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加熱する米中摩擦、TikTokは中国から米国に軸足を移すか

先週、TikTokを中国企業のBytedanceからスピンアウトさせることに向けて、SequoiaとGeneral Atlanticが交渉中であることが報じられました。TikTokは米国や日本など様々な国のアプリストアで常に上位にランクインしている人気アプリです。そんなアプリを切り離すなど、普通なら考えられないようなことをなぜBytedanceは検討しているのかと、不思議に思われるかもしれません。

しかし、Bytedanceには他にあまり選択肢が残されていないようです。インドでは60近くの他の中国製アプリとともにTikTokの使用が禁止されましたが、今後は米国でも禁止になる可能性があります。実際、米国のポンペオ国務長官はTikTokなどの中国製SNSアプリの規制を検討しているとすでに発表しています。テック企業を規制するのは、まったくアメリカらしくないやり方ですが、ここ最近の一連の出来事を見れば、規制を必要とする理由が十分にあることがわかります。

3か月前、とある研究者の告発によりTikTokがデータマイニングシステムであることが発覚し、ユーザーがクリップボードにコピーした内容など、様々な個人情報を抜き取っていることがわかりました。これを受け、AmazonWells Fargoなど、多くの企業が従業員にTikTokをスマホなどから削除するよう促しました。この一件は連鎖反応の引き金になったかもしれませんが、TikTokのセキュリティ上の懸念自体は今に始まったことではなく、かなり前から指摘されていました。昨年12月の時点で、アメリカ国防総省はTikTokを国から支給されたモバイル端末から削除するよう、米軍関係者全員に指示しています。

個人情報の保護は言うまでもなく重要ですが、実はTikTokがやっていることはFacebookとそれほど変わりません。他のテック企業も似た方法でデータを収集しています。では、なぜTikTokばかりが問題視されるかというと、それは中国共産党とつながっている可能性があるからです。他の多くの企業と同様に、TikTokのプライバシーポリシーには「当社の企業グループに属する他の会社、子会社、または関連会社にお客様の情報を共有することがあります」と書いてあります。Bytedanceによると、TikTokは中国国内の他の事業からほぼ切り離されていて、ユーザーの情報は中国には保管されていないとのことです。しかし、中国企業であるBytedanceの管理下にある限り、どうしても懸念は残ります。

中国のネット企業は、国家情報法に基づき、中国政府が要求するあらゆるデータを引き渡すことが義務付けられています。データの要求が及ぶ範囲は中国国内だけにとどまらず、例えば米政府がFacebookにデータを要求する場合のように、令状や裁判などといった手順を踏む必要もありません。

しかも、TikTokは実際に中国政府からの圧力をほのめかすような行動をしてきているため、より一層懸念が高まります。天安門事件やチベット独立運動香港のデモ#BlackLivesMatterに関連するコンテンツの検閲などはほんの一例です。また、中国政府が検閲を行えるということは、逆に彼らの宣伝に使われるおそれもあるということです。世界中の何百万人もの人々に影響を与えられるこのアプリは、それを自在に管理できる中国共産党にとってかつてないほど強力なプロパガンダツールになり得ます。彼らの思想を支持するコンテンツや、戦略的に都合がいい政治家候補を後押しするコンテンツなどを積極的に配信することもできるでしょう。なんの制限もなくこのように利用されてしまっては、各国の政府にとって深刻な事態を今後招く可能性があります。

このような状況であるため、中国系以外の株主を過半数としたスピンオフを実行するか、または一部の国で禁止されることを受け入れる以外にTikTokに道はないと言えます。Bytedanceのこの窮地は、同社の株主でもあるSequoiaおよびGeneral Atlanticにとっては利益を生み出すチャンスです。そして、私たちのような第三者とっては、インターネット界に将来起こり得る変化を示唆しています。1997年に中国のグレート・ファイアウォールが作られて以来、インターネットは主に「中国」と「世界」の2種類に分断されてきました。中国ではこの相反するインターネットが混在した状態が何年も続いてきました。しかし、中国企業が海外展開に向けて意欲的になるにつれて、2つインターネットの違いは次第に無視できないものになっていくでしょう。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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