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「VC業は焼畑農業じゃない」NOW家入一真がCoral・Jamesに明かした静かな怒り

Coral Capital(以下、Coral)の創業パートナーCEOであるJames Rineyが、行きつけの居酒屋「もつ焼 豚一」でそわそわしながら座っているには理由がありました。なぜなら数分後、Jamesが「ぜひ直接会って話したかった」という相手、連続起業家であり2018年6月に新ファンド「NOW」を立ち上げたVCでもある家入一真さんを待っていたから。

直接はもちろん、SNSでもほぼやりとりしたことがなかったというこの2人。「起業経験がある投資家」という共通点がある家入さんとJamesが、初対面ながらもお酒を呑み、起業やVC業について持論を交わす場があったとしたらどのような会話が生まれるのでしょうか? 東京・人形町で、静かながらも高い熱量を持った対談が始まりました。

VC業を始めたのは「エコシステムを大きくしたかったから」

James:(はたして、来てくれるだろうか…)

(階段を上る足音)

家入:初めまして、家入です。

James:家入さん! 初めまして、Jamesです。やっとお会いできましたね!

家入:直接話すこと自体が初めてでしたね。今日はよろしくお願いします。

James:よろしくお願いします! ちょうど飲み物も来たところですし、乾杯しましょう!

家入:乾杯!

James:今日は家入さんにいろいろ聞きたいと思っていました。さっそくですが、家入さんが投資を始めたのはいつ頃からですか?

家入:26歳くらいの頃です。当時はエンジェル投資をしていました。でも、このときはエンジェル投資自体はあったものの、ニュースなどではまったく耳にしない時代でもありました。要するに、個人名を出している人がぜんぜんいなかったんです。

James:僕がCoralの前身である500 Startups Japanを立ち上げた2015年頃も、その印象がありました。検索しても、あまりいい情報に出会えなかったんです。そこからなぜVC設立に至ったのですか?

家入:エンジェル投資は手探りだったものの、自分の知らない世界を見せてもらうような気持ちで出資していました。例えば、葬儀業界に興味を持っていたとしても、自分が起業して…というのはなかなか難しかったりします。そこで、葬儀業界をアップデートしたい人に出資することで、革命の物語に参加する権利をもらっていました。ただ、エンジェル投資とはすべて個人の一存。僕が「投資したい」と思えばすぐに投資できますし、お金が尽きれば終了です。それこそ、怪我をしたり死んでしまったりしたら止まってしまいます。

James:それに、スケールしませんよね。

家入:そう、スケールしない。エコシステムとは、上の世代から渡されたバトンを次の世代につなぐことを何周もさせながら大きくなります。そうすると、僕個人だけがやるのではなく、エンジェル投資の延長線上としてVCをやるべきなんじゃないかと数年前から考えていたんです。

James:エコシステムを大きくすることに関して、完全に同意ですね。すぐにVCを立ち上げなかったのはなぜですか?

家入:やはり、事業にコミットしながらVCを立ち上げるという前例がなく、LPを集められなかったことが大きな要因ですね。実際に、リソースを割くことも難しかったんです。しかし結果的に、パートナーに恵まれて無事にNOWを立ち上げることができました。Jamesも起業していましたよね。なぜVCに?

James:僕がVCになったのは、起業後に少し休みながら次の事業構想となる情報を集めたいと考えていたからでした。VCならいろいろな領域を見られますし、ネットワークも広がります。そこへ、本家500 Startupsから誘いを受けたんです。よくよく考えると、世界各国に有名なVCがあるけれど、日本に投資しているところは少ない。当時の日本は海外へ情報発信していなくて、各国のVCにとってはブラックボックスでした。僕は日本で起業していたこともあり、ある程度の情報を持っている。「これはチャンスだ」と思って飛び込みました。

家入:やってみて、どうでした?

James:独立系だったからか、起業とあまり変わらないというのが正直な印象でしたね(笑)。LPから資金調達しなければならないし、VCとしてストーリーを語らなければならない。組織づくりもカルチャーづくりもしているし…。どちらかというと自分は起業家としてVC業をしている感触でした。

家入:雇われているという感じじゃないってことですね。それは、僕も同じかも(笑)。

ユニコーンを目指すなら、バリュエーションより社会的なインパクト

James:最近感じているのは、M&A EXITの議論はもっとやっていいんじゃないかということです。よく見られるのが、資金調達を頑張った結果うまくいかず、残り1ヶ月でM&A EXITを考えるパターン。でもこれって、足元を見られちゃうので、M&A EXITできたとしても起業家の立場は弱くなってしまいます。資金調達かM&A EXITか、どちらか1つだけを考えるのではなく、同時に進めたほうが良い気がしているんです。

家入:そうですね。起業家はみんな、もっとしたたかになっていいと僕も思っています。資金調達なのか、M&A EXITなのか。そもそも起業するのか、しないのか。そういった選択肢を、起業家は多く持っておいたほうがいい。最近はスタートアップだけでなく、NPOとして起業するパターンも増えています。つまり、株式で資金調達しない手段が生まれ始めています。

James:ユニコーンになる以外の選択肢を持つ、ということですか?

家入:僕個人の考えとして、日本の特性上、ユニコーンよりも小さな上場やM&Aを増やすほうが現実的なんじゃないかと考えているんです。もちろん、ユニコーンが増えること自体を否定しているわけではありませんし、意思を持って増やすことには賛成です。ただ、何というか…。

James:表現が難しいところですよね。「ユニコーンを増やす」とは、スタートアップ界隈以外の人たちに理解されやすくていい言葉です。でも、だからと言ってバリュエーションを増やすことだけに力を入れていては、スタートアップをやっている意味がありません。それに、ユニコーンとは規模を表していて、インパクトに対するマイルストーンの1つにすぎない。本当に注目すべきは、インパクトある会社と事業をつくり、業界に強い影響を与えることです。そう考えると、ユニコーンを語りつつ「本当にインパクトある事業をつくれているのか?」という本質的なところにこそ目を向けるべきなんですよね。

家入:そのとおりです。それを聞いて、頭の中にあったモヤモヤがスッキリしました。

James:よかった! 日本語でちゃんと説明できてうれしい(笑)。これ、おいしいのでぜひ食べてください。

家入:おいしそう。いただきます!

起業家たちの成功を、屍の上に築いてはいけない

James:家入さんは起業家としてVCから投資も受けていましたよね? 理想のVC像などはあるのでしょうか?

家入:やはり、East Ventures松山太河さんですね。僕、太河さんチルドレンなので(笑)。信頼して任せてくれますし、ピボットしようが何だろうが応援してくれたからこそ今の僕が存在します。でも「理想のVC像」と言われると、難しいですね。太河さんのようなハンズオフがいい起業家もいれば、Incubate Fundのようにハンズオンじゃないと不安になる起業家もいます。

James:正解がないですよね。以前、僕もブログに書いたのですが、市場が大きくなるにつれて多様性が高まり、選択肢が増えるのは良いことです。一方で、VC間では起業家に選ばれるための差別化が必要になりつつあるわけですが。

家入:そうですね。VCとしての僕は「起業家としてうれしかったこと」を投資先にしているだけなので、これが選ばれる理由になるかどうかはわかりませんね。あともう1つ、VCとしてやりたいと考えているのが起業家のメンタルケアです。この問題は、日本のスタートアップ界隈で置いてけぼりにされ続けてきた話題だと思っているんです。

James:失敗に対するパーセプションは、日本は遅れている印象がありますね。シリコンバレーでは、失敗はあくまでも「実験による結果の1つ」と考える人のほうが多いです。

家入:そこは…何でしょうね、日本人気質がそうさせているんですかね。でも、我々は起業を後押しする役割もあります。起業をうながすのに、失敗したら手を引き「それは自己責任」と片付けてしまうことに違和感があるんです。起業家たちの成功を屍の上に築いてはいけない。僕らが取り組むべきは、起業したけれど失敗した人たちをどうケアしていくか、復活させるか。これはVCが手を組み、再起できる場所をつくるほうがいいと思うんですよね。そうじゃないと、僕らの仕事は焼畑農業ということになってしまいます。

James:わかります。

家入:だから僕は、サラリーマンで家庭もある人が「明日起業します」と言っていたら、止めますね。「起業できる兆しが見えたときにやればいいじゃん」「それまでは週末にできることから始めよう」とアドバイスしているんです。

James:年齢によって、失うものと受けるダメージが違いますよね。若手こそすぐに起業できますが、年齢が上がるごとに難しくなることも事実。また、レガシー業界のようなところに挑むとなると、知識や経験ある人が求められます。VCとして起業を後押しするけれど「よく考えて起業しろ」と伝える場面も大事かなと思いますね。

満を持してのサシ飲み、お互いの感想は?

James:それにしても、今日実際にお会いしてみて…当初考えていた印象と少し違っていて驚きました。もっとオラオラした感じなのかと思っていたので。

家入:炎上しているときのやりとりが目立つせいか、よく言われますね(笑)。それこそ、僕もJamesをもっと個性が強くてオラオラしていると思ってましたよ! 今日話してみて、わりとフラットなタイプなんだなと思いました。あと、こういうお店に来ていることも意外でした。

James:居酒屋、大好きなんです。でも、そう話すと「意外」って言われますね。もっとこういうブランディングをしていいのかもしれないです(笑)。

家入:あはは、そうかも(笑)。またぜひ話しましょう!

James:はい、ぜひ。


■プロフィール

家入一真・・・2003年 「ロリポップ」「minne」など個人向けサービスを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業、2008年にJASDAQ市場最年少で上場。退任後、2011年株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。他にもBASE株式会社の共同創業取締役、エンジェル投資家として60社を超えるスタートアップへの投資・支援などを行う。 2018年6月にはシード向けベンチャーキャピタル「NOW」を設立。第1号として、最大50億円規模のファンドを組成した。

James Riney(ジェームズ・ライニー)・・・Coral Capital創業パートナーCEO。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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