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「僕らが共同投資しない理由」Coral × Skyland 代表対談

「なぜ、これまで彼らと一緒に投資しなかったんだっけ?」ーー。それは、Coral Capital(以下、Coral)のマネージングパートナーであるJames Rineyがふと感じたことでした。

当然ですが、VCによって投資スタイルはさまざま。とはいえ、投資先企業が重なることはよくあります。しかし、CoralとSkyland Ventures(以下、Skyland)はそうではありませんでした。ただ1つ、ロボットを遠隔操作する技術を開発するGITAIを除いては。

冒頭でJamesが「彼ら」と指したのは、まさにSkylandのジェネラルパートナー木下慶彦さんのことでした。同じシードVCでありながら、CoralとSkylandの投資スタイルはどのように異なっているのでしょうか? そこで今回は、Skylandの木下さんとCoralのJamesによる対談を実現。Skylandはなぜ若手起業家にこだわるのか、なぜCoralはフライング投資をしないのか。シードVCとしての立ち位置や今後を語り合いました。

プロフィール

木下 慶彦(Yoshihiko Kinoshita)・・・Skyland Venturesの代表パートナー。 「The Seed Maker.」というミッションのもと、若手起業家を中心に投資を行う。現在、日本国内を中心に70社超へ投資し、総額20億円超を運用。Skyland Venturesをスタートする以前は証券会社系VC、独立系VCに所属。

James Riney(ジェームズ・ライニー)・・・Coral Capital創業パートナーCEO。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。

周囲の印象は「ともに突発力の強いタイプ」

James:木下さんと初めて会ったとき、僕はまだ起業家でした。たしか、木下さんはすでにVCとして独立していた気がするのですが……?

木下:そうです。Jamesに初めて会ったころはIncubate Fundから独立した直後でしたね。Jamesの噂は聞いていたんです。というのも当時、独立系VC・ANRI代表の佐俣アンリさんから「すごく変わった起業家に会った」「英語を話せる木下という感じ!」と言われて。それがJamesでした。

James:え、そうだったんですか!

木下:そうそう(笑)。僕は当時からわりと突破力が高いタイプのVCと言われていたのですが、Jamesも同じタイプだと話題でした。それに、アメリカ出身でありながらめちゃくちゃ流暢に日本語を話せるので、注目のキャラクターでしたね。

James:似たタイプだと言われていたんですね(笑)。そんな木下さんと僕は今、同じVCという立場でシード投資をしています。しかし、投資スタイルはまったく違うという認識です。

木下さんは「フライング投資」ということで、20代の若手起業家を中心に投資していますよね。一方でCoralは、投資先の多くが30代以上の起業家です。これは「20代の若手起業家に投資しない」というわけではなく、あくまでもCoralのスタンスがハンズイフであり、僕らとしても「起業家に使い倒してもらうVC」という立ち位置があるからです。そのため、手取り足取りサポートする必要がある起業家は対象から外れているのです。

木下:投資スタイルは違いますよね。ところが、1社だけ投資先企業がかぶったんです。それがロボットを遠隔操作する技術を開発するGITAIです。

James:そうそう! 木下さんがGITAIへ投資すると知ったときは少し驚きました。GITAI代表の中ノ瀬さんは20代ではないですし。木下さんとしても、あの案件は例外だったんじゃないですか?

木下:中ノ瀬さんの話を聞いて「おもしろい!」となったんですよね。僕らSkylandは25歳以下の若手起業家への投資を積極的に行っています。しかし、異才だと感じた人で、かつ起業前であれば25歳以上でもフライング投資しているんです。

James:なるほど。お互いに、投資する起業家の年齢に「絶対」はないんですよね。

投資したいタイミングは1回目の起業? それ以降の起業?

James:とはいえ、木下さんはツイッター上で「フライング投資」「起業しろ」というハッシュタグを使っているように、20代の若手起業家への投資に関するブランディングも行っています。あのブランディングは目立つし、記憶に残る。そして、木下さん独自のセンスもあります。そこまでして若手起業家への投資にこだわる理由はなんですか?

木下:スタートアップとして成功した人の多くが30代ですが、よく調べてみると20〜25歳で一度、起業しています。僕らのミッションは「The Seed Maker」。だからこそ若手起業家に投資し、彼らをドライブさせるためにも20代に注目しています。

James:連続起業家においては「20代で一度起業」「その後、スタートアップとして成功する」というパターンはありますね。しかし、それほど母数は大きくないようにも感じます。

木下:そうですね。でも、僕らがそこで全体感を気にする必要はあまりないかなとも考えているんです。最も成功している起業家たちの多くが20〜25歳で一度起業しているパターンが多いなら、そこに注目すべきだし、投資すべき。僕自身も26歳のときに独立していますが、この年代が一番情熱も高いように感じています。

James:それはありますね。ただ、僕らは投資家として「初めて起業したタイミング」ではなく「結果を出せるタイミング」も重視しなければならない。1,000億円以上になるユニコーン企業に投資する前提があるとすると、必ずしも若手起業家じゃなければならない理由はありません。例えばUber元CEOの Travis Kalanick(トラビス・カラニック氏)は20代で起業しています。でも投資家としては、1社目ではなく彼が30代で始めた2社目のUberに投資したいです。

木下:それでいうと、20代のときから投資し続ければいいと考えています。僕は、1社目からユニコーンになる可能性だってあるように思っているんです。それくらい、僕はすべて成功すると思って投資しています。

James:先ほどもお話した通り、Coralの場合は「起業家にうまく使い倒してもらうVC」という立ち位置を考えていることもあり、経営陣が「適切に人を使えるかどうか、会社を動かせるかどうか」も重要だと考えています。もちろん20代へも投資していますが、傾向としてはどうしても経験を積んでいる人への投資が多くなりますね。

木下:もちろん、そういった考えはありますよね。僕は、Jamesの考えを否定する気は一切ないです。でも、一方で僕のようなVCもいていいんじゃないかと思っているんですよね。僕のなかでは、起業は生き方の1つ。その人たちがどれくらい成功するか、その精度が高いかどうかという課題はありますが、それは30代で起業した人にも同じことを言えますよ。そのくらい日本の起業シーンは、あらゆる世代が経験を積まなければいけません。そういう意味では、20代の多くが起業家になるべきだと考えています。

James:僕も、木下さんの考えを否定する気はないです。木下さんは若手起業家への投資をはっきりと表明しています。その理由を一度聞いてみたくて質問しました。実際にその回答を聞いてみて、ここまで考えが異なっていることがおもしろい(笑)。

木下:本当に、ぜんぜん違います(笑)。

VCとして、投資判断で事業は重要しているか?

James:VCは起業家に資金などを提供し、サポートする仕事です。そのためには知名度を上げるなどして、起業家と会う回数を増やす必要があります。Skylandは木下さんのツイッター経由で多くの起業家と会っているイメージがあるんですが、そのあたりどうですか?

木下:調達の相談は、ほぼツイッター経由ですね。ツイッターの投稿にはSkylandへ誘導するリンクもつけているんですが、そこから連絡してくれた起業家とはほぼ全員会っています。しかし、起業前の人は「起業したい」と言いつつ、実際に起業に至る人がまだ少ない。それこそ「起業したい」と100人言っていても、本当に動き出すのは1人くらいという現状です。そのため、本当に起業してチャレンジして行く人は最初に話をしにきてくれた時点でできるかぎり投資オファーをしています。

James:Coralでは起業家が選ぶマーケット、そこでのソリューションをどこまで深く考えているかを投資する際に重要視しています。木下さんは最初に話をしにきてくれた時点でできるかぎり投資オファーすると話していましたが、ほかにVCとして重要視しているところはどこでしょう?

木下:投資家として「マーケットから入り、その中でセグメントしていくかたちで投資する」みたいな考えがありますよね。僕の場合は、マーケットこそ決まっていれば投資しています。初期のプロダクトには、あまりこだわっていないんです。

James:というと?

木下:僕がこれまでVCをやってきて感じているのは、マーケットもプロダクトも決まっている起業家は頑固になりがちです。そのため、うまくいかなくなった事業への判断タイミングがずれることもある。僕は、すぐ行動できる人にできるかぎり投資したいんです。そういう意味では、マーケットが決まっていたらいい。プロダクトは、あとから定めていけばいいと考えています。極論を言ってしまうと、「別事業でもいいから、会社を成功させたい」という人にこそ投資したいですね。

James:マーケットに対する考え方は似ているかもしれません。マーケットこそ「だいたいこの方向になる」がわかります。しかし、実際に事業をつくっていうことに関しては、やはり手探りになります。だからこそ、僕らは「どういったソリューションを考えているのか」を重視しているんです。投資先企業であるjustInCaseは、非効率でIT化が遅れている保険業界にシームレスなUXを提供しようとしています。そういった世界観を実現するうえでも「何が必要なのか」は挑戦しながらじゃないとわからない。このあたりも木下さんとアプローチが異なりますね。

木下:そのあたりも、ファンドごとに考えが違いますよね。

James:木下さんと話していて思い出したのですが、アメリカのスタートアップは、事業がうまくいかないと解散して新しい会社をつくるパターンが多いんです。でも、日本はそうじゃない。最初の事業がうまくいかなくても、ピポッドしながら挑戦し続け、いつの間にか跳ね上がっていたパターンもあります。そういう意味では、木下さんのやり方は日本に特化した戦略でもあるので、リターンを出せるのかもしれないですね。

シードVCのいいところは、起業潜在層を顕在層に変えること

木下:先ほどJamesはSkylandのやり方について「日本に特化した戦略ならリターンを出せるかも」と言いました。それでいうと僕がJamesに期待しているのは、もっとグローバルへ進出する起業家を増やすことです。Coralでは、グローバル進出などをどう考えているんですか?

James:そうですね。Coralではハイパーグローバル、もしくはハイパーローカルのどちらかなんです。例えば投資先企業のInfostellarは宇宙系スタートアップなので、日本国内だけでは事業を成長させるには無理があります。なので、ハイパーグローバルを目指して、最初からグローバルな組織づくりに挑んでいます。

木下:ハイパーローカルは?

James:日本国内のマーケットだけで十分に大きな会社をつくれる領域がたくさんあります。それこそ、先ほど話していた保険やヘルスケアなど、日本に残り続けているレガシー領域です。参入障壁が高いので、海外のプレイヤーには難しい。けれど、日本独特のシステムやカルチャーを知っている日本人には、可能性があります。そうすると、日本だけでも十分なマーケットがあり、ユニコーンを生み出せる可能性があります。そういうところも、好きなんですよね。SmartHRKAKEHASHIもそうですが、今後もっと投資していきたいですね。

木下:なるほど。

James:投資家という立場で言うのは少しおかしいかもしれないのですが、僕は投資自体にあまり興味がないんです。どちらかというと、VCという事業をやっている感覚に近いんですよね。チームの採用やマーケティングなどをVCとして支援して、サービスをマネタイズするために投資してリターンで回収する。投資事自体がビジネスモデルみたいに考えているんです。

木下:僕もその考え方に近いですね。今はVCをやっていますが、それ以外もやろうとしているんです。僕はもともと起業家と仕事をしてみたいというきっかけから、今に至ります。なので、頭のどこかで経営者として生きていきたいと思っているんです。今は僕1人でパートナーをしていますが、今年中に若手メンバーにも任せたいし、外部からもメンバーを入れることも考えたい。そして、どんどんチーム化していかないといけないと考えています。

James:木下さんは、永遠のシードVCなんですか?

木下:そのつもりですね。少なくとも、Skylandを通じて投資するのは、永遠にシードかなと思っています。シードVCのいいところは、起業潜在層を顕在層に変えることです。これこそ、スタートアップだと思うんですよね。そして、事業も手探りでつくっていくことになる。そういう意味では、アーリーステージ以降よりVCとして事業づくりにコミットできている気がしています。もちろん、どちらのほうが優れているかという話ではなく。未開拓のマーケットに、まだ見たことがない景色をつくっていく意味では、僕はシード領域に注目し続けていきたいですね。


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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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