アメリカのロボットの中身は、日本製だらけだ

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Written by James Riney
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この20年間、欧米がデジタル化に邁進していた頃(Marc Andreessenの有名な言葉を借りれば「ソフトウェアが世界を飲み込む」時代)、日本はアトム(原子=物理世界)を磨き上げていました。日本が注力したのは「ものづくり」、とりわけ地味ながらも高い利益率を誇る精密モーションコントロールという領域です。その結果、グローバルなロボティクスの技術スタックにおいて、ほとんどの投資家がまだ十分に織り込めていない構造的な非対称性が生まれました。アメリカはニューラルネットワークを支配しています。しかし日本は、神経系を支配しているのです。

アメリカが本当に求めているのが、X/Twitterでの5分間のデモではなく、工場で1万時間の稼働サイクルに耐えうる実用的なロボットであるならば、日本こそがその救世主です。

アトム vs. ビット

ソフトウェアの世界では、限界費用はほぼゼロに近づきます。コードを一度書けば、一夜にして10億人のユーザーに届けることができます。間違いがあっても大したことはありません。パッチを当てればいいだけです。この「Move fast and break things(素早く動いて壊せ)」という哲学こそ、アメリカのイノベーションを駆動するエンジンなのです。

しかしロボティクスの世界では、物理法則には逆らえません。人間の作業員の頭上で50kgの荷重を支える減速機のギアに「ベータ版」は存在しません。もしそれが壊れても、アプリがクラッシュするわけではありません。骨が折れるのです。

ヒューマノイドロボットのボディは、相反する制約がせめぎ合う設計者泣かせの難題です。強靭でありながら軽量。驚異的なスピードと、1ミリ以下の精度。膨大な発熱を放散しながら、自らのバッテリーを焼き尽くさない。そしてこれを、疲労なく数百万回繰り返さなければなりません。

ここに日本の真価があります。それは単なる知的財産による参入障壁ではありません。もちろん知財も豊富にありますが、本質はプロセスによる参入障壁です。暗黙知の蓄積、つまり特定の合金が熱処理にどう反応するかを正確に知るエンジニアの手の感覚、ハーモニックドライブ(歯車の隙間をなくし、精密な動作を実現する機構)が-10℃で焼き付くのを防ぐために必要なグリースの粘度を寸分たがわず把握している、そうした経験の集積なのです。

1万時間の信頼性の崖

ヒューマノイドロボットの熱狂において、最も大きな誤解はデモと実運用の違いです。

あらかじめプログラムされた映像の中で見事に踊るロボットは、「短時間ピーク性能」の下で動作しています。数分間、モーターとギアを限界まで酷使します。しかし、産業顧客が買うのはデモではありません。稼働時間です。自動車工場は24時間稼働しています。そのラインに投入されるロボットには、5,000時間から1万時間の平均故障間隔(MTBF)が求められるのです。

これが「信頼性の崖」です。ソフトウェアファーストのエコシステムから参入した企業の多く、そして低コストの中国製クローンの多くは、1,000時間あたりでこの崖から転落します。ギアにバックラッシュ(歯車のかみ合わせの遊び)が生じ、潤滑剤が劣化し、位置決め精度がドリフトしていくのです。

ハーモニック・ドライブ・システムズやナブテスコといった日本企業は、50年にわたってこれらの問題を解決してきました。トライボロジー(摩擦学)、冶金学、熱処理の奥義を極めてきたのです。

精密減速機について考えてみましょう。それはロボット関節の心臓部です。モーターの高速・低トルク出力を、腕を持ち上げるために必要な低速・高トルクの運動に変換します。

標準的なギアボックスにはバックラッシュ、すなわちギアの歯と歯の間のわずかな隙間があります。自動車であれば、これは問題になりません。しかしロボットでは、股関節におけるごくわずかな隙間が、手先では巨大な振れとなって増幅されます。機械的なガタをソフトウェアで効率的に補正することはできません。

高度なAIやニューラルネットワークで微小なギアの振れを動的に補正しようとしても、こうした物理的な不完全性を常に計算し補正し続けることは、膨大な演算能力とバッテリー寿命を消耗させるでしょう。

日本製の減速機は、波動歯車(ハーモニック・ドライブ・システムズが代表する技術)とサイクロイド歯車(ナブテスコが代表する技術)を用いて精密動作に不可欠なゼロバックラッシュを実現しています。これは単純にリバースエンジニアリングできる技術ではありません。『7 Powers』でヘルマーが定義した「プロセス・パワー」、つまり長年の工程の積み重ねが生み出した、図面だけでは再現できない競争優位なのです。鋼材の焼き入れの方法、歯の微視的な幾何形状、独自の潤滑剤。こうしたすべてに依存しています。数十年にわたる努力と巨額の国家補助にもかかわらず、中国は今もなお高性能減速機の大部分を日本から輸入しているのです。

ハーモニック・ドライブ・システムズの核心的な発明は、フレクスプラインと呼ばれる柔軟な鋼製カップです。このカップが弾性変形することで複数の歯を同時に噛み合わせ、隙間を排除しながら効率を維持します。しかし、考えてみてください。薄い鋼のカップに、重い負荷の下で何百万回も曲げ伸ばしを繰り返させるのです。これには信じられないほど高純度の鋼材と、製造というより日本刀の鍛冶に近い熱処理プロセスが必要になります。鋼材にたった一つの微視的な不純物があれば、カップは割れてしまいます。競合他社のギアは多くの場合、500時間で疲労が始まります。一方、ハーモニック・ドライブ・システムズのギアは2万時間稼働し続けます。この差がすべてなのです。

日本が握る隠れた寡占構造

アメリカは「頭脳」を支配し、中国は「インテグレーション」を積極的に推進しています。しかし「ボディ」は、圧倒的に日本製です。この支配的地位は偶然ではありません。系列構造と、四半期決算よりも世代を超えた生存を優先する長期的な資本配分戦略の結果なのです。アメリカ企業が利益率を高めるために製造を海外に移転していた頃、日本企業は品質を確保するために垂直統合を進めていました。

筋肉:ハーモニック・ドライブ・システムズは、ロボットアーム、手首、指に使われる軽量・コンパクトなギアを製造しています。ナブテスコは肩、腰、膝に使われる高耐久のサイクロイド減速機を製造し、産業用ロボット関節のグローバル市場の約60%を握っています。

神経:SMCは日本の空圧機器市場の64%、グローバルでも約3分の1を掌握しています。キーエンスはハードウェアセンサーでソフトウェア並みの利益率(50%超)を叩き出し、ロボットがミクロン単位の精度で物を認識できる視覚システムを提供しています。そしてその視覚システムの「網膜」にあたるCMOSイメージセンサーを製造しているのがソニーです。ソニーはこの分野でグローバル市場の53%を握っています

骨格:THKは直線運動を支えるレール状の精密部品(LMガイド)を世界に先駆けて開発し、現在はヒューマノイドの手に特化した駆動装置(アクチュエーター)の開発を進めています。

その傍らには、NSKやNTNといった摩擦低減の巨人が控えています。これらの企業が持つ圧倒的な市場支配力は、機械を動かし続けるために不可欠な構造部品を日本が押さえているという現実を如実に物語っています。NSKは日本国内ベアリング市場で不動の首位、世界でもシェア第3位です。一方、NTNはグローバルで第4位のベアリングメーカーです。

ロボティクスや自動化に急速に応用が進む自動車向け駆動部品に目を向けると、NTNはハブベアリングで世界シェア首位、ドライブシャフトで世界第2位のシェアを誇ります。これら日本の巨人たちは、グローバルな高精度ベアリング市場において圧倒的かつ代替不可能なシェアを握っているのです。つまり、アメリカがロボットを実際に動かしたいのであれば、その関節は日本から買うしかないのです。

中国がソーラーパネルやEVバッテリーでやったように、これらの部品もコモディティ化するだろうという見方もあります。しかし、それほど簡単ではないのです。太陽光発電では主要な原材料はシリコン、つまりコモディティです。一方、精密ギアの本質的な競争力は、数十年かけて積み上げた製造工程のノウハウにあります。中国の減速機メーカーであるLeaderdriveはローエンドからミッドレンジ市場で存在感を高めていますが、故障が許されない高性能アプリケーションにおいては、日本製の信頼性に対するプレミアムはOEMメーカーが喜んで支払う保険料なのです。

磁石戦争:日本の切り札

ギアやベアリングが筋肉と骨だとすれば、磁石は生命線です。

ロボットのすべての高効率電動モーターは、ネオジム磁石に依存しています。そしてここに、ロボティクスのサプライチェーンにおける最も危険なボトルネックが存在します。

中国がサプライチェーンの川上から川下まで全工程を支配しているのです。鉱石の採掘(世界シェア60%超)、酸化物の精製(85%超)、そして磁石を耐熱性にするために不可欠な重希土類元素であるジスプロシウムとテルビウムにおける独占的地位。

これらの元素がなければ、ネオジム磁石は高温で磁力を失います。ロボットの関節は猛烈な熱を発生させるため、磁石が焼けてしまいます。熱で磁力を失った磁石は、二度と元に戻りません。一度起きれば、その関節は死にます。

これは地政学的な窮地です。中国はこのサプライチェーンを武器化する意思を実際に示してきました。2010年の対日禁輸措置がその典型です。ロボティクス企業にとって、中国製の磁石に依存することは、砂上の楼閣に戦略産業を託すようなものなのです。

しかし、日本は着々と備えてきました。プロテリアル(旧日立金属)と信越化学工業は、粒界拡散法をはじめとする微細構造制御技術を駆使し、重希土類フリーの焼結磁石を開発しています。ジスプロシウムやテルビウムを使わずに、磁石の微細構造を制御して高い耐熱性を実現するのです。

2025年7月、プロテリアルはこれらの磁石のサンプル出荷を開始したと発表し、最先端の超高耐熱グレードは2026年4月までに次の展開フェーズに入る予定です。

プロテリアルが製造・販売を行うネオジム焼結磁石NEOMAX(イメージ)
出典:プロテリアル

これは極めて大きな戦略的ブレークスルーです。磁石の価格を変動の激しい希土類市場から切り離し、中国の独占を迂回し、日本とアメリカがオーストラリアのLynasのような友好国から原料となるネオジムを調達して、中国の土地に一切触れることなく高性能磁石に加工することを可能にします。

日本は西側諸国のために、並行するサプライチェーンを構築しているのです。日米両国は2025年10月に署名された「重要鉱物及びレアアースの供給確保のための日米枠組み」によって、この取り組みを公式なものとしました

フィジカルAI:日本にはデータがある

長年にわたり、日本のロボティクスに対する批判は「愚鈍だ」というものでした。機械的には完璧で、耐久性は無限。しかし、考えることができません。硬直したコードで動いています。部品を数センチ左にずらしただけで、ロボットは虚空を掴む、と。

一方のアメリカは、推論し適応できるスマートなロボットを作っていましたが、機械的には脆弱でした。

今、私たちはその融合を目の当たりにしています。日本は多くの人が認識しているよりも速く動いています。経済産業省(METI)は、フィジカルAIとSoftware Defined Robot(※)に焦点を当てた新戦略を打ち出しました。その狙いは明確です。大規模言語モデル(LLM)がテキストデータで訓練されるように、ロボットの動作を制御する大規模モーションモデル(Large Motion Model)は現実の機械から得られる物理データで訓練される必要があります。関節の力加減、部品の摩耗、熱による精度変化といったデータは、シミュレーションでは再現できないのです。

そして日本は、このデータを世界で最も多く保有しています。アメリカは汎用人工知能の開発では先行しているかもしれません。しかし機械を動かし続けるために必要な精密な物理データは、日本が世界で最も多く持っているのです。

経済産業省によると、日本のメーカーは産業用ロボットのグローバル市場シェアの70%を保持しています。ファナック一社だけでも世界中への累計出荷台数は100万台を超えており、安川電機や川崎重工業が世界中に展開するロボット群を合わせると、日本は世界の物理データ収集エンドポイントの圧倒的多数を支配しています。

2025年、高市首相はAIと半導体に対する10兆円(約650億ドル)規模の支援枠組みを発表し、その相当部分がフィジカルAIに充てられることになりました。目指す姿はシンプルです。アメリカのAIが「コーヒーを淹れて」と指示を出す。すると日本のロボットが、数十年分の物理データをもとに「カップを割らない力加減はどのくらいか」を自ら判断して動く。アメリカが「何を」を担い、日本が「どうやって」を担う。この役割分担こそが、日米ロボティクス協力の核心です。

※Software Defined Robot:ロボットの機能をハードウェアと分離し、ソフトウェアで定義・更新する設計・運用モデル。近年では、AIで定義・更新するモデルとして、AIDR(AI Defined Robot)と呼ばれることもある

Build with Japan

アメリカが単独でロボティクス競争に勝てるという物語は、スローガンとしては威勢がいいものの、現実的ではありません。アメリカは「頭脳」の戦いでは優位に立っているかもしれません。しかし「ボディ」の戦いには、まったく備えができていないのです。

アメリカが来年までにネバダ州で精密ハーモニックドライブの国内生産を立ち上げたり、自前で磁石を焼結したりできるという考えは幻想にすぎません。これらは数十年にわたる暗黙知、深いサプライチェーン、そして専門的な設備の上に築かれた産業なのです。

ロボティクス覇権をめぐる戦いは、アメリカ対中国の物語ではありません。もしそうなれば、中国が勝つ可能性が高いでしょう。これはアメリカと日本(および同盟国)対中国の物語なのです。

確かに、中国の存在は迫っています。速く、潤沢な資金を持ち、容赦がありません。ヒューマノイドロボティクスをEV生産と同格の巨大な国家プロジェクトとして推進しています。しかし、信頼性の崖ではまだ追いかける側ではないでしょうか。真の問題は、日米が「頭脳」と「ボディ」の同盟を完全に統合する前に、中国が1万時間の信頼性閾値をリバースエンジニアリングできるかどうかです。今のところ、そして見通せる将来においても、実際に動くロボットが欲しければ、日本の扉を叩かなければなりません。

アメリカのロボットには、その隅々に「Japan Inc.」の刻印が打たれることになるでしょう。

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