データをもとに客観的に組織の健全性を測ることは、特にスタートアップが急速に成長する過程において経営に欠かせません。この健全性評価の方法として、従業員サーベイ(従業員満足度調査)の実施を私は以前から推奨しています。従業員数が30人を超えるあたりから特に必要ですが、10人程度のときから始めておくことで、より早い段階から継続的な改善の文化やプロアクティブな経営の基盤を築くことができるでしょう。
従業員サーベイにより従業員が匿名でフィードバックを提供できるようにすることで、組織内の問題を早期に発見し、多くの従業員から指摘のあった不満や懸念に対して深刻化する前に対処することができます。また、最近ではWeVoxやSmartHRなどが、シンプルで使いやすい従業員エンゲージメント測定ツールを提供しています。費用対効果も非常に高いため、もはや何らかのソリューションを導入しない理由はないと言えるでしょう。
ただし、すべての調査項目で高いスコアを確保することばかりに気を取られ、会社のカルチャーとして本当に重視するべきことを見失わないよう注意が必要です。例えば、「ウェルビーイング」や「健康」、「ワークライフバランス」などの項目のスコアの低さと反比例して、「仕事のやりがい」や「プロフェッショナルとしての成長 」などのパフォーマンス関連の項目のスコアが高くなることは珍しくありません。
実際、「誰よりも成功する人」というのは、私がこれまで見てきた限りでは突出した才能があるのと同時に、非常に努力家な人たちです。仕事の成功のために自らプライベートの時間を犠牲することも多く、特にスタートアップ企業においてこの傾向が顕著です。スタートアップ界では成功と失敗の差がまさに「紙一重」で、トップパフォーマンスを出せるかどうかが、市場で勝つか消えるかを左右するからです。
したがって、従業員サーベイの結果を分析する際には、会社として何を重視して伸ばすべきかを明確にしておく必要があります。理想的なワークライフバランスを誇るスタートアップを目指すのと、社員がそれぞれ最大限のポテンシャルを発揮して奮闘するスタートアップを目指すのとでは、評価の視点も違ってくるでしょう。
もちろん、どちらかに偏りすぎず、バランスをとることも大切です。例えば健康に関するスコアが低すぎれば、従業員にとって働き続けること自体が困難になる可能性があります。トップアスリートと同様に、どんなトップパフォーマーであっても休息や回復のための十分な「休養期間」が必要なのです。
また、全体的な結果を見るだけでなく、トップパフォーマーたちの変化や傾向と合わせて評価することが重要です。これまでトップレベルの成果を出してきた優秀な社員たちが、燃え尽き症候群の兆候を見せはじめていたり、急に休みが増えていたり、モチベーションの低下が見られる場合、スコアが低かった項目の重要性や緊急性がよりいっそう増すでしょう。
ハイパフォーマンスカルチャーの醸成に注力しているスタートアップであれば、組織全体としての健全性に加え、このように特にトップパフォーマーたちの状態を把握することが重要になります。実際、もし低いスコアのほとんどが下位10%のパフォーマンスの社員から来ていることがわかったとしたら、サーベイの結果に対する見方や、そこから導き出される戦略的判断も変わってくるのではないでしょうか。
従業員サーベイは組織の健全性を測る上で極めて効果的なツールですが、明確な目的を持って使う必要があります。自社の状態を把握するのに非常に有用なデータが得られる一方で、そのデータをどのように活用するかは、組織ごとの目標や優先順位に合わせて決めるべきでしょう。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital