本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」を翻訳したものです。
スタートアップ業界ではピボットは称賛される傾向にあります。TwitterやSlackの目覚ましい成功はすべてピボットの結果、得られたものです。ですからピボットは良いことなのかもしれません。
しかし、私はそうとは言い切れないのでは、と考えています。起業家たちには、当初のアイディアが失敗した時、ピボットすることが当然とは考えてほしくないのです。失敗したスタートアップは失敗として終わらせ、もう一度一から始める方がいいかもしれません。
ここで言っているピボットとは、プロダクトは変えずにビジネスモデルを変えるとか、同じ顧客層に少し異なるプロダクトを売るとか、高級路線を狙って顧客層を変えてみるなどという部分的なピボットではありません。これらは本当のピボットではなく、どんなスタートアップでも経験するただの進化にすぎません。
私が指しているのは、プロダクトやマーケット、事業などを全く変えてしまう「ハード・ピボット」です。本質的にはスタートラインに戻ってもう一度始めるのと同じことになるわけです。
そして私は、ハード・ピボットは誰にでも勧められるものだとは思いません。
なぜでしょうか。
スタートアップがアイディアを実現するための資金調達は、あなたやあなたのアイディアをバックアップし、その価値を信じてくれる多数の投資家たちにより実現するのですが、この時同時に株の希薄化も生じます。また、最初のビジネスアイディアに基づいて、それに最適なチームを構築するでしょう。
最初のアイディアが失敗し、次の新しいアイディアに向けてピボットを行う場合、希薄化はそのままで、投資家やチームメンバーを彼らの意向にかかわらず引き連れていくということになります。チームメンバーはいつでも替えることができるので、チームに関する問題はあるとしても、投資家や希薄化に関する問題ほど重要なものではないでしょう。
ピボットというやり方を選ぶ場合、ピボットの命運を握る株主の中には、新しい事業を支援する気持ちのない投資家、経済的利益以外に新しい事業に興味を持たない投資家がいる場合もあるということです。
しかし、さらに大きな問題は次のスタートアップに希薄化が持ち込まれるということです。私が理解に苦しむのは、新しいスタートアップを始める際になぜ起業家が、すでに希薄化し100%自己資本ではない会社を使用したいのか、ということです。持ち運ぶべきでなく、持ち運ぶ必要もない荷物を引っ張って歩くのと同じではありませんか。
すでに銀行に現金がある状態で既存のチームとともに新会社を始めるのは確かに魅力的かもしれません。これらを全て白紙にして一から始める方が確かに大変でしょう。しかし大変な道こそがしばしば最善の道なのです。安易な道を選ぶと後で大変な目に遭うことも多いものです。
一度一からスタートアップを始められたあなたなら、もう一度始めることもできるでしょう。もう一度最初からやれば、新しい会社におけるあなたの持ち株比率はより大きなものになり、好きなように一から会社を作り、理想的なチームと投資家グループを作ることができるのです。
いつも思うのですが、起業家たちは、投資家に対する一種の忠誠心のようなものより、ピボットを選択するということもあるのではないでしょうか。もしそうなら投資家はそのような誤った忠誠心は望んでいないでしょう。
実のところシード期、スタートアップ期の事業への投資は失敗率がとても高いのです。USVのすべてのファンドは、通常一度ならず複数回、失敗した会社への投資を減損処理しています。USVよりずっと早い時期から投資を行っているGotham Galの場合、減損処理の割合はUSVよりも高くなっています。
従ってアーリーステージで投資する投資家は失敗には慣れており、失敗は投資家のビジネスモデルに組み込まれています。投資家はこの高い失敗率を受け入れる代わりに、何もかもが当たった時には華々しい成功を手に入れるわけです。適切なアイデアが、適切なタイミングで、適切なチームと投資家グループによって上手に実行されるとこのような成功がもたらされます。ピボットを行った企業はこれらを「適切に」実行できるかもしれませんが、負っている荷物の重さを考えると、一から始めたスタートアップと同じ確率でそれができるかは定かではありません。
私が何よりも嫌うのは、投資家が関心を失い、もっとひどい場合には創業者自身も関心を失っているのに事業を続けることです。
だから私は、もし失敗したらそれを受け入れて、公表し、対処しなさい、と言います。事業を閉め、現金は清算し、キャップテーブルは破ってしまいましょう。そして次に何でもやりたいことをやるのです。スタートアップをやるのなら新たに一から始め、できるだけの取り分を取っておきましょう。何か別のことがやりたいならそれだってやってみればいいのです。
スタートアップは年季奉公ではありません。でもそんな風に感じさせるスタートアップ業界の様子も見てきました。これは全くもって間違いです。スタートアップ界隈のみなさんに、そんなやり方はやめてもっといい方向に力を注ぎなさいと言いたいのです。働きかける選択肢はいくらでもあるのだから、みんなそれぞれこれだと思うことをやり、楽しめばいいのです。その妨げになるようなものは結局、次善のものでしかないというのが私の考えです。
原文記事「Pivot or Fail?」
Editorial Team / 編集部