日本のスタートアップ業界特有の不思議なことの一つに、創業者がしばしば、会社名と提供するプロダクトやサービス名に、異なる名前を付けるということがあります。そして、「Tesla Model S」や「Adobe Photoshop」のように、プロダクトの前に会社名を付けるのではなく、「Model S」や「Photoshop」のように、URLやブランディングの全てを完全に別物として扱います。私はこれが一般的な国は日本くらいだと思います。
複数の異なるプロダクトを提供する意図があるから、このように会社とプロダクトの名前やブランドを分けるのだと推測できます。あるいは、どのプロダクトがトラクションを獲得するか確信が持てないので、会社名にした1つのプロダクトに縛られることなく、たくさんの異なるプロダクトをローンチできるようにしておきたいのかもしれません。多くの会社は結局、会社名を生き残ったプロダクトの名前に変更することになります。しかし実際には、皆がそうしているから、が理由なのではと思っています。別々の名前を付けるアプローチがこのように普及しているから、それが一番良い方法と考えるのかもしれません。
しかし、それは間違っていると私は確信を持って言い切ることができます。1つのブランドを覚えてもらうだけでも十分に大変なことです。なぜ、その努力を同時に2つのブランド間で分散させてしまうのでしょうか?ブランドが一緒であればプロダクトのマーケティングにかかる膨大な費用を、あなたの会社のマーケティングにも費やすことができます。異なる名前を付けてしまうと、顧客や投資家、将来の従業員間におけるブランド認知度を希薄化させてしまうことになります。
加えて、紛らわしいということもあります。SmartHRの宮田さんと先日、このことについて話しました。SmartHRはかつて、株式会社KUFUという会社名でした。その当時は、フルタイムで注力したいプロダクトを模索していたので、受託の開発業務を請け負って何とか会社を運営していました。そのため、彼らは会社名とプロダクト名が異なることに疑問を感じていませんでした。しかし、SmartHRに完全にコミットするようになり、会社名をもっと早くSmartHRに変更すればよかった、と感じたそうです。メディアに取り上げてもらう際に、媒体によってはサービス名ではなく、社名でしか見出しを書いてくれないということもあります。また、カンファレンスで出会った人に自己紹介をする度に、会社の名前、プロダクトの名前、そしてサービスの内容を長々と説明する必要があったのです。本来は必要のない説明でした。会社名とプロダクト名を一緒にしたことで、「SmartHRです」と一言で済むようになりました。
名前が一致していないことは、ブランドを希薄化させ混乱を生じさせます。プロダクトがうまくいかなければ、名前を変更すればよいのです。たった数万円で出来ますし、名前を2つ持つことで喪失するブランドバリューと比較すれば、些細な金額です。理にかなっていないこの風習は変えるべきではないでしょうか。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital