FintechやHealthTechといった、X-Tech造語が徐々に普及してますが、RegTechについてはご存知でしょうか。RegTechとはRegulation × Technology(規制 × テクノロジー)の造語で、規制に関連した課題をテクノロジーを利用して解決する分野を指します。
テクノロジーの進歩とともに、その「規制」が対象となる「RegTech」は今後大きく増えていくでしょう。まずは、「RegTech」のサービスとしての具体的なイメージをもつために、以下のカオスマップをご覧ください。
出典:CB Insights
カオスマップ上半分には金融業界があります。ポートフォリオリスク管理や運用リスク管理といった規制が厳しいがゆえのサービスです。また、下半分には、新技術が生まれて、それに追従して新たな規制が生まれる医療のような産業や、大麻のような規制が緩和されつつある産業があります。カオスマップ全体の約半分を占めることから分かるように、金融業界は規制が厳しく、規制対応に関するサービスも多くなっています。RegTechの全体像をつかむには、金融系とそれ以外で分けるとシンプルに捉えやすいかもしれません。
また、RegTechは対象セクターで捉えるよりも以下のようにソリューションベースで捉える方が理解がしやすいかもしれません。
まず、RegTechは大きく2つに分類できます。
A:規制の解釈にかかる課題
技術が先にできてしまい、規制が追いついていない・決まっていない・曖昧であるなどの課題を解決します。倫理的に一部懸念点のある新しい医療技術や、規制を緩和しはじめた大麻などがこれに当たります。
B:規制自体が厳しいという課題
規制自体が厳しかったり、その対応コストが莫大にかかったりしてしまうため、その効率化を計るものです。例えば、個人の信用情報を取り扱うために顧客とのやりとりにおける規制の厳しい金融業界がこれに当たります。また、金融業界はリーマンショック以降、リスク管理という側面についても規制が厳しくなっています。
AとBにしたがって、主に以下の4つの分類が可能です。
(1) 金融機関での情報共有をテクノロジーによって効率化する
金融機関では様々な情報を顧客から受け取っていますが、それらの情報はリスク・コンプライアンス規定にしたがって煩雑な処理をする必要があります。煩雑な処理を効率化しつつ、膨大な情報を共有できるようにしていきます。
(2) 規制の意図と解釈のギャップを埋める
新しいテクノロジーに追従する形で後から規制ができてきたり、規制は存在するものの曖昧なまま定義されているもののギャップを埋めます。
(3) データの正規化により、より良い経営判断・自動化適用を促す
直接規制はされていないものの、顧客企業の情報を正確に把握しなくては、規制を遵守しているか否かの判断ができないことがあります。データの正規化に、こうした判断を容易にするものです。
(4) 規制対応に別の視点を持ちこむ
規制対応方法自体を新しいテクノロジーを用いてリプレイスするものです。
RegTechの投資状況
以下のグラフが示すように、RegTechへの投資は増加傾向にあります。データは最新のものではありませんが、昨今の状況を考えるに、この領域に関する投資は少なくとも著しく減少することはないでしょう。
出典:CB Insights
以下のグラフはRegTech企業のM&AとIPOの案件数です。IPOこそ少ないもの、買収は比較的活発、かつ増加傾向であることが分かります。
出典:CB Insights
Fintechの一部としては始まったRegTechですが、最近では規制の解釈に関わるRegTech企業も増加しています。以下に海外で注目の5社を紹介します。
(1) 仮想通貨における犯罪を防止
Chainalysisは仮想通貨によるマネーロンダリング・不正行為の調査や検出を行うソフトウェアを提供しています。クライアントは金融機関、仮想通貨交換所、規制当局、政府期間などで、売上の半分はアメリカ合衆国歳入庁やFBIなどの政府機関で占められています。仮想通貨分野に参入する企業に、コンプライアンス基準に合致するためのソリューション提供もしており、こちらは35か国110社に利用されています(2019年3月時点)。
(2) 金融業界の煩雑な業規制対応を効率化するサービス
Fenergoは投資銀行、法人銀行およびプライベートバンクを対象とした、CLM(顧客ライフサイクル管理)ソフトウェアソリューションを提供しています。金融業界などの規制の厳しい業界では、KYC(Know Your Customer)、AML(Anti-Money Laundering)などの煩雑な手順が顧客体験の質を著しく低下させています。これらの顧客サイクルにおける顧客体験を改善することで、金融機関に対して、管理コストの低下とLTV向上という価値を提供しています。Fenergoのクライアントオンボーディングサービスを利用することで、かかる時間を最大82%も削減でき、監査コストも最大34%削減できるといいます。
(3) 企業コンプライアンスの管理サービス
Convercentは企業ポリシーや企業倫理を従業員とクラウド上で共有できるプラットフォームを提供しています。従業員に企業倫理やポリシーを定着させるだけでなく、トラブル防止として、企業と従業員の間に存在するギャップの分析を行い、教育的フォローをすることも可能です。例えば、社員が副業を始める際に所属企業と利益相反しないかのチェックなどをWeb上で行えます。これらを利用することで、企業コンプライアンスを強化でき、文化の浸透や従業員の満足度向上も望めます。
(4) 法改正による事業リスクをリアルタイムで予測するサービス
FiscalNoteはUberやLyft、Coinbaseなどの、法律による規制次第で大きく影響を受ける新興企業を対象に、新法案や規制案が業界に及ぼす影響をビッグデータ・機械学習を用いて予測するサービスを提供しています。自社に影響を与えうる法案や規制案のアラートだけでなく、自社に有利な法案を支持し、通すことのできる議員のピックアップ、その議員が法案を通す可能性の予測まで提供しています。
(5) AIを利用したオンライン身元確認支援サービス
Onfidoは写真ベースの身分証明書、自撮り、および人工知能アルゴリズムを使用して、企業が人々の身元確認を支援するソフトウェアを提供しています。2019年4月時点で、1,500社を顧客に抱えており、実際に対応できる身分証明書は全世界で4,500以上あるといいます。2019年4月にはSBIインベストメントやSalesforce Venturesから資金調達しています。
テクノロジーの進歩とともに、これまで以上に規制とテクノロジーが折り合いをつけていく必要性は増していくでしょう。テクノロジーだけでなく、規制との折り合いを考える「RegTech」分野には今後も注目する必要がありそうです。
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Editorial Team / 編集部