作業者がVRゴーグルとパワーグローブをつけ、遠く離れた場所にあるヒト型ロボットに乗り移ったかのように操作する―。作業現場にいないのに、ロボットの目であるカメラを通して見える世界をVRで見ながらグローブで作業をすると、あたかも自分の分身が作業しているようなSF的な未来が実現できる。
そんなヒト型遠隔操作ロボットを開発するGITAIは、2016年の設立以来、操作性や反応性に磨きをかけ、さまざまな応用が考えられる中から、宇宙というテーマを選んだといいます。もともとGITAIは、人間が作業するには危険性が高すぎるとか、移動の緊急性や移動コストが高いといった視点から、災害救助、遠隔医療、遠隔建設、ドローン点検・修理、レベル4の自動運転車の遠隔監視などを検討したものの、移動コストが桁違いに高い「宇宙飛行士」に焦点を当てた開発を進めています。
以下のピッチ動画(2019年6月撮影)と実験動画にありますが、GITAIのロボットが代替するのは宇宙飛行士の作業。現在、宇宙産業では民間ロケットによる低コスト化により創薬実験など商業利用に期待がかかっています。問題なのはロケットによる「交通費」が破格に高いこと。SpaceXなど再利用型ロケットが実用化されつつあるといっても600億円だったコストが400億円になるといった具合。この交通費を入れると、宇宙飛行士の作業コストは1時間あたり500万円にもなるとGITAI創業者で代表取締役社長の中ノ瀬翔氏は言います。
宇宙空間での作業には生身の人間の制限もあります。作業は1日6.5時間まで、宇宙線による被爆で発がんリスクが高まるため、飛行士は頻繁に地球に戻る必要があるうえ、1人の飛行士は最大でも2年しか宇宙空間にいれないのだとか。
この宇宙飛行士が行う実験やメンテナンス作業をロボットで代替することで、非常に大きな価値を生み出せる、というのがGITAIの狙いです。すでに2018年12月にJAXAとの共同実験では、「ソフトボックスのジッパーを開ける」「LANケーブルのプラグの抜き差し」「道具箱を開けて道具を取り出す」「絡まったケーブルをほどく」といった作業タスクが可能かの検証を進めており、18の課題タスクのうち13個をクリア。2019年6月時点では18個全てをクリアしたとのことです。
なにげなく動画を見るだけだと、そんなものかと見えるかもしれませんが、実は「ジッパーを開ける」というのはロボットにとっては最悪の作業。常に形が変わるため、きわめて困難なのだそうです。GITAIが人型ロボットと言いながら、実際には作業者という人間が操るモデルを取っているのは、AIやロボットがこうした作業タスクをこなせるようになるのは、かなり先のことになりそうだからという理由があるそうです。まず実践的なアプローチで市場参入を果たし、AIによる自動化は順次行っていくというのはスタートアップらしいと言えるのではないでしょうか。
さて、以下はそのGITAの中ノ瀬氏の解説動画です。JAXA筑波宇宙センターの国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟模擬フィールドを使って行った、宇宙飛行士の作業代替の実験の様子と合わせて、現在6号機になったGITAIのプロトタイプや市場の話を解説しています。なお、GITAIはこれまでに、われわれCoral Capitalを含む、Skyland Ventures、ANRI、Spiral Ventures Japan、DBJ Capital、J-Powerなどから資金調達をしており、2019年8月21日に410万ドル(約4億5000万円)の資金調達を発表しています。またGITAIには2019年3月にSCHAFT(二足歩行ロボットベンチャー、2013年にGoogleに売却)の元Founder&CEOの中西雄飛氏が新たに参画し、COOに就任しています。
■出演者プロフィール
中ノ瀬 翔・・・GITAI 創業者&CEO
IBMに3年間勤務後、2013年にインドに移住してITベンチャーであるCloudLancer India Pvt.Ltd.を設立、CEOに就任。インド市場向けWebサービス/スマホアプリを複数開発・運営。Tech in Asia等複数のメディアに出演。その後Webサービスを売却。2016年7月にGITAIを設立。
中ノ瀬氏も参加したパネルディスカッションで、元SCHAFTのFounder&CEO 中西雄飛氏をどうGITAIへ口説いたのかも話している動画も合わせてご覧ください。
日本の宇宙スタートアップが語る、グローバルな組織作り
Coral CapitalのSpaceTech(宇宙×テクノロジー)勉強会で澤山陽平が発表した宇宙スタートアップ海外事例についてのプレゼン資料は以下からダウンロード可能です。ぜひGITAIのピッチ動画と併せてご参照ください。
SpaceTech(宇宙×テクノロジー)における、世界の最新動向と日本のスタートアップ
Editorial Team / 編集部