起業初期の段階で、経営者とスピード感をもって事業を伸ばす「1人目マーケター」には、どのようなことが求められるのか。Coral Capitalが6月29日に開催したオンラインイベント『スタートアップCEOが語る「こんな一人目マーケが欲しい!」』(セッション動画)では、10〜30名規模のスタートアップのCEOに語ってもらいました。
モデレーターは楽天・メルカリのマーケティング部を経て、現在はクラウド型契約管理サービス Holmesでマーケティング・広報責任者を務める杜多真衣さんが務めました。本記事ではC向けサービスを展開する各社のこれまでから、これから挑戦したいマーケ施策について、オンラインで募集した質問も含めて深掘りました。
※本記事はC向け、B向けのスタートアップそれぞれ3社が語ったパネルディスカッション2本を記事化したもののうち前編(C向けマーケター)です。後編記事(C向けマーケター)は、こちらをご覧ください。
オーガニックで伸ばしてきた3社のこれまで
現在までほぼ自然流入でサービスを伸ばしていた3社は、どのような施策で顧客を獲得してきたのか?これまでの施策について聞いてみました。
国内初のP2P保険「わりかん保険」、コロナ助け合い保険などを提供するjustInCaseの畑さんは、保険特有のマーケティングの難しさについて説明しながら、これまでの流入経路について話します。
「オウンドメディアからの流入や、メディア露出後などに指名検索から流入していただいている状況です。保険はマイナスをゼロにするような商品で、誰しも『もしものこと』は想定したくないからこそ、マーケティングの方法をうまく工夫していきたいです」
たこ焼きやソフトクリームなどの調理ロボットを提供するConnected Roboticsの沢登さんも同様に、「これまでメディア露出と展示会のみでサービスを伸ばしてきた」と振り返りました。これからの展望については、「簡単に設置できる調理ロボットを売り始めたので、これからはウェブを通してどんどん売っていけるようにしたいです」とコメント。
フードデリバリーサービスChompyを運営するSYNの大見さんも、広告出稿は一切やっていないと言います。
「Webマーケらしいものは、全くしていません。ほとんどが友達紹介キャンペーンとオーガニックでの流入です。Uber Eatsとの差別化を図るために、プロダクト設計や配達の仕方を工夫しているところです」
続けて、SYNが Chompyのプロダクトづくりにおいてこだわっている点について、2つのポイントを挙げます。
「1点目は、『美味しさ』です。ユーザーに良い体験をしてもらうためにも、出店していただくお店の審査は厳しくしています。コロナ禍の影響もあり、出店希望も増えましたが、希望をいただいた5〜7割ほどのお店は掲載に至りませんでした」
「また、食べ物を温かい状態でお届けできるよう、配達員・飲食店・運営の間で強い信頼関係を結べるよう、コミュニケーションにも気を配っています」
「2点目は、『配達コスト』です。業界全体の話ですが、1回の配達における配達員さんの人件費は700円〜900円ほどです。これらの金額を飲食店とユーザーで負担している状況です。このコストをどれだけ下げるか、注力しています」
加えて、注文の時間帯が集中することや飲食店同士が近いことなどを挙げ、グループ注文機能などを作ることによって配達の効率化する取り組みについて話しました。
これから踏み込みたいこと
マーケティングをより強化していきたいと口を揃える3社。各社が考えるこれからの戦略と、採用したい人材像について聞きました。
「数字を分析しながら、Web広告もやっていきたいです。数字を分析していくのは僕も大好きなので、もし、マーケターの方に参画いただけたら、一緒に細かいところまでやっていきたいと思います。あと、笑いのセンスもあると嬉しいですね!(笑)」(justInCase畑さん)
「この1年で、渋谷エリアではフードデリバリー領域でNo.1になろうと思っています。一方、これからもプロダクトは大きく変化していくフェーズですので、マーケティングの方法も臨機応変に変えていく必要性も出てきます。この環境下でも、プロダクトを見ながらマーケター目線で、泥臭く事業推進できる人に来ていただけるといいなと思います」(SYN大見さん)
「Web広告などは一切しておりませんが、今よりもアグレッシブに顧客にリーチしていくためにマーケ施策や戦略を考えてくださる人を必要としています。また、我々のお客様は飲食関係の方が多いので、食べ物に対して、愛着や情熱をもっている人だとフィットするのかと思います。こだわりが強い方だと嬉しいです」(Connected Robotics沢登さん)
面接では何を重視する?
1人目のマーケターとなると、経営陣との相性も重要な指標となります。面接や書類からどのように見抜いていくのか。面接の方法や観点について、意見を聞いてみました。
「キャラが合うか、頭の回転が早いかというのは重要」と語るのはjustInCaseの畑さん。justInCaseとConnected Roboticsでは、ケーススタディー面接などを設けているとのこと。
日本人以外のメンバーも参画するConnected Roboticsの沢登さんは、「会社のメンバーとの相性を見るためにも、会社のメンバーが数人同席するものから1対1のものまで、面接のパターンをいくつか用意しています。また、筆記試験・ケーススタディー面接・英語面接も準備しています」とコメント。
マーケターの採用において面接で重視する点について、SYNの大見さんは「一点突破」という言葉を強調し、若手にもチャンスがあると話します。
「PM・Bizdev・マーケターと様々な職種がある中でも、特にマーケターは領域を絞れば若手でも成果を出し得る面白い領域だと思います。だからこそ、若い方中心にはなりますが、『一点突破し切れるか』という点は重視します」
「スタートアップ」のマーケターとは?
現在メガベンチャーで働いているというイベントの視聴者からは、「転職したら(メガベンチャーにいる)今よりもできることの幅が狭くなってしまうのか」という質問も寄せられました。
この問いに対して、メガベンチャーとスタートアップの双方を経験しているSYNの大見さんとHolmesの杜多さんがコメント。DeNAで新規事業などに携わったのち、SYNを創業した大見さんは、「マーケターという視点に拘らずに、様々な観点から事業のグロースにチャレンジできるのは、スタートアップの良さであり、総合格闘技力は上がると思う。まだ見えない方程式を探す楽しさがある」と話します。
大企業とメガベンチャーを経て、Holmesに入社した杜多さんも、スタートアップのマーケターとして働くことの面白さについて語りました。
「予算が潤沢にあるわけではありませんが、『何を捨てて何をやるか』という、経営に必要な観点を持ちながらマーケターとして仕事ができるというのは良さだと思います」
続けて杜多さんは、以下のようにアドバイスを送りました。
「予算を大きく使えるようなスケールの大きな仕事をしたかったり、今担当している領域について『もっと学びたい!』という気持ちがあるのであれば、大企業やメガベンチャーで働き続けて良いと思います。一方で、将来的に自分で経営することに関心があったり、サービスを作りたいという人であれば、スタートアップに参画するのはとても面白いと思います」
(構成:馬本寛子)
Editorial Team / 編集部