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スタートアップ3社が議論、成長するSaaS企業のカスタマーサクセスとは

Coral Capitalが2020年2月8日に主催した日本最大級のスタートアップキャリアイベント「STARTUP AQUARIUM」。当日は参加スタートアップ30社によるピッチのほか、14のセッションを行いました(概要レポート掲載記事一覧)。

この記事では「カスタマーサクセスの仕事を深掘りする」というテーマで展開したパネルディスカッションの模様をお伝えします。各スタートアップのカスタマーサクセスとして事業を支える3人が、この比較的新しい仕事についてや、必要な資質、マインド、そしてこれからのカスタマーサクセスのあり方について語りました。登壇したのは、SmartHRの高橋昌臣さん、Holmesの吉田倫子さん。そしてHiCustomerの高橋歩さんがモデレータをつとめました。

「社内外の橋渡し」と「顧客との伴走」という役割

そもそもカスタマーサクセスとは何でしょうか? 辞書的な定義でいえば、SaaS系の企業で出てきた新しい職種・部門で、顧客のビジネス上の成功を最大限にサポートするというものです。従来のカスタマーサポートと異なり、顧客から問い合わせや要望があって初めて動くだけではなく、プロアクティブに顧客を支援するのが違いです。

カスタマーサクセス管理サービスを提供するHiCustomerの高橋さんは、カスタマーサクセスの役割を「顧客とプロダクトの間に入って橋渡しすることや、顧客の業務や運用フローにおいて生じる課題を理解し伴走すること」だと定義します。その前提のもと、カスタマーサクセスを「社内外のハブ」と表現しました。

同じカスタマーサクセスでも顧客の企業規模によって組織体制は変わります。企業規模、売上、対象顧客ともに急成長中のSmartHRの高橋さんは「エンタープライズへのシフト」を議論のテーマに掲げました。

「創業時は10〜20名ほどの企業が主なクライアントでしたが、サービスの成長に伴い、顧客企業の規模は100名規模から数千名規模、現在では最大10万名規模になりました」

「その変化に応じる形で、昨年から大企業に対応できる体制にしました。カスタマーサクセスを3名のユニット制にし、2名のベテランと1名の若手でチームをつくっています。副次的なメリットですが、3名体制にすることで教育体制の整備にも繋げられました」

「全てのお客様との満遍ないコミュニケーションを達成できるようになったと実感しています。1人で複数社を担当するシステムのときは担当者がパンクするリスクがありました。現体制だと、クライアントとのコミュニケーションの漏れを確実に防げます」(SmartHR高橋さん)

SmartHR 高橋昌臣さん

「ユニット制すごくいいですね。1名体制による『俗人化』を課題に感じているので、ユニット制による解決はものすごく良いと思いました。1名体制だと、進捗が不透明になりやすかったり、顧客の成功体験が担当者の力量に左右されやすいからです」(Holmes吉田さん)

カスタマーサクセスで「型」をつくる難しさ

カスタマーサクセスの俗人化を課題に掲げるHolmes吉田さんの話を起点にして「カスタマーサクセスの仕組みづくり」というテーマに移行。Holmesの吉田さんとSmartHRの高橋さんは以下のように述べます。

「誰が担当しても、顧客に高い価値を提供できる体制を作るためには『型化』が必要です。型を作るためにはとにかくお客様と向き合って、具体的な事例から共通項を抽出していかなければいけません。いかにPDCAを回し続けるかが肝ですよね」

「ただ、型にこだわりすぎて失敗してしまったこともあります。お恥ずかしい話ではありますが、事業規模に拘らずに課題解決の型をもってお客様に対応してしまったことでお客様のオンボーディングがうまくいかない事案がありました。事業規模なども加味した再現性のある仕組みの作り方を知りたいです」(Holmes吉田さん)

Holmes 吉田倫子さん

「サービスの使い方に関する動画作成と配信はカスタマーサクセスの仕組みづくりでうまくいった事例のひとつですね。お客様がサービスを使い始めるまでに動画を見ていただくことで、お客様がサービスの使用を開始したときのオンボーディングが比較的スムーズになりました」

「エンタープライズへの型化について話すと、大企業の場合だと企業ごとに運用パターンが全く違うので、エンタープライズ向けに型化すること自体難しいと考えています。ただ、パターンの蓄積を増やして、仕分けしていけば、業務の効率化には繋げられますよね」(SmartHR高橋さん)

これらの意見をまとめて、HiCustomerの高橋さんは、以下のように話します。

「『型化』と言いすぎると、カスタマーサクセスの仕事は、マニュアルに忠実に則ったものになるのではないか……?と勘違いされてしまうのではないかという懸念もあります。そうではなくて、仕事の基準を作るために型をつくっているのだという解釈をしていただければと思います」

「型化の目的は、基準づくりです。カスタマーサクセスに関わる人が一人ひとりのお客様の新しい声や課題にチャレンジして、その結果を型にすることで、課題解決のプロセスや結果を蓄積する。それだけでなく、既存の仕組みをブラッシュアップすることで、お客様の満足度が高い課題解決方法を提供できるようになります」

「型化することで、カスタマーサクセス担当者の行動に『基準』や『ルール』が生まれます。例えば、導入期間中にお客さんが1度もログインしていないとします。そのときに、『お客様に連絡をする』などのルールがあれば、お客様の離脱を防げる可能性が高まりますよね」

「基準があれば、お客様のデータを見る時間が効率化されますし、効率化されればその時間を一人ひとりのお客様との対峙にあてられます。基準づくりによって仕事を効率化し、お客様の声を聞く時間を増やすことが何よりも大切だと思います」(HiCustomer高橋さん)

HiCustomer 高橋歩さん

「プロダクト創造者」としてのカスタマーサクセス

顧客の声とプロダクトのハブとも言えるカスタマーサクセス。カスタマーサクセスとして、お客様の声をプロダクトに反映させるためには何が必要なのか。

この疑問に対して「お客様の声をどのようにして聞いて、サービスに反映していますか?」というHiCustomerの高橋さんの問いに2人が答えます。

「まさに悩んでいるところです(笑)。現在、カスタマーサクセスの目的やあり方を変えつつあります。従来は『Holmesの世界観を伝えるためには何をすべきか』に重きを置いていましたが、今は『お客様の声をどう反映させるか』に、さらに力を入れようとしています」

「お客様の声が蓄積され、改善すべき点や重視すべき点の優先順位のつけ方は、悩んでいます。今は、自社の世界観や提供したい価値とお客さんの要望のバランスの取り方をしっかりと検討していく準備をしていきたいと思っている段階ですね」( Holmes吉田さん)

Holmesの吉田さんの話は「お客様の声をプロダクトにどのように反映させるか」と「お客様にプロダクトの価値をどう伝えるか」という2つのバランスの取り方が難しい、というふうにまとめられそうです。これに対してSmartHRの高橋さんが話します。

「プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)という存在を置くことによって、お客様の声の反映の仕組みの効率化に繋げています。プロダクトマーケティングマネージャーは、

  • 誰に対して
  • 何が売れるのか
  • どうやって使ってもらえるのか

という視点をもって、開発とビジネスのハブとしての役割を担います。従来は、この仕事をプロダクトマネージャー(PM)が務めていました。けれどもSaaSの場合だと、機能が日々増え続けるので伝達漏れや、意図しないプロダクトの使われ方がされていることもあります。プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)を置くことで、お客さんが満足する機能の開発を加速させやすくなるのではないかと思います」

「『お客さんの声を集める』という視点ではカスタマーサクセスが活躍すべきです。お客様と一番近い存在はカスタマーサクセスだからです。カスタマーサクセスは『顧客の課題と要望を集める』役割なのです」

「SmartHRでは、カスタマーサクセスとPMMという立場を分けることで、カスタマーサクセスがお客様の声を集めて、その先にある課題を深掘りして蓄積した後、PMMにその情報を共有する。PMMはプロダクトの改良に必要なものを整理するというフローが完成しました」(SmartHR高橋さん)

カスタマーサクセスという職種に向いている人

カスタマーサクセスに向く人はいるでしょうか? SmartHRの高橋さんは「カスタマーサクセスに向いている人をはっきりと定義することは難しい。会社のフェーズや対象とする市場、事業内容によって、必要なスキル自体は変わってくるからです」と前置きをした上で、カスタマーサクセスに携わる人に必要なマインドについて、以下のように述べました。

「カスタマーサクセスとしてお客さんと関わる上では、常にお客さんの理想の状態から逆算して考えられるかどうかが大事です。お客さんが『何に困っているのか』『何を必要としているのか』などのように、顧客の気持ちを第一に考えられて、社内で議論する際においても、会話の『主語』にできる人がカスタマーサクセスに向いていると思います」

「『私たちがこういう価値を提供したい』という姿勢で話すのではなく、『お客さんが〇〇を求めているから、こういう機能が必要だ』と提案できる……、といった姿勢です」(SmartHR高橋さん)

これに対してHolmesの吉田さんは以下のように付け加えました。

「カスタマーサクセスは、会社のファンを作っていく仕事です。会社やサービスを好きになってもらうためにも自然にお客さんのことを思いやったり、好きになれる人はカスタマーサクセスに向いていると思います」

「転職する際にはカスタマーサクセスの経験者である必要はないです。ただエンタープライズ向けの事業の場合は、コンサルティングの経験がある人の需要は高いと思います。……、というより、我々が顧客の問題をどう解決していくかを提案できる方がほしいです。ぜひコンサルティング経験のあるカスタマーサクセス志望の方はお声がけください(笑)」(Holmes吉田さん)

(取材・文:馬本寛子)

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