2026年5月13日、Andurilは50億ドル(約7950億円)のシリーズHラウンドの資金調達を発表しました。評価額は610億ドル(約9.7兆円)で、Andreessen Horowitz(a16z)とThrive Capitalが共同リードを務めました。私たちCoral Capitalもこのラウンドに参加しています。
これは防衛テック分野で過去最大級の民間によるファイナンスであり、私たちの見立てでは、80年に及ぶ日米同盟の歩みの中でも、戦略的に最も重要な瞬間の一つです。
Coralのミッションと、Andurilがその一翼を担う理由
Coralのミッションは、次世代の日本を作っていく企業と組むことです。一見すると、Andurilはそれに当てはまらないように見えるかもしれません。Andurilはパルマー・ラッキー、ブライアン・シンプフ、トレイ・スティーブンスの3人がコスタメサで創業した防衛テック企業です。自律型戦闘機、水中ドローン、対無人航空機システム、そして「Lattice」と呼ばれるAI指揮統制プラットフォームを開発しています。ぱっと見では、日本との接点は感じられない事業ばかりです。
しかし、Andurilが実際に何で出来ているかを覗いてみると、見え方は変わります。
2025年12月、私たちは東京で開催されたAndurilの日本ローンチイベントに参加しました。会場には数十社の日本企業がおり、その多くはすでにAndurilのサプライヤーでした。これらの企業は、防衛サプライチェーンに新規参入しようとしていたのではありません。すでに長年、その当事者だったのです。ただ、この業界の外にいる人たちの大半は、そのことに気づいていなかっただけです。
実際このイベントで、パルマー・ラッキーは「キズナ」ドローン、すなわち日本製コンポーネントだけで作られた製品を披露しました。製造工程はすべて日本。ブランド、アーキテクチャ、ソフトウェアはアメリカ、物理的なコンポーネントはすべて日本製です。パルマー氏は率直にこう語りました。「日本は、すべてを自国だけで完結できる数少ない国の一つです」と。

日本がサプライチェーンの深部で世界を支えているという実態については、今年の初めにも書きました。これはキズナにとどまる話ではないのです。ハードウェア、ドローン、衛星、自律システムを大規模に作っているなら、そのサプライチェーンのどこかにほぼ間違いなく日本があります。ソニー1社だけで、CMOSイメージセンサーの世界市場の50%近くに達しようとしています。CMOSイメージセンサーは、現代のほぼすべてのドローン、スマートフォン、ADAS(先進運転支援システム)に搭載されているカメラの心臓部です。東レは、ボーイング787とエアバスA350の主要構造に使われる炭素繊維(カーボンファイバー)を供給しており、日本企業全体で航空宇宙グレード炭素繊維の世界供給の50〜60%を握っているとみられています。
日本はすでに、Andurilの事業に不可欠な役割を果たしてきました。しかし、これから始まる次のフェーズは、日本にとってとりわけ重要な意味を持ちます。
日本で、日本のために作る
Andurilの12月の発表は、単に営業拠点を構えるという話ではありませんでした。パルマー氏は、日本に数億ドルから数十億ドル規模を投資する計画を発表しました。同社が掲げた優先4領域は、統合防空・ミサイル防衛、スケーラブルな量産、海上自律システム、そして人間と機械の協働です。3月には、Andurilプレジデントのクリスチャン・ブローズ氏がジャパンタイムズに対し、同社が日本で「Arsenal J」(日本版の主力製造拠点)構想を検討中であると明かしました。これは、同社がオハイオ州で進める500万平方フィート(約46万平方メートル)のハイパースケール製造施設をモデルにしたものです。
Anduril Japanのトップには、パトリック・ホーレン氏が就任しました。マンスフィールド・フェロー(日米の政策実務交流プログラム)出身で、米防衛企業レイセオンの元幹部、米海軍で30年のキャリアを持つ人物です。パトリック氏には稀有な強みがあります。日米同盟の両側に深く根ざした実務感覚です。
マンスフィールド・フェローシップを通じて日本に住み、日本語を学び、防衛省、国会、内閣府に席を置いて、日本の安全保障政策が実際にどう作られているかを内側から見てきました。Andurilに加わる前は、インド太平洋を軸にキャリアを積んできました。米海軍の国際案件を担当する国際プログラム室(Navy International Programs Office:通称Navy IPO)で太平洋関連部門ディレクターを務め、さらに米ミサイル防衛局のシニアアドバイザーも歴任しています。
私たちは11月にAndurilのチームと初めて出会い、それ以来、密に意見交換を重ねてきました。日本への真摯なコミットメント、現地で組成しているチームの質、そしてミッションの明快さに、深い共感と敬意を抱いています。私たちは、この取り組みが何を目指しているのかについて、完全に認識を共有しています。より強い日本、より強い日米同盟、そしてその両方に支えられたインド太平洋の平和と安定です。今回のラウンドへの参加は、そうした確信の表れです。

パトリック氏が表現したように、Andurilの目標は「日本の産業の一部となること」であり、Anduril Japanを「日本のトップエンジニア、デザイナー、サイエンティストが、国家への奉仕をイノベーションの一形態として捉えられる場所」にすることです。
日本を変えていくために
Coralは、日本でもっとも早い時期から防衛関連の投資について真剣に議論してきたVCファームの一つです。私たちは日本の最初期のデュアルユース(軍民両用)スタートアップを支援してきました。Oceanic Constellationsは日本郵船グループの京浜ドックと共に、スウォーム(群制御)型の無人水上艇(USV)を開発しています。大熊ダイヤモンドデバイス(ODD)は、衛星通信とレーダー向けに500℃に耐えるダイヤモンド半導体を製造しています。Coralの投資先であるGITAIは、SpaceX、Anduril、Lockheed Martin、Northrop Grummanとともに、米宇宙軍の宇宙配備迎撃体(SBI)プログラムの主契約者として選定されたばかりです。
明らかに、日本には数多くの強みがあります。にもかかわらず、国内の産業には、新しいプレイヤーがあまりに少ない。ここで、ひとつ本質的な問いが浮かび上がります。日本がAndurilの事業を支える上でこれほど重要な役割を果たしてきたのなら、なぜAndurilのような企業が日本から生まれてこなかったのか?
日本には人材がいる。産業基盤もある。精密製造の文化もある。なのに、その力を活用して史上最も価値のある防衛スタートアップを生んだのは、川崎ではなくコスタメサの企業だったのです。
シンプルな答えは、これは人材の問題でも産業基盤の問題でもないということです。マインドセットの問題なのです。
アメリカ最大の強みは、根拠なき楽観主義です。何でも可能だという確信が、世界中の優秀な人材をアメリカに引き寄せています。そうやって一見不可能に思えることを形にしてきました。日本最大の弱みは、根拠なき悲観主義です。30年にわたり、「失われた◯十年」というナラティブは自己強化のループに陥ってきました。「創業者は十分大きく構想を描かなかった。だからグローバル投資家は見向きもしなかった。だからグローバル企業は生まれなかった。だから政策立案者は優先度を上げなかった。だから、創業者はまた大きいことを考えなくなった」。このループは、自力では抜け出せない構造になっています。
このマインドセットをリセットするには、ロールモデルと、「それが本当に可能だ」と示す実例が必要です。自分と同じような人が、自分の国で、自分の言語で、自分のサプライヤーと組んで、並外れたものを作れるのだ、と。そうした成功事例を実際に見ることが、人びとのマインドセットを変えていくきっかけになります。
Anduril Japanアルムナイ
私たちが期待しているのは、Andurilが日本に来ることで、長期的な波及効果が生まれることです。
もしAndurilが日本で大規模に事業を展開して、日本のトップエンジニアを採用すれば、そのエンジニアたちはAndurilのやり方を身につけていきます。政府との契約が一件もない段階で自社のR&D資本を投じる方法、ハードウェアの上にソフトウェア定義のアーキテクチャを重ねる設計思想。シリコンバレーのスピードと、軍事システムに求められる一切妥協を許さない信頼性基準と両立させる方法。それらすべてを間近で見ることになります。そして、それが本当に実現可能なのだと知るのです。やがて、その一部は独立し、自分の会社を立ち上げるでしょう。エコシステムというものは、そうやって育っていくものです。
今から数年後に日本で立ち上がったAndurilの出身者らが次々と起業し、人脈のネットワークを形作っていく。そうした「Anuril Japanアルムナイ」たちの事業活動は、防衛だけにとどまらず、航空宇宙、エネルギー、ロボティクス、自動運転、産業ソフトウェアなど、日本のエンジニアリングDNAがすでに深く根付いているあらゆる領域に広がる可能性があります。
近現代における主要な産業エコシステムのほとんどは、こうした形で生まれてきました。韓国も中国も、こうしたクロスポリネーション(異種交配)を通じて近代的な産業基盤を作り上げてきています。POSCO(ポスコ)は日本の戦後賠償金と新日鉄による技術支援をテコに成長し、サムスン電子は三洋電機やNECとのジョイントベンチャーを通じて事業基盤を築きました。
日本の産業競争力も、出発点は同じでした。W・エドワーズ・デミングはアメリカ人です。日本科学技術連盟(JUSE)の招きで1950年に来日し、戦後復興の途上にあった国に統計的工程管理を教えました。日本のメーカーはそのアイデアを取り入れ、自分たち自身の暗黙知と組み合わせて、トヨタ生産方式(TPS)と、それ以来世界が必死に取り入れようとしてきたカイゼン文化を作り上げました。生まれたものは紛れもなく日本的でしたが、それは外来のアイデアに基づいていました。クロスポリネーションこそが、突破口だったのです。
Andurilが日本でものづくりをすることで、これと同じことが実現できるはずです。知識は距離の近さと採用を通じて伝わっていきます。そして何より大事なのは、インスピレーションです。
私たちは、日本にAndurilクラスの企業が存在するべきだと考えています。そして、その内部に日本人エンジニアがいなければなりません。そうした企業を通じて、日本がより強固なローカルエコシステムを築いていくことこそ、私たちにできる貢献の形です。
なぜ今、防衛なのか
第二次世界大戦後に平和主義を選んだ国で防衛投資を行うことは、日本を拠点とするVCとして、軽い気持ちで踏み込める領域ではありません。憲法第9条は単なる脚注ではありません。80年にわたる憲法上の自制、慎重な外交、軍事力を外に示さないという姿勢は、日本が誇るべきものであり、私たちCoralとしてもこの領域に踏み込む前に深く考え抜くべき前提だと考えています。
こうした伝統は、何もないところから自然に出てきたわけではありません。過去数十年にわたり、日本と米国がそれぞれの強みと責任においてインド太平洋において平和と安定、そして繁栄を支援する。そんな日米同盟の枠組みのもとで築かれてきたものです。この同盟こそが、平和の前提条件であり続けてきました。だからこそ、どちらか一方ではなく、その両方を同時に尊重しなければなりません。
この枠組みが前提としていた世界そのものが、いま変わりつつあります。とりわけ北東アジアは、三つの核保有国の利害が交錯し、世界でも最も危険な未解決の領土問題の一つを抱える地域です。AIがデジタル領域と物理領域の両方を作り変えつつある中で、戦闘の性質も変わりつつあります。平和を維持するには、日米同盟全体にわたる大幅な底上げが欠かせません。「戦争を始めない日本」という第9条の精神をこれからも守り続けるためには、日本自身が、戦争を抑止する役割を信頼に足る形で果たしていくことが求められています。
戦争は恐ろしいものであり、その代償を払うのは、それを望んでもいなかった人々です。責任ある政策の第一の目的は、戦争を絶対に起こさせないことです。この地域、この10年においては、そのために日米同盟全体で信頼に足る防衛態勢の構築が不可欠です。抑止は、平和の譲歩ではありません。より予測困難になった世界の中で、平和を存続させるために必要なものなのです。
私たちは防衛特化のファームではありませんし、そうなるつもりもありません。この領域への投資は、小規模かつ意図を持ったものにとどめます。ただし、日本の能力がインド太平洋の平和にとって本当に意味を持ち、日米同盟の両側にふさわしいパートナーが存在する場合、私たちは動きます。
その能力向上の一部は、日本の既存の防衛大手から生まれるでしょう。いずれも並外れた成果を上げてきました。別の一部は、Oceanic Constellationsや大熊ダイヤモンドデバイスのような国内発のスタートアップから生まれるでしょう。そしてさらに一部は、Andurilのような同盟国の企業との緊密な協働を必要とします。これらの同盟国企業は、ソフトウェア、スケール、そして同盟に異なるスピードの文化をもたらす存在です。
防衛技術が民生技術を加速させる
軍事投資と民生分野の恩恵の関係は、これまで決して一方通行であったわけではありません。
GPSは米海軍のミサイルと潜水艦のナビゲーション・プログラムから始まりました。インターネットはDARPAのプロジェクトでした。ジェットエンジン、電子レンジ、レーダー、気象予測、デジタルイメージング、商業航空のオートパイロットシステム。これらはすべて、軍事研究予算に源流を持ちます。いずれも、最初から消費者向け製品として生まれることが決まっていたわけではありません。誰かがまず難題を解こうと決意したからこそ、後に民生品として広がっていったのです。二次的な応用は、そこから派生したものです。
戦後の輸出制限のため、日本の商業史にも同じパターンが、むしろいっそう鮮明な形で現れています。ニコンは、もともと潜水艦の潜望鏡や戦艦大和の15メートル測距儀を作っており、その後カメラと半導体露光装置にピボットしていきました。富士フイルムも、もともとは軍用光学ガラスと空中写真撮影用材料を手掛けていて、その後、世界有数の医療・素材メーカーへと変貌しました。
SUBARUが存在するのは、連合国軍(GHQ)が中島飛行機(戦時中におよそ26,000機の機体を生産した企業)を解体し、そのエンジニアたちが富士重工業として再結集したからです。トヨタは戦時中、旧日本軍向けに軍用トラックを作っていました。三菱は零戦を作っていました。ヤマハの最初のオートバイエンジンは、戦時中の工作機械から生まれました。その工作機械は、同じ三菱の零戦のために燃料タンク、翼の部品、プロペラを作っていたものです。
エンジニアリングのDNAは変わっていません。変わったのは製品です。
戦後日本の民生エンジニアリングの象徴として世界中で賞賛される新幹線は、1945年以降に行き場を失った中島と三菱の元航空機エンジニアたちによって、その重要な部分が設計されました。
これからの20年の最良のシナリオは、防衛投資が平和の維持に寄与し、その結果として社会が最先端技術を受け継いでいくことです。かつてのGPSやインターネットがそうであったように、こうした技術は、戦争よりも普段の生活に遥かに大きなインパクトを与えることになるでしょう。
日本とともに、作る
Andurilは、ここ10年で日本の未来にとって最も重要な企業の一つです。理由は2つあります。ひとつは、同社が日本で何を作ろうとしているのか、ということ。もうひとつは、これほどのレベルの企業が日本人エンジニアを採用し、日本のサプライヤーと組み、日本の地に製造能力を置くと決めた瞬間から始まるクロスポリネーションです。
ようこそ日本へ、Anduril。私たちはこれからの数年をかけて、皆さんの取り組みが日本の人材、資本、政府、産業のすみずみまで届くよう、力を尽くします。同時に私たちは、10年後にこの瞬間を起点として企業を立ち上げる、日本人の創業者を探し続けます。
日米同盟は80年にわたりインド太平洋の安定を支えてきました。この同盟の次のフェーズは、産業という領域です。私たちは、この使命のために貢献できることを光栄に思っています。
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