHR、Holmes、Connected Roboticsをはじめとしたスタートアップと、そこでのキャリアに興味がある方を繋ぐ “Coral Careers” というコミュニティを運営しています。毎月Coralが開催するスタートアップイベントの情報や、投資先スタートアップとのカジュアル面談の機会の提供など、中長期的にスタートアップでのキャリアを検討する上で役立つコミュニティになっています。ご興味がある方は、ぜひこちらから詳細をご確認ください。

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Ryo Tsuda

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