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Googleを退職してCoral Capitalにジョインしました

こんにちは! 西村賢と申します。2019年7月末にGoogleを退職して、8月1日からCoral Capitalでパートナー兼編集長として働き始めました。すでに、プレスリリースTechCrunch Japanの記事Forbes Japanの記事THE BRIDGEの記事、Coral Capital創業パートナーCEOのJamesのブログ投稿をご覧になった方もいるかもしれませんが、こちらでは自己紹介を兼ねて、個人的なことを含めて、これまでのスタートアップ企業との関わりを書いておきたいと思います。

スタートアップ界隈の方であれば、私のことを元TechCrunch Japan編集長として知っていただいているかもしれません。2013年から4年半ほど日本のスタートアップ企業を取材して記事を書いたり、TechCrunch Tokyoというイベントの企画・運営をする仕事に携わっていました。直前に所属していたGoogle Japanのスタートアップチームでは投資・買収を目的としたソーシングやアクセラレーター・ワークショップといったスタートアップ向けプログラムの運営、大学との連携プログラムの推進などに取り組んでいました。

「スタートアップ」が最初に気になり始めたのは2007年頃でした。当時、IT系ジャーナリストとしてクラウドやソフトウェアテクノロジーの動向を追いかけていた私は、Hacker Newsを読むのが毎日の楽しみでした。その頃に書いた記事の1つが「HDD以上に便利なオンラインストレージ“Dropbox”」でした。クローズドベータがローンチする2週間前のことです。あまりに他の類似サービスと実装アプローチが違うので、これは時代が変わると思って興奮したのを良く覚えています。その後のDropboxの素晴らしい成長は皆さんご存じの通り(2019年7月現在、時価総額は約1.1兆円です)。

2007年から2009年にかけて、Dropbox同様にY Combinator出身の起業家たちが、次々に革新的なサービスを打ち出して来ました。これは一体なんだろう、なぜこれほど次々とかっこいいサービスが生まれて来るのだろうかと感じていました。Y Combinatorが気になるあまり、シリコンバレーでGoogle I/Oの取材をするついでにY Combinatorの創業者たちをインタビューして取材記事を書いたりしていました。例えば、2009年に書いた「ネットで部屋を貸し借りして“人間らしい旅”を」という記事でAirbnb創業者たちにインタビューしたときには衝撃を受けました。クラウドやソーシャルといったネット技術側の地殻変動に加えて、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターという事業創出モデルによって、何かすごいことが起こりつつあるなと思いました。

iPhone 3Gをソフトバンクが販売開始したのが2008年6月ですから、モバイルの真打ちがコンピューターと人の関わりを変えはじめた時期でもあります。もともとLinuxフリークで個人でソフトウェアRAID(複数台のハードディスクを1つに束ねて耐障害性やパフォーマンスを上げる技術)を組んだりする趣味のあった私は、次々と出てきたAmazonのクラウドサービスや分散システムが面白くて、たくさん記事を書いていました。

まだ「クラウド」という用語が定まっていなくて、「Web OS」とか「プラットフォーム」という言い方もありました。今や押しも押されもせぬVCの第一人者となったAndreessen Horowitzのマーク・アンドリーセンは、2007年9月にこんな予言的なことを言っていました。

「今後数年で出てくる若い開発者たちはクラウド以外をターゲットにアプリケーションを書くことなど考えられなくなるだろう」(Web上に登場した3種類の“プラットフォーム”

20代の開発者だと、この発言の意図が、もはや分からないかもしれません。

2007年にアプリを書くといえば、デスクトップOS(Windows)かサーバーOS上(Unix上のJavaやPHP)で、それぞれのAPIを使って書くもので、クラウド上で動くコードは多くありませんでした。ついでにいえば、2008年末にChromeが登場して高速なJavaScriptエンジンが広まるまで、現在SaaSと呼ばれているソフトウェアの提供形態も、まだそれほど一般化していませんでした。

クラウドが変えたのは新サービス創出に必要となるシステムの初期コストの劇的な低下、それと拡張の容易さでした。2000年にテック企業を創業しようと思ったら、最初からワンショットで1億円。サーバーやルーターなどのネットワーク機器をデータセンターにセットアップするような世界だったのです。ところが2008年頃には数百万円程度で若者2、3人が3カ月ほどPMFを探りながらプロトタイプをするようなことが可能になりました。わずかな資金でスタートアップを創業して、世界的企業にスケールできるようになりました。しかも、株式を使った資金調達のエコシステムのおかげで、実験的なイノベーションが多産多死型として力強く世の中を変えつつありました。そういうダイナミックなシリコンバレーの様子をみて、メディアの立場ながら、私は日本でどうやったらY Combinatorのようなことが起こるのだろうかと思ったりしていました。実際、2010年にY Combinatorのパートナーに取材する中で「東京がシリコンバレーのようになるには何が必要か?」と聞いたことがあります。そのときの回答は「それは無理だろう」というものでした。ただ、あれから9年が経過して、本当に日本のスタートアップエコシステムも様変わりしたなと思います。

当時はハッカーが1人で作ったサービスが数百万人に使われるような成功事例がいくつもありました。Twitterですら、スタート時点ではきわめて素朴なサービスでした。そんなこともあって、私も自分で個人サービスを作ったり、会社の新規事業として新サービスをプロデュースしたりと、いくつかやってみたのでした。TechCrunch Japanの編集長を引き受けるまでは、フルタイムのエンジニアに転身しようと思って、4、5年ほどコンピューターサイエンスの基礎とプログラミングを独学していた時期があったほどです。

その頃に書いたのが「素人がWebサービスを作ってみて分かった9つのこと — Rails Hub情報局」という(とても長い)ブログ記事です。このブログ記事の「分かったこと8:本当にRailsを学ぶべき人は誰か」という箇所に、私はこんな風に書いていました。

「私はWeb(インターネット)には輝かしい未来があると思っています。だから動向がとても気になっています。Webベンチャーが好きで、よく記事も書きます。だから、習作として自分でもアプリを作りました。

その結果、プロじゃなくても、簡単なWebサービスは作れるということが私には分かりました。もっと多くの“非エンジニア”が実装スキルを学ぶべきではないかという気がしてきています。

ITは、ほかの産業と違って、既存の経済活動に作用してレバレッジを効かせることが価値であるという特性があります。どうITを既存業務に作用させるか、どうやってITなしで不可能なことを実現するかが価値です。だからこそSEの皆さんは“業務知識”を蓄えるわけですよね。その逆のアプローチとして「もう現場のキミがいちばん分かってるんだし、キミがコードを書いちゃえば?」というアプローチも、もっとあってもいいのではないかと思います。

医療、会計、法律、教育、出版、旅行、ファッション……、いろんな産業がありますが、各分野で本当にイノベーションを起こすべき人々は、今からでもプログラミングを学ぶべきじゃないかと思います」

非エンジニアがどの程度システムのことを学ぶべきかは議論があると思います。ただ、私の認識は2011年から今にいたるまで基本的には変わっていませんし、8年前に書いた文章の通りのことがその後に実際に起こっていったように感じています。イノベーションは各業界の中から出てくることが、ますます増えています。

TechCrunch Japan編集長時代には、元医師や元弁護士の起業家、金融や財務が専門の起業家、教育やスポーツに情熱を燃やす起業家など、素晴らしい起業家の皆さんに、取材の場やイベントのステージ上でお会いすることができました。

ゼロからスタートしてエグジットを果たした起業家の方々について、最初期から記事を書かせていただいたことも少なくありません。例えば、Coral Capitalの支援先でもあるSmartHR創業者の宮田昇始さんがTechCrunch Tokyoで優勝したときのこと、もともとAmazonクラウドのエバンジェリストだったソラコムの玉川憲さんがステルスでサービスを準備していて、こっそり資金調達のニュースを知らせてくれて記事にしたときのこと、マネーフォワードがまだ恵比寿のアパートの一室にいて創業者の辻庸介さんがスリッパをスッと出してくれたこと、などは全部、昨日のことのように覚えています。お会いした起業家の皆さんが全員成功したと言えるような世界でないことは当然ですが、それでも、賢くて勇気のある人たちが新しいビジネスを生み出そうという取り組みを広くお伝えできるのは本当に楽しく、やりがいのある仕事でした。

わたしの立場は商業メディアとVCのコンテンツ責任者とで違ってきますが、Coral Capitalでは、まずコンテンツの充実を図ることで、日本のスタートアップエコシステムの発展に寄与できればと考えています。創業パートナーの2人が掲げる「Doing Well by Doing Good」(善いことをして、成功する)の通り、業界全体にとってプラスになるような活動ができればと思っています。また、いずれ投資という直接的な形で起業家の皆さんとご一緒できる日が来ることを楽しみにしています。

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Partner @ Coral Capital

Ken Nishimura

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