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スタートアップにおけるマーケティング

マーケティングとは、プロダクトやサービスがろくなものではない場合、あるいはマージナルカスタマー(限界顧客: 購入額の低い顧客、または遠隔地で営業力の低下が避けられない地区や営業費用がかさむ地区の顧客のこと)一人当たりに対する利益が非常に大きく、それによる利益の一部をさらなる顧客獲得に使わない手はないという場合(コカコーラ、Zynga、バドワイザー、バイアグラなど)にするものだと私は考えます。

経験豊富な大物起業家が先週、彼が最近立ち上げた新しい会社を売り込むために私のオフィスにやってきました。売り込みの最後、彼は、私たちにいくつかの数字を示しました。通常、創業間もないスタートアップ企業なら、ほぼすべてのプロダクトや開発費用(開発チームの人数)を確認するようにしています。しかし彼の計画では、顧客獲得用の予算が毎月計上してありました。彼が帰った後、私たちは彼の計画について話し合い、他のパートナーたちはその顧客獲得数に注意を向けました。私たちにはそれが引っ掛かったのです。どこかおかしな感じがしたのです。

そこで、2、3日後、私は彼に電話をしました。彼の計画やピッチの内容について良いと思われる部分や良くないと思われる部分を話し合いました。その際、私は顧客獲得の方針について指摘しました。「どの会社もマーケティング予算は必要です」と、彼は言いました。その返答は力強く聞こえましたが、実際のところ我々の投資先企業のうち、特に成功した企業で、最初の事業計画にマーケティング予算を入れていたところは一社も無かったのです。

Zyngaは顧客獲得に何百万ドルも費やし、今もそれを続けています。しかし、まだZyngaが社員数が3、4名の創業当時、開発されたばかりのFacebookプラットフォームでTexas Hold’emを発表した時には、彼らはマーケティングには一銭も費やしてはいませんでした。Facebookプラットフォーム上で発表するという計画自体tが、その当時、彼らの非常に優れた点だったのです。Facebookプラットフォームは無料で提供されていました。Zyngaはその無料配信を利用し、何百万ものユーザ、利益、そしてさらなるゲームを生み出しました。彼らがマーケティングを始めたのは、その後の話です。

私は、ハーバード・ビジネス・スクールでの講演で「スタートアップ初期には、プロダクトの決定は直感に従うべきだ。データに従うのはその後だ」と述べました。それ以降、その言葉は幾度となくツイートされました。人々がその法則を気に入ったのは明らかでした。そしてこの言葉と似た言葉は、もうひとつあります。「スタートアップの初期には、顧客は無料で獲得すべきだ。顧客獲得に費用をかけるのは、その後だ」です。

では、起業時に無料で顧客を獲得しなければならないとしたら、どのようにしたら良いのでしょうか?ひとつの正確な答えがあるわけではありません。その方法は顧客が誰なのかや、営業の難しさ(ユーザーは一般消費者なのか企業なのか、無料なのか有料なのか等)によるところが大きいからです。私はSaaSビジネスに特化した事業には詳しくありません。よって、その分野の市場に関することはここでは触れないことにします。

一般消費者に対して、ウェブ上で無料配信をするのであれば、明らかに行った方が良いことがいくつかあります。

1) Twitter:これまでに私は実に多くの起業家から、「Twitterのない時代に、どうやって起業したのですか?」と尋ねられました。Twitterは、ZyngaがFacebookプラットフォームで使用したのと同様に、無料で使えるディストリビューションの手段です。自社プロダクトやサービスについての謳い文句をTwitterやFacebookで広めることができますし、活用すべきです。友人たちに、自社プロダクトやサービスについて投稿してもらったり、それをリツイートしてもらうことで、人々にそれを勧めてくれるよう促すのです。Twitter上にはコンピュータに詳しい人々が沢山たむろしていますから、ツイートやリツイートを目にし、多くの人々があなたのプロダクトを試してくれるでしょう。

2) ソーシャル・フック:あなたのプロダクトやサービスは、ソーシャルな要素がなければなりません。ユーザーが他の人々に勧めやすいようにしておく必要があります。FacebookやTwitterのなかに釣り針を垂らしておけば一目瞭然です。Eメールでの勧誘も有効な手段です。プロダクトは、人々がそのなかで自分を表現できるようにしておくべきです。ユーザーのプロフィール画面やカスタマイズできることにより、ユーザーたちはそのプロダクトに所有感を抱き、他の人々にそれを伝えてくれます。Foursquareが立ち上げ時にゲーミフィケーション要素を取り入れたのは、ソーシャル・フックの非常にうまい手法と言えます。ウェブ上では、ゲームはなによりもソーシャルなものですから。

3) 参入の入り口を見つける:MySpaceはリリース当時、Thomas Anderson(トーマス・アンダーソン)氏とChris DeWolfe(クリス・デウルフ)氏の友人であったハリウッド仲間のあいだでうまく立ち上がりました。Twitterは創業当時、Evan Williams(エヴァン・ウィリアムズ)氏、Biz Stone(ビズ・ストーン)氏、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏の友人のサンフランシスコのテックコミュニティの間でうまく立ち上がりました。また、Tumblrは創業者のDavid Karp(デイヴィッド・カープ)氏が所属していた「roll your own blog(自分のブログを発信しよう)」というアバンギャルドなコミュニティ内でうまく立ち上がりました。Quoraは、Facebook社OBのコミュニティでうまく立ち上がりました。そしてFacebookは、アイビーリーグのキャンパスで立ち上がりました。何を言おうとしているか、もうおわかりでしょう。お互いをよく知る、考えの似通った人々の特定のグループを探し、そのコミュニティに向けて立ち上げるのです。彼らが気に入ってくれれば、それがコミュニティ中に、やがてはそれを超えたところにまで広まります。

4) イベント:立ち上げを発表する、ライブイベントを探しましょう。SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、ブレイクする機会として有名です。TwitterとFoursquareが最もよく語られる、その二大事例です。SXSWはイベントが大きくなり過ぎたと私は憂慮しています。あまりにも多くの企業がSXSWでブレイクしようと計画しているため、もはやそれは起こり得なくなっています。いずれわかるでしょう。しかし、ユーザーたちを刺激するために参加できるライブイベントは他にもたくさんあります。GroupMeがオースティン市の音楽祭でそれを実現しました。Burning Manや(Airbnbがブレイクした)民主党全国大会、サンダンス映画祭などイベントでブレイクした企業の話も私はいろいろと耳にしています。

5) PR/広報活動:自社を無料マーケティングをするのにPR会社を雇ってはいけません。これはあなた自身が持つべき核となる能力です。あなたの奮闘を補うためにPR会社を雇うのは構いませんし、そうした方がいいでしょうが、それはまた別の話です。良い企業はどうすれば話題になるかを知っており、話題にさせるものです。ニューヨーク市にいるのは非常に有効です。Foursquareはその素晴らしい例です。Dennis Crowley(デニス・クローリー)氏とNaveen Selvadurai(ナビーン・セルバドゥライ)氏が自らのファッション写真を撮影するのを見て笑うこともできるでしょうが、それをすることで新たなユーザがどれだけ獲得できたかを考えてみてください。それは、彼らがこれまでにしてきた人目を引く行為と同様の行為でした。そして彼らはそれを何百回としてきました。常に記事になるものを欲しがるメディアはそれに食いつくのです。Twitterも独自で広告を行っています。Biz氏はその達人です。Biz氏とJack氏がプロダクトについて繰り返し口にしていたその時期に、Biz氏はブランド、ストーリー、鳥、ロゴ、世界におけるTwitterの意味について考えていました。そしてBiz氏はそこから抜け出し、そのストーリーを語り始めました。彼は伝道師であり、それを非常にうまくやりました。Twitterは、その努力なしに現在のTwitterにはなり得なかったでしょう。あなたの創業者チームにBiz氏やDennis氏のような人物がいないのであれば、それができる人物を探しましょう。しかし、PRに重点を置きうまくやっているスタートアップには、「メディア的DNA」をもつ人物が創業者チームのなかにいるものだということは言っておきます。

6) 検索:ある理由から、これをリストの最初に挙げることはしません。検索に依存するビジネスが面白いとは私は思わないのです。検索エンジン最適化によって生かされも殺されもします。Googleに振り回されるような企業になってはいけません。しかし、消費者向けのウェブブランドのトップ企業の多くは、高度に検索エンジンに最適化されていることには気づくことでしょう。Twitterをしている人物の名前を検索してみてください。彼らのTwitter投稿が、検索結果の最初の5件のひとつに上がっていることでしょう。私の名前がそうなっています(重複を除けば)。Flickrはこれを非常にうまくやりました。LinkedIn やCrunchbaseも然りです。検索エンジン最適化は、報いを得るのに時間がかかります。しかし自社プロダクトを初日から検索しやすくし、それを維持するべきです。プロダクトの改変が検索エンジン最適化を壊してしまうこともあるので、そうならないよう注意しましょう。

7) 開発者:開発者たちは新たなパワーユーザーだと私は度々口にしてきました。Twitterがその象徴的な例です。ほぼ完全にオープンなプラットフォームと超シンプルなAPIを立ち上げることで、Twitterは、「Twitter内部」のプロダクトを構築する何千人もの開発者たちを獲得しました。それらの開発者たちや彼らのプロダクトが、Twitterを市場に引き入れました。SoundCloudも、もうひとつの優れた例です。人々が音楽やその他のオーディオ体験を創造するのに使う、「SoundCloud内部」の莫大なアプリがあります。これらのアプリのそれぞれすべてが、SoundCloudの配信チャンネルです。それらがSoundCloudを市場へと引き込むのです。自社プロダクトを、初日からプラットフォームとして構築しましょう。いったんプロダクトの牽引力が生じれば、それがプラットフォームになるようなことをいろいろと行いましょう。Foursquareはこれをうまくやっています。彼らは最初に何百万人ものユーザを獲得し、今ではそのユーザたちがサードパーティの開発者たちの活気あるエコシステムを形成しています。実際に彼らはこれまでに開発者を集めたハッカソンイベント(Foursquare Hack Day)を開催し、成功させています。

8) 優れたプロダクトを構築する:出発点に戻って、終わりとしたいと思います。マーケティングとは、ろくでもないプロダクトを扱う会社がすることです。もし(FlipboardやInstagramやInstapaperのように)素晴らしいものを作れば、人々はそれが素晴らしいからという理由だけで採用してくれます。そして大したマーケティングをしなくて済みます、少なくとも最初のうちは、です。

これが、私がArnoldのマーケティングを経験して学んだことです。いかがでしょうか?

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