自社サービスの営業資料の価格表を熱心に見てくれている顧客に対して、資料の画面上から直接チャットで接客、商談のアポイントを設定できるーー。
Coral Capitalの投資先でもあるnocoが7月、顧客の温度感が最も高いタイミングで営業アプローチをかけられるというクラウド顧客獲得ツール「nocoセールス」をリリースしました。
近年では多くの企業がSFAやCRM、MAなどのマーケティングツールを導入して大きな成果を上げています。しかし、導入企業のほとんどはITリテラシーに長けたスタートアップや、豊かな経営資源を誇る大企業が中心。Salesforceが提唱した「The Model」型の営業スタイルも、人材やITリテラシーが不足しがちな中小企業では導入のハードルが高いのが実情です。
nocoセールスはそうした営業現場の“格差”をなくすことを目標に掲げ、営業が1人しかいないような中小企業でも、短いサイクルで効率的に顧客を獲得する「ファストセールス」を実現すると言います。nocoセールスは営業プロセスをどのように変えるのでしょうか。noco代表の堀辺憲さんに聞きました。

noco代表取締役の堀辺憲さん
クボタや住友スリーエム(現 3M Japan)で、コンシューマー・DIY・建築関連製品・ヘルスケアなどのBtoBおよびBtoC製品の営業、マーケティングに携わる。2012年、ディー・エヌ・エーに入社。企業広報および危機管理広報に従事。2016年、mixtape合同会社を設立。共同創業者兼COOとしてフォーム作成管理ツール「formrun」の事業開発に携わる。2017年5月、nocoを設立。代表取締役に就任。SaaSクリエイターとして、マニュアル&ナレッジ管理アプリ「toaster team」やクラウド顧客獲得ツール「nocoセールス」の企画・設計・開発を手がける
「いつもの営業資料」をアップ→温度感の高い顧客を絞り込める
nocoセールスでは、企業がふだん使っている営業資料(製品カタログや会社案内、ホワイトペーパー、ピッチデックなど)のPDFファイルをアップロードすると、固有のURLが生成されます。そのうえで、あらかじめ登録しておいた見込み顧客を選択し、資料のURLとともにメッセージを送ります。
それだけであれば単なるファイル共有サービスと同じですが、nocoセールスでは見込み顧客が資料を開封すると通知が届くので、メールで営業資料を送るときにありがちな「先日お送りした資料はご覧いただけましたでしょうか…?」のようなやりとりが不要です。

資料の開封や閲覧状況、行動履歴、チャットメッセージをリアルタイムで通知する
nocoセールスならではの特徴は、資料の閲覧状況をリアルタイムで把握できること。資料の各ページの閲覧数や滞在時間をビジュアルで表示します。興味関心度や嗜好性、購買意欲を可視化することで、自社製品やサービスに興味を持っている見込み顧客だけを絞り込めるというわけです。
「営業資料をメールに添付して送る場合、見込み顧客が価格ページを熱心にご覧になっていたとしても、セールス担当者はその事実を知るすべがありませんでした。従来の営業活動ではすべての見込み顧客を並列に扱って対応したり、『このお客様は購買意欲が高いのではないか?』 と、いわゆる営業の勘に頼ったりしていたわけです。本来であれば、お客様の興味や関心が高いと確認できた状態、つまり温度感に応じて優先順位を変えるべきですよね」

資料の閲覧状況や行動履歴をグラフとデータで表示する
温度感の高い顧客に資料画面上でチャット接客、商談設定
資料の表示画面にチャット機能を搭載しているため、顧客は資料を見ながらその場で問い合わせができます。また、複数の日程調整ツールと連携しているアポイント機能を使えば、資料の画面上から直接、商談予約も可能です。
nocoセールスを使えば、資料を閲覧している温度感が高い顧客に絞って、「よろしければオンラインで30分ほどご説明のお時間をいただけますか」などと後押しすることで、商談化率や顧客の購買意思決定を高められると堀辺さんは説明します。

資料の表示画面上にチャット機能を搭載。電話やメールの連絡よりも素早く接客できるため、顧客の意思決定を高めることができるという
「nocoセールスでは、見込み顧客が資料のどのページを閲覧していたかを把握できます。例えば自動車メーカーであれば、特定車種のページを熱心に見ていただいていた方に対して、『店頭で試乗が可能なので、週末にお店にいらっしゃいませんか?』とチャットで呼びかけたり、その場で日程調整ツールを使ってアポイントを設定することが可能です」
堀辺さんは「成約する可能性が高いのか低いのかわからない見込み客へ無差別にメールを送ったり、何度も電話をかけ直したりする必要がなくなるので、営業にかかる工数の削減はもとより、営業活動における精神的な負担も削減できるんです」と胸を張ります。
ドキュメントやコンテンツ共有に付加価値を与えるサービスとしては、すでに米国発のインバウンドマーケティングのプラットフォーム「HubSpot」や2021年にDropbox社に買収された資料共有ツール「DocSend」などが人気です。しかしHubSpotにはnocoセールスのような資料の行動履歴を分析するトラッキング機能がなく、DocSendにはコミュニケーション機能やCRM機能がありません。「nocoセールスは資料共有やトラッキング機能に加えて、チャットコミュニケーション、CRMの4つのツールをワンストップで使えるのが強み」と堀辺さんは話します。

営業資料やホワイトペーパーをまとめた資料専用サイトをノーコードで作成できる
いま「ファストセールス」が求められるワケ
マーケティング活動を通じて獲得した見込み客に働きかけて顧客に変える。
言葉で表すと、たったこれだけの文字数で済む営業活動ですが、蓋を開けてみると、見込み顧客リストや提案資料の作成、複数回にわたるメールや電話による連絡、顧客管理ツールや日報への記入など、ファーストコンタクトからクロージングに至るプロセスには膨大な工数が詰まっています。
「営業活動にまつわる煩雑なプロセスや手間を取り除き、営業の本質である顧客の課題を解決し、価値提供に向き合う時間を創出するのがnocoセールス」と語る堀辺さんは、短いサイクルで効率的な営業活動を実現する仕組みを「ファストセールス」と名付けています。
「ファストフードやファストファッションが、本来トレードオフの関係にある安価で高品質な商品を市場に提供する取り組みであるなら、ファストセールスは最短で見込み客をつかみ売上につなげるものです。他者にモノやサービスを買っていただくために必要なプロセスを踏まえつつ徹底的にムダを省く。それがファストセールスであり、nocoセールスが目指すところです」

メールによるファイル添付と、nocoセールスによるファイル共有の違い(nocoのサイトより転載)
しかしなぜ、営業プロセスをファストセールス化すべきなのでしょうか。その理由として堀辺さんは、営業に求められる役割が多角化していることを挙げます。
「ひとりあたりの営業効率を考えた際、営業しか出来ない営業専任者というポジションは難しい時代に直面しています。とくにコロナ禍以降、営業がマーケターのようにリード獲得のためのウェビナーを主催したり、反対にマーケティングがアウトバウンドセールスを行うなど、複数の業務を兼任する『アクイジションミックス(顧客獲得の融合)』が進んでいて、1人の営業にかかる負荷は増すばかりです」
とりわけ、「ヒト・モノ・カネなどリソースに余裕がない中堅・中小企業の営業現場は過酷」だと堀辺さんは指摘します。
「営業部門とマーケティング部門では利用しているツールが異なるため、データや情報の連携が進まないケースが珍しくありません。見込み顧客に連絡するためにメールアドレスを一つひとつスプレッドシートからコピペするような単純作業も、積み重なれば膨大なロスを生みます。労働人口の減少が確実視されるなか、いつまでもこうした状況や業務プロセスの見直しを行わなければ、本来時間を費やすべき戦略・戦術の立案や仮説検証、さらに顧客に向き合う時間も減るばかりです。私たちがファストセールスを掲げるのは、営業やマーケティングの経験やスキルセットが不足していても、誰でも簡単に質の高い顧客の獲得活動を実現し、顧客との新しい関係を築く環境こそが今の日本に必要だと考えています」
Salesforceが実践する「The Model」は、データに基づく科学的アプローチで営業プロセスの革新を実現する手法として注目を集めていますが、専任のマーケティング担当者やカスタマーサクセス担当者を置く余裕がない中堅・中小企業にとっては導入のハードルが高いものでした。しかし、nocoセールスであれば仮に営業が1人しかいなかったとしても、「スマホを使いこなせるぐらいのITリテラシーがあれば、オンライン集客からクロージングまでに必要なほぼすべての作業を営業主導でマーケティング活動も簡単に実現できる」と言います。
「ファストセールスに必要なのは難しいSFA/CRMツールではなく、ふだん使いの手帳のようなガジェット感覚で使えるツールであるべきではないでしょうか」
個人事業主にも使える価格帯で営業プロセスの改革を狙う

資料にCTAや商談アポイントを設置できるなど、営業を自動化する機能も搭載している
nocoセールスは7月5日のリリースからわずか3日間で、50社を超えるユーザーを獲得するなど、好調な滑り出しを見せています。利用料金は月額利用料がかからない無料プランと、月額15,000円(税別)のエントリープラン、月額30,000円(税別)のスタンダードプランを提供しており、無料プランでも十分な機能が利用できる点が特徴です。各プランの違いはユーザー数の違いによるものであり、利用できる機能に違いはありません。
「多くの方に利用していただきたいという思いから、料金は個人事業主にも手が届く価格帯に設定しました。営業の現場を知る人から、『こういうサービスを待ってました!』とご評価いただき、過去に手掛けたどのサービスよりも反応がよく、大きな手応えを感じます。私自身、かつて製造メーカーで法人営業に十数年携わった経験があるのですが、残念ながら当時と同じく非効率で非連続な営業の業務プロセスが、いまも効率化されずに残されていると感じています。今後は経験や専門知識がなくても誰でもクイックに使えるnocoセールスの普及を通じて、営業やマーケティングの枠にとらわれない顧客の獲得活動を誰でも楽しめる機会にし、現場に横たわるムリやムダ、面倒、精神的な負担を駆逐できればと思います」
ゆくゆくは、営業マテリアルである「資料」だけにとどまらず、オンライン営業のさまざまなタッチポイントをオールインワンで作成・管理できる顧客獲得のプラットフォームへと進化させたいと語る堀辺さん。まずは当初目標である「2022年度中に500社導入」を目指します。
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