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第一印象は「得体の知れない外国人」Coralとの出会い、そして“ハンズイフ”を投資先企業に聞く

起業家がベンチャーキャピタル(以下、VC)に望むことの1つに「距離感」があります。密に関わってほしいのか、もしくは一切の手出し無用なのか。それは、起業家によってさまざま。

Coral Capital(以下、Coral)の基本姿勢は「ハンズイフ(必要になったらいつでも呼んで)」。これについては、CoralのFounding PartnerであるJames Rineyが度々公言していることでもあります。では、この基本姿勢による支援を、投資先企業はどのように感じているのでしょうか?

そこで今回は、Coralの1号ファンド(500 Startups Japan)の投資先企業であるSmartHR宮田昇始さんと、Holmes笹原健太さんが登場。2人はJamesと出会い、投資に至っています。そもそもどのように出会ったのか。そのなかで、Coralの基本姿勢をどう感じたのか。さっそく当時を振り返ってもらいました。

きっかけはJamesの猛烈アタック

笹原:僕はもともと弁護士で、IT界隈のことはくわしくなかったんです。起業当時は資金調達することをあまり視野に入れていなかったこともあり、VCと言われてもピンとこなかったというか。そんななか、サービスをローンチしたタイミングで日経新聞に取材されたんです。それをきっかけに、知人経由でJamesからFacebookメッセンジャーで連絡があり、現在に至ります。宮田さんのきっかけはなんだったんですか?

宮田:僕の場合、Jamesとの出会いは2015年に開催されたスタートアップ向けイベント「Tech in Asia Tokyo」。そしてその次のイベントで会ったときに、彼らの写真を撮ってあげました。なぜ覚えているかというと、当時のCoralは前身である「500 Startups Japan」として立ち上がったばかり。会場に来ていたJamesと澤山(陽平)さんに「記念撮影して!」と言われて、写真を撮ったんですよね。それも、パーカーの背中に大きく書かれた「500 Startups Japan」がちゃんと写るように工夫して。

笹原:では、投資のやりとりが始まったのものそのころですか?

宮田:いえ、そのときはお互いにそういった意思がなく「500 Startups Japanのパーカー、かっこいいね!」「James、日本語うまい!」みたいなやりとりで終わりました。投資を持ちかけられたのは、その後に開催された招待制イベント「B Dash Camp」のピッチバトルに僕が登壇した後、カフェで話していたときでした。でも、まだJamesの個人的な部分をあまり知らなかったこともあって、一度見送らせてもらっているんです。

笹原:たしかに、あまり知らない相手というのはちょっと警戒しますよね。特に初対面から少ししか経っていないと、得体が知れないと言うか。

宮田:そうそう。なので、正直に言うと当時から資金調達を考えていましたが、相談相手としてあまり優先順位は高くなかったんです。その後も定期的にやりとりはしていて、そのたびに「投資させてほしい」と言われていました。でも、断っていたんですよね。そしてB Dash Campの半年後に資金調達すべく本格的に動き出しました。うれしいことに、こちらが希望するバリエーションでの投資がすぐに決まり、当時からVCとして参加いただいているWiLの難波さんとの調整も終わっていよいよ契約書を……というタイミングでJamesからさらにガンガンと連絡が来るようになって。

笹原:(笑)。

宮田:今だからこそ言うんですけど、断るのがだんだん面倒くさくなってきていたんですよね(笑)。そこで「難波さんがOKと言ったらいいよ」と伝えたんです。そうするとJamesは「わかった!」と言ってすぐに難波さんに連絡して、OKまでもらってきて。

笹原:Jamesすごい!

宮田:そうなんです、行動力がありすぎる(笑)。しかも、日本語を話せるはずなのに、ずっと英語で交渉していたらしいんです。いろいろ驚きましたが、その行動力に僕もWiLの難波さんも「こいつ、おもしろいな!」「仲間に入れておこう!」となりました。James自身、もともと起業家であり、その後VCを立ち上げています。その経緯もすでにいい。同じ船に乗る仲間として、そういったパーソナルを持つ人がいるとより楽しくなると思ったんです。

笹原:Coralって、とにかく勢いがすごいですよね。僕の場合、日経新聞をきっかけにJames以外のVCからも連絡をもらって会っていたのですが、誠意を込めて話してくださる方もいれば、「審査してやろう」みたいなものを感じることもあったんですよね。Jamesの場合、具体的な事例をいくつか出して「SmartHRはこうしていたから、こうするといいかもしれない」という提案もしてくれたりしたんです。そこに熱意や誠意を感じたことが決め手でした。

「ハンズイフ」は本当か?

宮田:スタートアップがVCに対して気にすることの1つに「事業や経営にどれくらい干渉してくるか」があります。いわゆる、距離感ですよね。そこは相性でもあるので、正解があるわけではない。そういったなかで、Coralは「ハンズイフ」という基本スタイルを貫いています。

笹原:Jamesも自分のブログで「調子のいいところにはあまり支援しない、本当にダメになりそうなときも支援しない。さらによくなる可能性があるときに支援する」と公言していましたね。Coralはまったくと言っていいほど干渉しないけれど、困っていることを相談するとすぐに助けてくれる。……でも僕の場合、当初はけっこう真逆の印象でした。

宮田:あれ?

笹原:というのも、僕はシード期から投資してもらっているのですが、当時は2週間に1回、カフェでJamesと1on1をしていました。そのときは事業の進捗だけでなく、シリーズAの話など、けっこう密にやりとりしていましたね。特に社名(当時はリグシー)に関しては「絶対に変えたほうがいい!」と会うたびに言われていました(笑)。

宮田:たしかに社名は変えたほうがいいですね(笑)。でも、シード期は値段の決め方やお客さんの探し方、資本政策などわからないことも多いので、特に知識面でのサポートは重要です。そういった意味で、当時の笹原さんはCoralから手をかけられていたのかもしれません。

笹原:シリーズAが終わってからはほとんど連絡をとることがなくなったので、今振り返ってみると、宮田さんのおっしゃるとおりだったのかもしれないですね。

宮田:SmartHRの場合は、シリーズA期以降でCoralに入ってもらっています。なので、そういったやりとりはなかったんです。でも、COOなどの重要なポジションでの採用で「こういった人のリファレンスがほしい」とお願いしたら、1時間以内に2〜3人からリファレンスをとり、その結果を送ってくれたことがあります。すごいスピード感、というのはそういったところでいつも感じますね。

笹原:最近だと、専任のタレントマネージャーが入りましたよね。おかげで、採用候補者のリーチも広がりました。

資金調達へのコミット、そしてSPV

笹原:採用もそうなのですが、次のラウンドでの資金調達でも彼らのコミットは強力だった印象です。Holmesは昨年シリーズAでの資金調達をしています。その動きが本格化するとき、Jamesに相談したらVC50人くらいのリストを1時間以内で送ってくれたんです。そして、まだ知り合いではないVCとどんどんつなげてくれました。それこそ、いきなりパートナーレベルの人と話せる道筋をつくってくれていたので、実質1ヶ月くらいでシリーズAが終わりました。

宮田:起業家にとって、あとのラウンドになればなるほど「資金調達をどれくらい手伝ってくれるか」も重要ですよね。これはCoralの特徴でもありますが、彼らはわりとアグレッシブな動きをします。例えば、SmartHRは昨年1月にSPV(Special Purpose Vehicle)での資金調達をしました。これは、ざっくりいうとSmartHRを支援するためのファンドをつくるスキームです。

笹原:けっこう大きなニュースでしたよね? この方法はどちらが持ちかけたものだったんですか?

宮田:Coral側からでしたね。実は当時、Coralは「SmartHRに出資したいけれど、ファンドのルール上、これ以上の出資ができない」という状態でした。そこで提案された方法だったんです。

笹原:ということは、SPVはほぼCoral側で準備したということですか? 宮田さんはプレゼンなどあまりしていないのですか?

宮田:通常だと、投資家の方々にアポイントをとるところからスタートし、1社につき2〜3回会って話ながら進んでいきます。でも、今回のSPVではファンド出資者の数人と最終ミーティングを1回ずつしたくらいですね。資料や事業計画書はすでにあったので、それを持ってCoralが各LPを回ってくれていました。SmartHR側では、「直接話がしたい」という方と会って話すことが3回程度あったくらいです。

笹原:そうだったんですね!

宮田:実際にSPVを発表したあと、ほかのスタートアップから「そのやり方を教えて!」と質問される機会もありました。しかし話してみると、みんな「おもしろいね!」と話しつつ、「でも、うちじゃできない」「既存のVCがそこまでコミットしてくれない気がする」となるんですよね。SPVは海外ではたまにある方法らしいのですが、日本ではほとんど前例がない。日本のVCにはわりと保守的なタイプも多く、こういった新しい方法を試す人は少ないようです。その点、Jamesはけっこうアグレッシブにいろいろなことを試します。うちはそうやって、調達にコミットしてもらいました。

強みはSaaSの知見、起業家マインド

笹原:僕がCoralから投資を受けてから1年以上立ちますが、当時に比べて彼らはどんどん進化していますよね。それこそ、Jamesはさまざまなメディアに露出もしていますし。

宮田:最初に会ったころの「得体の知れない外国人」という印象が、今や懐かしい(笑)。

笹原:Coralはおもにシード期のスタートアップを支援しているので、資金調達や採用、事業のノウハウがあります。それに加えて、いろいろなSaaSの投資先があるので、その知見を持っていることも強みです。文字面での情報を追うのもいいですが、親しい人から得られる情報はやはり鮮度が違います。

宮田:それでいうと、彼も「調子のいいところにはあまり支援しない、本当にダメになりそうなときも支援しない。さらによくなる可能性があるときに支援する」と公言しているので、自分でも「あまり事業を伸ばせないかもしれない」「自信がない」と思っている人にはあまりおすすめしないですね。しかし、それはそもそも起業家として必要なものだったりするのでなんとも言えないところもありますが。

笹原:それはありそうですね。彼らは支援することで事業が伸びると確信しているところにこそ、全力を注ぎます。「今の事業は絶対伸びる!」「こういったサポートがあればイケる!」となってからがいいかもしれないです。

宮田:あと、先ほども話したようにJamesはとてもアグレッシブで刺激的です。同じ船に乗っているVCが起業家マインドに溢れていると、いい刺激になります。そういった人を仲間にしたい人にもいいかもしれないですね。


■プロフィール

宮田昇始氏・・・株式会社SmartHRの代表取締役CEO。2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の提供をスタートさせる。2018年には戦略的スキームSPV(Special Purpose Vehicle)を活用し、15億円の資金調達を実施。2019年1月には、保険業界における非合理の解消を目指す「SmartHR Insurance」を設立した。

笹原健太氏・・・株式会社Holmesの代表取締役CEO、創業者。2017年に株式会社リグシー(現Holmes)を創業し、契約書作成や締結・管理などに特化したクラウドサービス「Holmes」を提供する。2018年にシリーズAラウンド総額約5.2億円の資金調達を実施した。

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Editorial Team / 編集部

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