1号ファンドをローンチしたばかりの頃は、どの新しいベンチャーキャピタルもそうですが、懐疑的な意見を頂戴することがありました。資金調達をしているときに、「East Ventures、Skyland VenturesやANRIなど他のシードファンドとどう違うの?」や「本当にインサイダー(業界)の人になれるの?」と聞かれたことを覚えています。正直に言うと、当時は力強く説明・反論することができませんでした。投資に対するアプローチとスタイルが違うという確信はありましたが、リファレンスになるような実績がまだなかったのです。
他のベンチャーキャピタルとの違いは、今ははっきりしてきています。彼らとは共同投資することは多くなく、一緒にイベントを開催することや交流することも頻繁ではありません。意図的に回避している訳ではなく、投資スタイルが大きく異なるので、それぞれが出会う起業家のタイプが大きく異なるだけなのです。私たちを含め上述のベンチャーキャピタルは皆、優良企業で構成されるポートフォリオを持っています。それは正しいか間違っているかという問題ではなく、単なる差別化による違いなのです。
私たちは、既存のベンチャーキャピタルと同じ「インサイダー」になることを、過度にとらわれずに自分たちのやり方で自分たちの道を切り開いてきました。そして、私たちのアプローチは、既存のベンチャーキャピタルでは完全にニーズを満たすことができなかった一定の起業家らに共感していただけたのです。そうやって、私たちのマーケットでの立ち位置はより明確になっていきました。
それ以上に重要だったのは、タイミングが良かったことです。3年前のマーケットは今よりだいぶ小さく、日本のスタートアップに対する年間投資額はほんの1000億円ほどで、資金を提供するプレーヤーも非常に少数でした。その後、マーケットは3倍に拡大し、資金を提供するプレーヤーも大幅に増えました。マーケットの成長に伴い、マーケットの細分化も当然のように進みます。例えば、自動車の生産が始まった頃に車を所有することは、当時贅沢なことであり、誰もがフォードが欲しがりました。しかし、マーケットの成長と共に車の選択肢も大幅に増え、キャデラック、シボレー、トヨタや日産をはじめとする多くのメーカーが表れ、マーケットが細分化していきました。日本のスタートアップ市場では今、同じことが起こっています。
これは良い兆しであり、マーケットが成熟してきたことを示す兆しです。今のマーケットには、はるかに多くのタイプの投資家や起業家がおり、私たち一人一人が、日本において起業家活動を後押しすることよって、イノベーションの促進に重要な役割を果たしているのです。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital