fbpx

投資判断の舞台裏(2): 投資時からクロスボーダーM&Aも想定していたポケットコンシェルジュ

こんにちは、Coral Capitalパートナー兼編集長の西村です。先週から新たに開始した「投資判断の舞台裏シリーズ」の第2回です。

Coral Capitalの澤山(左)と西村(右)

毎月投資を検討する300〜400社のスタートアップの中から投資に至る1、2社とのコミュニケーションがどのようなものか、またそのときの投資判断のロジックをお伝えするのがシリーズの狙いです。外向けの情報発信としては少しヘンに思われるかもしれませんが、新しく8月にCoralにジョインした西村がCoral Capital創業パートナーの澤山陽平に話を聞く形で記事にしています。

前回は「投資判断の舞台裏(1): コスメ動画アプリに見えて実は違う、NOINはEC前提のプラットフォーム」と題して、なぜレッドオーシャンに見える動画アプリに投資をしたのか、ということの背景を、澤山の言葉でお伝えしました。動画アプリがたくさん出てきているので、NOINも一見その1つに見えるものの、実際にはまるっきり逆。「動画→広告やECでマネタイズ」ではなく、「化粧品ECアプリ→動画を活用」というモデルであったことが出資を決めた理由の1つだとお伝えしました。

第2回の今回の記事も、投資先ポートフォリオ約50社の中からC向けサービスの1社、厳選された高級レストランの予約サービス「ポケットコンシェルジュ」について、どう投資に至ったかを紹介します。同社は、すでに2019年1月にアメリカン・エクスプレスによるM&Aでイグジット済みですが、実はCoral Capitalの前身である500 Startups Japanの第1号出資案件でもあります。

出資を決めたばかりのときのポケットコンシェルジュの空っぽのオフィスで撮影した1枚

元料理人だからこそ築けたネットワークの価値

「2012年頃、まだ社名がポケットメニュー(後にポケットコンシェルジュに社名変更)という会社名だった頃から知っていました。代表の戸門慶さんが料理人でありながら起業するというところに興味を惹かれました」(澤山)

戸門さんは実家が料理屋だったことから、料理人として約8年の下積みを経験した後に、テクノロジーを使って店舗側のペインを解決するサービスを2011年に立ち上げています。下積み時代から飲食コンサルをしながら財務や会計、経営戦略を学んでいたと言います。

下積み時代に研究のために食べ歩いた高級料理店の人脈を存分に生かし、「予約の取れない店のネットワーク」を戸門さんが持っていたことも、出資を決めた理由の1つと澤山は話します。

「元料理人だからこそ、高級料理店の人たちの気持ちがわかり、他の人にはできないネットワークをつくることができたし、対象の店舗を拡大することもできたんです。例えば、いきなり営業に行くのではなく、必ず誰かに紹介してもらって、お手紙を送って、1度食べに行って、その後の閉店後に飲んで、それからポケットコンシェルジュの話をする、といった具合です。そういう業界のお作法を分かっているというところが重要でした」

「大きく伸びる可能性も感じたし、海外からのインバウンドも増加トレンドにあります。さらに、こうした日本の高級料理店をクライアントにするのは、特に海外企業にとっては非常に困難と想定されることから、どこかのタイミングで海外企業に買収される可能性もあると考えていました」

500 Startups Japan時代から今に続くまで、Coral Capitalは海外企業や海外ファンドとのつながりを多く持っているので、クロスボーダーのM&Aも当初から念頭にあったといいます。実際アメリカン・エクスプレスの子会社となったことで、現在ポケットコンシェルジュは英語を使っての予約や空席確認などでサービスを成長させています。

念のために付け加えますが、起業家側から投資家へのピッチで「たとえ大きく伸びなくても、うちを買ってくれる会社は、こことあそこと全部で4社ありますよ」と話すのは出資を求める場合には逆効果の面もあります。Coral Capitalの投資を決めるパートナーミーティングで良く出てくるフレーズに、「いろいろ話を聞いていると、割とすぐに売却したいタイプの起業家に見えた」というものがあります。これはネガティブ材料です。もちろん最初からM&Aを狙って「当てに行く」ような起業も素晴らしいと思いますし、もしそれができるという自信がある人はどんどんやるべきだと思います。ただ、Coral Capital創業パートナーのJamesがいつもミーティングで口にしているのは、「でもさ、10年後に日本を代表する企業になるかな?」という言葉です。ポケットコンシェルジュのように良いシナジーのあるM&Aでイグジットするのは素晴らしいことですし、私たちの立場は「ファウンダーファースト」。ファウンダーの選択を尊重します。良いタイミングでM&Aのチャンスがあり、それをファウンダーが望むのであれば全力でサポートします。ただ、Coral Capitalのマニフェストに書いてあるように、私たちは常に「ヒットではなくホームランを狙ってスイングしている」起業家を支援したいと考えています。

+ posts

Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

Partner @ Coral Capital

Coral Insightsに登録しませんか?

Coral Insightsのメーリングリストにご登録いただくと、Coral Capitalメンバーによる国内外のスタートアップ業界の最新動向に関するブログや、特別イベントの情報等について、定期的にお送りさせていただきます。ぜひ、ご登録ください!

  1. Coral Capital
  2. >
  3. Insights
  4. >
  5. Coral・投資先紹介
  6. >
  7. 投資判断の舞台裏(2): 投資時からクロスボーダーM&Aも想定していたポケットコンシェルジュ

Load More