日本のスタートアップ界隈は今、いい感じに盛り上がっています。大企業幹部や官僚らがスタートアップ・イノベーションの必要性を声高に唱えていることにより、資金は流入し続けています。大企業に勤めるという従来の働き方をやめて、より大きな志を持ってキャリアチェンジする優秀な人たちも増えています。以前、自分が起業したときに私を好奇の目で心配そうに見ていた友人たちが、今では起業に関するアドバイスを私に求めてきます。スタートアップ・エコシステムにはかつてないほどの資金、人材および支援が集まっています。私たちは自らの力で、強力なスタートアップ・エコシステムを構築しつつあるのです。
しかし、こんなにも前進しているのに、日本のエコシステムの発展に暗い影を落とそうとしているものが1つあります。なぜか、2020年8月の東京オリンピック後にこの波が途絶えてしまう、と信じている人が多いのです。起業家の中には、(実際は関連性がないのに)まるで自らの事業とオリンピックが連動しているかのようにオリンピックまでの収益目標を語る方々がいます。ファンド・マネージャーの中には、その後の資金調達環境に自信を持てないことを理由に、オリンピック前までに資金を調達したいと語る方々もいます。証券会社や監査法人の方からは、先を争って株式公開をすべくスタートアップがIPOのために長蛇の列をなしているとも聞きました。中には、海外からの観光客が増加しているのは2020年のオリンピックがあるからだ、とおっしゃる方までいます。もはや、すべての事をオリンピックの一言で片づけてしまう段階にまできてしまいました。
では、なぜこうなるんだろう、とみなさんに聞いても答えられる方はほとんどいません。まるで、この推論を何度も繰り返し聞かされたせいで、そのロジックの正否を考える人がもはやいなくなってしまったかのようです。どこぞの誰かの思いつきが、そのままウィルスのように広まってしまったかのようです。
このウィルスの恐ろしいところは、みんながこの話を信じてしまうと、言霊となって本当に実現してしまう可能性があることです。だからこそ、みなさんに当たり前のことを思い出して欲しいのです – オリンピックが終わっても日本が成し遂げた進歩は消えないはずです!オリンピックに歴史的な意義があっても、それは日本にとってただの通過点に過ぎないのです。
私自身は、日本で出会う起業家の方々からインスピレーションをもらい続けていますし、日本のスタートアップ市場は未だかつてないほど可能性に満ちていると信じています。そして最近ではそう思っているのは私だけではないようです。日本への投資について、国外から頂く問い合わせがどんどん増えています。中には一流企業からの問い合わせもあります。国外の方々が日本の可能性に気付き始めており、日本が積み重ねてきた努力が実り始めたことは明らかです。彼らの中にオリンピックを気にかける人は1人もいないし、私たちもオリンピックを気にするべきではありません。
だからこそ、自らに課した不合理な制約は気にせずに、事業の構築にもっとフォーカスしましょう。やるべきことはまだまだたくさんあります!
Founding Partner & CEO @ Coral Capital