中心メンバーしゃべりすぎ問題と、その手当て
スタートアップ創業者やCxOで、強いリーダーシップをもって事業や会社を立ち上げて大きくするような人は、外向的で話し上手な人が多いように思います。ストーリーを語ることで人を巻き込み、ビジョンによってメンバーを鼓舞し、逆境にあっても明るく未来を語り続けて前進する―、そんな快活で話し上手な人はスタートアップのリーダーに向いていると思います。
一方で「社長とCxOがしゃべりすぎてしまって、特に若手メンバーは聞いているだけになってしまいがち」という問題を耳にすることもあります。CEOがいちばん話し上手で、しゃべるべきこともあるので良いことなのでしょうが、もしマイナス面があるのであれば、何か手当てがあっていいのかもしれません。
マイナス面として考えられるのは、組織内から多様な意見やアイデアがすくい上げられていない可能性があることと、メンバーに当事者意識が芽生えないことの2つです。
Tシャツたたみ競争で外向的リーダーの結果が悪いケースも
リーダーの外向性が高いと組織全体からアイデアをすくい上げて改善に生かすことができなくなるケースがあり得る、ということを示す研究データがあります。
リーダーシップ研究の歴史は100年近くあるそうですが、その文脈でも外向性とリーダーの適性には正の相関があると疑われていなかったと言います。ところが、2011年にAcademy of Management Journalに掲載された論文「Reversing the Extraverted Leadership Advantage: The Role of Employee Proactivity」(Adam M. Grant、Francesca Gino、David A. Hoffman)は、この常識に疑問を投げかけ、実在するピザチェーン店の57店舗の売上分析と、人為的な「Tシャツたたみ競争」の実験によって、内向的リーダーのほうが生産性が高いケースがあると指摘しています。
結論だけを書くと、外向的リーダーが良いかどうかはマネジメントされる側の性質によって真逆になる、というものです。メンバーが「能動的でない」場合には、外向的リーダーの店舗のほうがピザの売上は上がり、逆にメンバーが能動的に意見を出す店舗では、内向的リーダーの店舗のほうが売上が高いという関係が見いだされたそうです。
同じことを上記論文の著者らは、10分間で何枚のTシャツをたためるかを競う実験でも確かめています。内向的なリーダーは効率的なたたみ方に耳を傾けることができるため、意見を能動的に出すグループでは高いパフォーマンスとなる一方、外向的なリーダーとの組み合わせではパフォーマンスが低かったそうです。
言われてみれば、強い意見を持っていて我が強いメンバーが多ければ、一方的に指示だけされると、あまり乗り気にならないというのは直感的にも分かります。業務のやり方に特に何の意見も持っていないメンバーが主体のときには、むしろ明確に指示をする外向的リーダーのほうがパフォーマンスが良いというのも納得感があります。また、Tシャツを効率的にたたむ方法は、たまたま人生経験の中で良いやり方を学んだことがある人に聞くのが良く、それがリーダー以外である可能性のほうがはるかに高いのでしょう。
スタートアップでは能動的なメンバーも多いはずです。少なくとも意見やアイデアを持っているメンバーは多数いるはずです。だとしたら、外向的で話し上手なCEO・CxOとしては意図的に、ときどき話すことをやめてみるのも良いかもしれません。
中心メンバーだけがしゃべりすぎる問題に課題感を持っていたあるスタートアップでは、全社ミーティングのアジェンダを若手メンバーに作ってもらうことで、意見の吸い上げや当事者意識をもってもらうようにした、といいます。外向的な人には、内向的な人が発言を躊躇する理由が実感として理解できないものです。全身全霊で耳を傾ける「アクティブリスニング」のトレーニングを受けたり、何を発言しても拒絶されない心理的安全性のある環境づくりを心がける、あるいは匿名で意見を募るといったことも効果的かもしれません。メンバーの意見を吸い上げることで、より良いTシャツのたたみ方の発見(業務改善)ができるかもしれません。
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