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理系院出身VCたちが見る「大学発ベンチャー3.0」の夜明け

日本のVCは、投資が盛んになり始めた2000年頃がネットビジネス黎明期と重なっていたことから、研究開発型ベンチャーへ投資する比率が必ずしも高くありません。大学系VCやファンド規模の大きいところを除くと、VCの多くはネット系ビジネスへの出資を主としています。最近でこそネットやモバイルの適用範囲がリアルビジネスに広がってきつつあるものの、「ディープテック」と呼ばれる領域は、まだこれからの発展が期待されるところです。

独立系VCの中でもディープテック領域で活発に投資やコミュニティーづくりを続けていることで知られているのが、ANRIパートナーの鮫島昌弘氏です。東京・本郷にある東大キャンパス前にスタートアップ向け施設「NestHongo」を2016年に立ち上げたり、量子コンピューターのスタートアップ「QunaSys」へ出資していることで知られています。

ともに東大院卒の理系、かつ研究者を志していたものの、今やベンチャーキャピタリストという投資家。Coral Capital創業パートナーの澤山陽平と、ANRIパートナーの鮫島氏が、日本のディープテックの夜明けを語る対談をお送りします。研究者を目指し、実際に研究室をみてきた2人だからこそ見えている現状や課題、未来について語りました(聞き手・編集はCoral Capitalパートナー兼編集長の西村賢)


米国のVC産業に「ディープテック」という区分はなかった

西村:日本の今のスタートアップは「ディープテック」が、ひとつキーワードになっていますが、鮫島さんはどうご覧になっていますか?

鮫島:日本の場合、インターネット黎明期にVCが立ち上がったこともあって、ネット系ビジネスと異なるディープテックが新しいことのように見られがちですけど、VCというのが新しい産業をつくるものだとしたら、別に新しくはないと思います。もともと、アメリカのVCの歴史で言うと、インターネットから始まったわけじゃなくて、1950年代の半導体とかPCから始まっているわけですよね。

西村:PC産業でVCが大きなリターンを出したことが、その後のネット企業への初期投資へと繋がっている、といいますよね。

鮫島:そう、VCはインターネットに限りません。だからアメリカの場合、ディープテックという意識が恐らくあんまりないんじゃないかと思うんですよね。ピーター・ティールが2005年に立ち上げたFounders FundのようなVCも、C向けサービスやSaaSに投資しつつ、かなりとがったディープテックにも投資しています。一方、日本ではインターネット産業ができるときにVCが増えてきたので、日本ではディープテックとVCというのが隔離されちゃっているところがあるんですよね。

澤山:「ベンチャー=ネット」みたいな感じが強すぎるのかもしれないね。

ANRIパートナー・鮫島昌宏(さめしま・まさひろ)氏。鹿児島県出身。三菱商事で国内外の食品メーカーとの事業開発に従事。その後、東京大学エッジキャピタル(UTEC)に入社し、大学発の技術ベンチャー企業への投資及び投資先企業の成長支援業務に従事。2016年にANRIに参画。東京大学大学院 理学系研究科天文学専攻修士課程卒

垣根は消えつつある:ネット→テック、渋谷→本郷の流れ

鮫島:これからは日本でも、ディープテックとネットの間になった垣根が徐々になくなってくると思います。例えばAI創薬は両方の領域にまたがっていますし、Coral CapitalさんとANRIで一緒に投資させていただいているヒト型の半遠隔・半自律ロボットのGITAIさんも、そうです。GITAI創業者の中ノ瀬さんは、もともとはウェブ系の人です。

澤山:そうそう、それが最終的に宇宙っていう、すごくディープなところにたどり着いた。

鮫島:そうやって、どんどん垣根がなくなっていったほうが、日本に新しい産業が生まれやすくなってくると感じています。垣根の話でいえば、ネットとディープテックの分類の原因として地理的なところも結構あると思うんですよね。ネットは渋谷が中心、大学発ベンチャーやディープテックのベンチャーというと、どうしても本郷のほうに固まっています。本郷と渋谷の距離ってドア・ツー・ドアで40分弱なんですね。

澤山:結構、遠いですね。

西村:これは本当に歴史の不幸だと思うんです。東大が四ツ谷あたりにあったら全然違ったと思います(笑)

澤山:本郷も決して極端にアクセスが悪い場所ではないはずなんですけど、東大以外の人は本郷にはあまり来ないから……。でも東大生だって、もともと教養学部は駒場東大前なので、渋谷から駅で2つ目と近くて、入学当初は渋谷センター街でご飯を食べるのは当たり前なのに、その後なぜ渋谷から遠ざかってしまうのか。

鮫島:そうですね(笑) そこの分断が、日本のディープテック・ベンチャーにおける問題かなと思っているんですよね。

西村:あと、本郷にディープテックが集まっているといっても、渋谷の起業家たちほど本郷で交流している印象が薄いですよね。

鮫島:そうなんです。ディープテック系のベンチャーって横のつながりがあんまりないんじゃないかな、同級生があまりいないな、というのは感じていました。それで2016年の夏頃にANRIでNestHongoというインキュベーション施設を始めたんですよね。

鮫島:今は東京大学産学協創推進本部が、技術的サイドプロジェクトを行う「テックガレージ」とか、法人設立前後ぐらいの起業家たちが入居できる「FoundX」を立ち上げたりしていて、だいぶ繋がりが増えていますが、3年前には、そういうものがなくて。

澤山:イベントとか勉強会とか、そんなになかったような気がしますね。

西村:NestHongoには、どういう人たちがいるのですか?

NestHongoで交流する関係者ら

鮫島:2016年に3社ぐらい入っていました。SapeetというPKSHA Technologyに買収されたスタートアップが入っていました。ほかにも、グローバル・ブレインから去年出資を受けている無線技術スタートアップのソナスが入っていました。NestHongoをやって良かったなと思うのは、やっぱり入居した彼らが横のコミュニティーをつくることです。それでお互い切磋琢磨するんですね。

西村:互いに進捗が分かると刺激になる。

鮫島:そう、みんなお互い頑張り合うし、何かあったときも互いにシェアして「こういう問題が起きたときにどうしてる?」とか助け合うんですね。もちろん僕らに聞いてもいいんですけど、僕らがいないときでもそういうふうに知見のシェアができている。ネット系企業だと、そういうナレッジが相当たまっているし、シェアする文化があるじゃないですか。でもディープテック系の人たちって、そこのナレッジのシェアというのが、これからという感じなんです。僕らANRIとしてはファンドでネット系の会社に投資していますから、そのノウハウをディープテック系のところにお伝えしている、というのもありますね。

2008年ごろの東大にはベンチャーのトレンドは、まだなかった

澤山:細かい話になっちゃうけど、駒場にいくつか研究所があるじゃないですか。先端研(東京大学先端科学技術研究センター)とか、生産研(東京大学生産研究所)。渋谷に近いけど、渋谷からはちょっと離れている。すごく静かで落ち着いているから、研究に集中できそうな感じがあるじゃないですか。

鮫島:東大発バイオベンチャーのペプチドリームが出てきていますが、確かにもう少し出てきて良さそうですよね。

澤山:駒場キャンパスに在籍しているのは、1、2年生だから、やっぱりベンチャーはちょっと厳しいのかもしれないよね。僕は大学1年のときに先端研に潜り込んで、バイオインフォマティクスの走りの頃をのぞかせてもらったりしてたのですが、ああいうところから何か出てきていたら面白かったかもしれないんですけど。

鮫島:2000年前半には、まだ東大の中でもベンチャーのトレンドってなかったんですよね。

澤山:うんうん、僕もプログラミングは良くやっていたんですけど、受託で稼ぐのが中心でした。ベンチャー企業に少し顔を出したことがあるんですけど、SEOぽいことをやっている中小企業っぽくてピンと来なかったなあ。

鮫島:みんなが身近に感じられる「あ、あいつが成功したんだって」っていうロールモデルがなかったんですよね。澤山さんと僕は同級生ですけど、2002〜2008年の僕らの在学中ってベンチャーブームはなかったですよね。

Coral Capital創業パートナー・澤山陽平(さわやま・ようへい)。2015年より500 Startups Japan マネージングパートナー。シードステージ企業へ50社以上に投資し、総額約120億円を運用。500以前は、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーでITセクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事。さらに以前はJ.P. Morganの投資銀行部門で数千億円のクロスボーダーM&Aのアドバイザリーなどに携わった。東京大学大学院 工学系研究科 原子力国際専攻修了

若い世代の東大起業家の成功で変わった潮目

鮫島:今だったら、例えば2016年に起業して2年半で事業売却をしたCandleの金靖征さんであるとか、2012年にGunosyを創業して2年半で上場した福島良典さん(現LayerX代表取締役CEO)とか、比較的若いネット系の成功した起業家が出てきたので、一気に東大まわりの空気が変わったなっていう気がします。

澤山:それで今は2012年創業のAIベンチャー、PKSHA Technologyとかガチっぽいのも出てきています。研究系でも、フレキシブル基板のエレファンテックとかね。

研究者になる気満々だったものの「大学の研究では食えない」

西村:ちょっと話が途中ですが、鮫島さんがベンチャーキャピタリストになった経緯をお聞きしたいのですけど、キャリアのスタートは?

鮫島:大学のときは天文学専攻で、初期の銀河がどう進化していくかというのを研究していました。研究者になりたくて大学に入ったんです。ただ、理系の大学生だったら通る道だと思うんですけど、大学院の闇というのがあって……。

西村:闇ですか?

鮫島:めちゃくちゃ優秀な人なのにポジションがなくて、それこそ月20万円の収入でやりくりしているのを見ちゃうとかね、闇ですよ。本当に超優秀なんですよ? たぶんGoogleとかに行けば、2,000~3,000万円もらえるような人です。

西村:確かにGoogle在籍時には僕の隣の島には元素粒子研究者もいました(笑)

澤山:まあ、当時は、GAFAのような選択もなかったですけどね。今なら選択肢がいろいろある。いろいろある中で、やっぱり研究がやりたいということはあっていいと思います。でも昔は何もなくて、「君には、これしか道はない」という世界でしたよね。僕の場合は原子力だったんですけど……。

鮫島:原子力は難しいですよね、いろんな意味で。

澤山:もともと、僕はバイオをやりたかった。でも僕も全く同じなんですよ。研究者になる気満々で大学に入ったときには、当然のように大学院に行って博士になると考えていたんです。でも、研究室を見るようになると、だんだんつらい世界も見えてくる。

アメリカの大学で触れたスタートアップの空気

鮫島:「これは日本のアカデミアに残り続けるのはかなりしんどいな」と僕も思ったんです。それでアメリカに逃げようと思ったんですよ。アメリカの大学に行けば、TA(ティーチング・アシスタント)でアメリカの給料がもらえるし、博士が評価されるというのがあって。それで修士からアメリカの研究室見学に行って、もう日本を離れようと。

澤山:修士からアメリカに行ったんですか?

鮫島:最終的には日本の修士卒ですが、アメリカ西海岸の大学のラボ訪問にに行きました。アメリカに行ったときに、スタートアップをやっている天文学の先生や博士課程の学生がいたんです。2005〜2006年ぐらいのことです。初期の銀河ってシミュレーションを結構やるんですけど。

西村:重力計算専用機「GRAPE」みたいな話ですか?

鮫島:そうですね、天文学のシミュレーションを金融に生かすとか、気候予測に生かしてビジネスにしようという人たちがいて新鮮な驚きでした。当時の僕の中ではアカデミアとビジネスというのは全然離れたもので、その2つが融合できるという意識は全然なかったんですよね。ところがアメリカでは、その垣根がなくて。

澤山:アカデミアとビジネスを行ったり来たりだったり、両方同時にやる教授もいますよね。

鮫島:そうですね。技術を生かすというのはアカデミアのポジションだけじゃなくて、ビジネスに生かすというのもあるんだというのを見て、それでベンチャーというものがあるということに気づいたんです。

西村:鮫島さんが訪問していたのは、時期的には日本はライブドアショックの頃ですね。ネット系ベンチャーが虚業とメディアに書き立てられた頃だから、余計に彼我の差を感じられたのでは?

鮫島:ええ、正直そこのギャップは感じました。コアの技術をベースに社会課題を解決しているというのが米国のベンチャーだったのです。日本にも天才たちが埋もれているから、その人たちを掘り起こして、課題を解決するようなビジネスをベンチャーができれば、これは日本でもすごいチャンスがあるんじゃないか、と思ったんです。東大の研究室のようなところに行くと、ものすごい天才たちがいるんですよ。

澤山:やばい人たちがいますよね(笑)

ゾンビ企業を大量に生んだ「ベンチャー1000社計画」の負の遺産

西村:アカデミアの人が途中でビジネスで起業して、またアカデミアに戻るという人もいますよね。資産を築いていよいよ研究に没頭というのもあるかもしれません。どういうパターンがありそうですか?

鮫島:いろいろありますよね。自分は研究に没頭したいんだという人も結構な数がいるので、そういう場合はアカデミアに残っていただいて、ノウハウだけをベンチャーにライセンスアウトするというのもありです。経営をどの産業に持って行くかは、あくまで経営者とかビジネスサイドに委ねるというパターンですね。

澤山:ここをどういう形にするかっていうのは大きなテーマですよね。

西村:大学発ベンチャーって、ずっと言われていて、TLOが話題になったり、インキュベーション施設が話題になったり、大学ファンドが設けられたり、いろいろ動き自体はありますよね。いま日本のディープテック系ベンチャーのエコシステムは、どういう地点にいるのでしょうか?

鮫島:はい、まず日本の場合「大学発ベンチャー1000社計画」っていうのが2001年にありました。

澤山:ありましたね。とりあえずみんな、ベンチャーをつくれっていう。

鮫島:実際、1000社以上は設立されたんです。ただ、ちょっとこれはまずいんじゃないのかというぐらい、ほぼゾンビ企業になってしまったんですよ……。大学の看板教授たちがベンチャーをつくればお金が下りるらしいという感じだったので、起業という感じではなかったんです。

澤山:研究費獲得という面があったんですよね。

鮫島:半分ぐらい、そういう感じでしたよね。ベンチャーを立ち上げるとか、事業を成功させるというのは二の次で、ハクをつけるためにやるという印象もありました。

西村:「うちの研究室はベンチャーもやっているよ」というため、みたいな?

鮫島:そのときにできたベンチャーは、ほとんどの会社が失敗したんじゃないかと思います。まして片手間ですしね。恐らくこのときに「研究者=経営能力がない」というのが、日本のステレオタイプみたいになっちゃった。これは不幸だなと思います。

「大学発ベンチャー3.0」が始まりつつある

西村:でも、いま再びディープテックに注目が集まっています。これを鮫島さんは「大学発ベンチャー3.0」と呼んだりしていますよね、少しご説明いただけますか?

鮫島:ええ、1000社計画の後に何が起こったかというと、例えばペプチドリームが大成功したんですね。彼らは大学の先生と経営というのを完全に切り離してやった成功事例の1つだと思います。

澤山:そもそもアメリカだとディープテック系にプロ経営者が途中から入ったり、CEOが交代したりしますよね。

鮫島:アメリカ東海岸のバイオ系ベンチャーとかは、経営者と研究者は完全に分離してるケースが多いと理解してます。経営者はプロ経営者なので、役目が終わったら普通にバトンタッチしますといういう感じですね。例えば、このステージのPoCまで自分はやるけど、PoCから次のグロースに入ってきたら、自分の専門はそこじゃないって言う感じでね。日本もあと10年ぐらいしたらプロ経営者という人たちが出てきて、経営をある程度分離する形に変わって、より多くのスタートアップが成功していくことになると思いますね。

西村:プロ経営者が研究者と組んでやる、というのが日本における大学発ベンチャーの進化系である2.0ですか?

鮫島:はい、大学発ベンチャー1.0では1000社計画がつぶれた、と。次にペプチドリームのような形で、アカデミアと経営を切り離して、シニアな看板教授とシニアな経営者の掛け算で成功したというのが大学発ベンチャー2.0です。そして今は、イケてる若手の研究者と若手の経営者の掛け算でベンチャーが生まれてきています。これが大学発ベンチャー3.0です。

研究者志望の人の起業は、どのタイミングがいい?

澤山:これを鮫島さんに聞きたかったんですが、ディープテック領域で研究者志望の人が起業やビジネスを目指すのって、どのぐらいのタイミングがいいんでしょうね。大学生のうちなのか、もう少し先に進んだポスドクあたりなのか、あるいは若い准教授ぐらいがちょうどいいのか。なんとなく、教授まで待つ感じではなさそうみたいな印象があります。イキの良さみたいなものが必要ではある一方で、ある程度アカデミックの知識も必要ですよね。

鮫島:分野によって違うと思うんですけど、僕のイメージだとポスドクぐらいの年齢がちょうどいいんじゃないかなと思います。ポスドクぐらいだと、アカデミアにも近くて、何か成果を残していますよね。年齢的にも30前半。すると同世代は社会に出て数年は経験を積んでいますし、周囲には20代後半で若くてセンスのある経営者候補で、かつ技術もちゃんと分かると人がいて、良い組み合わせができやすいんじゃないかな、と思うんですよね。

澤山:確かに。いったんは違う道に進んだ人たちが、また一緒になってチームをつくるというのもありますよね。そういえば以前、「道を踏み外した科学者の会」という飲み会をやったことがあります(笑)。昔は理系の院生だったのに、結局、今では外資系金融とかコンサルとかで働いている人たちで「アカデミアに戻りたいよね」とか「やっぱりドクターはいつか取りたいよな」とか話すという会です。そういう人は結構な数いて、ディープテック系で起業志望の研究者とつながるといいのかもしれない。

西村:面白い技術を持っている先生と、ネット系の経営者を結ぶような形はいかがですか?

鮫島:ええ、起業に興味はあるけど、自分が本当にやるとなるとノウハウもないから、という人が結構な数がいるというのを感じています。僕らは、そういう先生にアプローチしに行って、准教授や助教クラスの若い先生に「会社をつくりませんか」という話をしています。そこから研究室の卒業生などでスタートアップに興味がある人を連れてくるとか、場合によっては違う分野で、インターネット系スタートアップの村にいた経営者候補の人を引っ張ってきたりというのを今やっている感じですね。

西村:渋谷と本郷を人的な面でも結ぶ、という取り組みですね。

鮫島:そうですね。もう少し地道なところだと、ANRIの投資先の全社を集めて飲み会を一緒にやったり、ネット系の会社ですごく伸びているところの社長に本郷に来てもらって、グロース期に起きた課題の話をしてもらうなどしています。分野違いでもスタートアップとしては共通の問題はあると思うので、そこを重点的に頑張ってやっていますね。

連続起業家で、次の事業ネタに困っている人が研究系に

西村:ちなみに渋谷系のスタートアップ経営者で、すでに成功している30歳ぐらいの人で、次はディープテックの経営をやってもいいなと思っている人って結構いる印象ですか?

鮫島:増えてきているなと感じています。ちょっと悪い言い方ですけど、ネット系の会社でイグジットした人で、次のネタに困っている起業家がいるなと思っています。やっぱりネットだけで完結するサービスだと天井が見えてきているじゃないですか。そうすると、ほかのリアルな産業と融合した事業を考えないといけないので、テクノロジーの幅を広げることになる。すると、やっぱりディープテックの何かの技術に突き当たったりするので、関心はすごく高まってるなと感じます。

澤山:より大きなことをやるとなると、ネットだけで完結する世界は物足りないかもしれませんよね。もともとやりたい領域はぼんやりとあったんだけど「これはたぶん無理だな」と諦めていたものが、手元のお金だけでも最初のフェーズはいけるんじゃないかという起業家が出てきている印象ですよね。

鮫島:アメリカだったらイーロン・マスクは、その極みですよね(笑)。一気にディープテックへガツンと入って行っています。あんな風に、ネット系とディープテック系の垣根を超えて、みんなが交わり合ってきたら、恐らく日本のスタートアップ業界ってかなり変わってくると思うんです。僕らの世代から何とか早くスターを出したいですね。

澤山:確かに。

鮫島:そういう人をつくると、一気にネット系の人が流れ込むと思うんですよ。

ネット事業の時間軸、ディープテックの時間軸

西村:垣根でいうと、インターネットのスピードに比べると、ディープテックは時間がかかるというイメージがあるんですけど、その辺ってファンドとして見たときと、起業家として見たときと、どういうふうに捉えればいいんですか? 起業家として見ると「自分はこれに15年かけるか」という問いで、ファンドなら「10年の満期でどうすればいいんだ」みたいな話です。その辺って、ANRIはどう考えているんですか?

鮫島:ディープテックのほうが時間がかかってしまうというのは、ある意味仕方がないですけど、一方で、例えばペプチドリームの場合、2006年に創業して上場したのは2013年です。意外と速いです。しかも、7億円程度しか資金調達していないんです。

西村:めっちゃ効率がいいですね。

鮫島:テクノロジーの応用先をしっかりと捉えて、ビジネスモデルとしても、赤字を掘る前に契約会社から事前にお金をもらうとか、そういうことを考えれば、実はリーンに立ち上げられるし、時間もそこまでかからない。皆さんディープテックはJカーブが深くて、すごく立ち上げに時間がかかるんでしょうっていうのですけど、よくよく見てみると、テクノロジーの応用先とかビジネスモデルをしっかり工夫すれば意外にそうでもないんですよ。

西村:逆説的ですけど、VCから調達した以上、必死になってマーケットを探して結びつけようとするという面もありますよね。VCマネーはイノベーションへの圧力になっている。

鮫島:そうだと思いますね。大学にいると良くも悪くも安定していますから。予算を申請して、そのお金を使い切るっていうシステムですよね。

澤山:実験道具を買ったり、年度末に謎にパソコンを買い換えるというね。僕のいた研究室でも、新しいVAIOが毎年大量に来ていましたよ(笑)

鮫島:それがベンチャーだと「バーンレート」という言葉があるくらいです。キャッシュが燃え尽きていく恐怖感がありますから、何とかして生き残らないとっていう感覚があります。ここは、ぜんぜん違いますよね。

セラノスに学ぶ風呂敷力

澤山:もう1つ別な話でいくと、2013年にGoogleに買収された東大発ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者の加藤崇さんと話をしていたときに、「日本人は、ビッグピクチャーにつなげていくのが苦手なんじゃないか」っていう話になりました。彼の仮説なんですけど、研究開発しているシーズ(種)と、最終的にそれが世の中をこう変えていくという風にビッグピクチャーを結びつけていくところができない、と。結局、ただひたすら研究開発しているだけで、何が何になるんだっけ、この種はみたいなね。

鮫島:そこはすごく感じますね。

澤山:加藤さんは「日本がダメだというより、アメリカにはそれができる人がたくさんいて、すごい」という言い方をしていました。マクロとミクロをうまくつなげていける。それをVCだったり、投資家に語れるようじゃないと、ある程度より先の調達や事業成長は結局望めないから、というんです。

鮫島:僕もそれを感じていますね。よく佐俣(ANRI代表パートナー)とも話をしているんですけど、技術にフォーカスして突き詰めていくと、今の技術をベースにして改善していこうというステップになってくるんです。一方、アメリカだと「風呂敷力」じゃないですけど、世界を変えるんだっていう発想が出てきて、そのためにお金を集めていく。こういう未来を達成するためにお金を集めていくっていう流れですね。

西村:ゴールからのプル型ですね。

鮫島:プル型です。日本だと、どうしても上に積み上げていっちゃうので、そこの風呂敷力が足りなくなる。自分たちの技術が世の中をどう良くしていくのかというのが弱いんじゃないかなというのは、僕もすごく感じています。

西村:アメリカでは風呂敷力がありすぎて、セラノスのような詐欺的な資金調達となるケースすらあります。

鮫島:セラノスに対しては、いろんな意見があると思います。ただ、ディープテックの研究者系起業家の人たちには、セラノスのドキュメンタリーを見てほしいって言っています。あれを見て感じたのは、やっぱり創業者であるエリザベス・ホームズの目のすごさ。もうビジョンを信じていますからね。もちろん最終的には詐欺だったわけですが、彼女がやったのは、世の中に対してこう変えていくんだというビジョンの強烈な打ち出しです。その打ち出し方っていうのは、すごく勉強するところがあると思います。

澤山:打ち出しは良かったんですよね、たぶん。ただ、そこで超えちゃいけない一線を越えた。あるいは追いつききれず、フェイクとなったというね。

西村:セラノスのケースは根拠となる論文がないことは最初から分かっていたわけで、研究者から見たら許しがたいでしょうね。

鮫島:その面はそうですね。みんな詐欺だ、詐欺だと言ってましたよね。研究者って良くも悪くもハイプをすごく嫌うじゃないですか。超誠実なんです。

西村:知的誠実さは、研究の基本ですよね。

鮫島:そうですね。ただ、自らの技術の社会への提供価値を説明できないと、人に伝わらないのも現実です。誠実に控えめな話をして、「じゃあ、あなたの仕事は今の大学の研究を10%改善することなんですね?」と投資家に聞かれて「ええ、そうです」なんて言ったら、VCには「では、どうぞ引き続き研究していてください」っていう話になりますよね。

先が見えない研究開発でも、きっちり見積もりをして資金調達する

西村:バランスだとは思いますけど、どのくらい風呂敷力って身につけるべきなんでしょうか。

鮫島:そこは結構難しいですけど、知的に誠実であるというのは大前提の上で、プラスアルファの能力として風呂敷力があるCEOが必要です。ちゃんと計算を立てて、これだけの研究開発が必要だというのをつくって資金調達をやっていくべきだと思うのです。これを積み上げ方式でスケールアップできるかというと、難しいところがあります。

澤山:研究開発の見積もりとか、そういう計画の立て方とか、これが本当にどれぐらい難しいのか、それとも時間をかければできるのかとか、そういうところの知見がまだまだ足りていないということがあるんですかね。

鮫島:そうですね。

澤山:ネット系ビジネスなら、こういうふうにやればここまでいけるだろうという見立ては、もうちょっと立てやすいのかもしれない。同じギャップがあるにしても、ディープテックの場合は、量産化したときにクオリティーを保てるのかとか、いつそれを越えられるのかとか、本当に分からない壁がありますよね。

西村:見積もりようがない。

澤山:でも、それを経営としてはちゃんと考えなきゃいけないし、そこが分からないです、というままに資金調達できるのは途中までです。だから、計画や資金を見積もったり、経営に折り込むノウハウが必要ですよね。そういう蓄積が必要なんでしょうか?

鮫島:ディープテック系の起業家だと、恐らく皆さんまだ1周目で、2周目の人が少し出始めたぐらいだと思うので、そこのノウハウがまだ蓄積されていないと思います。これからですよね。あと、縦のつながりをもうちょっと強化したほうがいいんじゃないかなと思っています。例えば、サイバーダインの山海さんとか、ペプチドリームの窪田さんが若手のディープテック系の起業家と繋がるとか。

澤山:ああ、それはあるといいですよね。

鮫島:ネット系の人たちは、楽天の三木谷さんやDeNAの南場さん、サイバーの藤田さんや、メルカリの山田さんのように、歴代の起業家の皆さんは縦の繋がりができていますよね。

西村:背中を追いかけていたり、メンターだったりしますよね。

澤山:そこは世代の積み重ねの問題かもしれない。ネット系はもうすでに3~4世代目まで来ているけど、ディープテック系はまだ第1、第2世代ぐらいの感じですよね。

鮫島:そう、縦がちょっと弱いんじゃないかなと思っていて、そこは僕らも意識して強化したいと思っています。

日本のディープテックにはシリーズBの資金が欠けている

西村:資金に関してはどうですか。ディープテックってお金がかかりますよね。

澤山:どうなんでしょうね。さっきのペプチドリームの話ように、資金調達7億円で上場というのを聞くと、意外と何とかなるのかな、と思わなくもないです。いま日本のシードもそこそこ大きくなってきていて、われわれのようにシードで1億円ぐらい全然出すよという人たちも増えていますからね。どういう経営計画を立てるかになりますけど、スタート自体はできなくはないのかな、と僕は思ったりするんですよね。

鮫島:正直、絶対量の不足というのは否めないところはあるなというのは、もちろんありますね。アメリカだとシード期からいきなり50~60億円とかありますからね。それがシードなのっていう(笑)

資金の絶対量不足という危惧はありつつ、特に僕が今日本のディープテック系で感じているのは、シリーズB前後の資金不足ですね。僕らもそうですけどシードやシリーズAで出す人たちはいる。でも、その次となってくるときですよね。例えば2~3億円調達して、次は10億円といういうときに、これが結構難しい。もっと先の数十億とか100億円となると、実はLeapMindのシリーズCの35億円Tier4のシリーズAの113億円の事例のように、大きく出資する事業会社がいるのですよね。

西村:つまり、シリーズBあたりの間が抜けているということですね。

鮫島:そうなんですよね。本当だったらINCJや大学系VCがあったのですけど、大学のVCって2014年ぐらいから出てきて、いったんファンド資金を使い切っちゃったんですよね。それでシリーズBが、いまの日本では問題になってきているんじゃないのかな、というのを今は肌感覚で感じますね。

西村:ネット系でも、かつて2010年頃は「シリーズAクランチ」と言われて、シードの次の資金がなかったですし、今はシリーズCが欠けています。それでアメリカからお金を引っ張ったり、事業会社を巻き込んだりっていう難しさがあります。

澤山:そうですね、ネット系はちょっと先に行っていますね。10億円ぐらいならネット系では調達事例は増えてきた。でも数十億ってなると、ちょっと壁がある感じですね。

西村:ただ、いまはスタートアップのレイター投資にPEが入って来たり、グロースマネーも結構入ってくる気配がありますよね。そういう意味だと、ディープテックも鶏と卵かもしれませんよね。

 

研究者は、はるか未来を見ている

西村:創薬やバイオ以外の分野はいかがですか? 量子コンピューターのようにまだ見えていない領域とか。

鮫島:今だと、サイバーセキュリティーなんかは日本ではあんまりベンチャーは出てきていないんですよね。そこは日本の課題だなと思っています。アメリカで、ものすごく投資が盛んです。安全保障の観点からも大事な産業だと思っています。そこは今、大学の先生を中心に回っていて、先生よりもう少し若い世代の人たちが起業に動き出しています。

うちの宮崎(ANRI投資担当)がバイオ派なので、彼は結構ディープなところで、新しい創薬のタイプのものを見つけてきたりしています。AIやソフトウェアと絡めたところというのも、結構幅広く見ていますね。

西村:ゲノム編集技術のCRISPR(クリスパー)なんかはいかがですか?

鮫島:CRISPRじゃないタイプのゲノム編集で、いま仕込んでいるやつもありますね。先行きが見えないタイプのスタートアップで、今後どういう道筋を描くかというのは、本当に誰も分からないチャレンジではあるんですけど。

先が見えづらいという意味では、やっぱり研究者のほうが、かなり先の未来を見ていますよね。僕らから出てくる話って、アメリカのスタートアップの動向を見ているといってもテクノロジーとしては、すでに表に出て来ているものですよね。ところが大学の先生方と話しをすると、より先の未来を見ているのでよね。彼らのほうが、ずっと将来を見ていますから、すごく学ぶものがあるなと感じています。

米国のVCでも、例えばKleiner Perkinsもそうなんですけど、これから半導体に投資をするぞというときに、スタンフォードの先生を呼んできて最先端のテクノロジーの話をしてもらって、これだったらこういうベンチャーをつくれるとか、バイオの先生を呼んできて投資を始めるっていうような取り組みもやっているんですね。僕らも、そういうのができたらいいなと思っています。要は、VCと最先端の先生が一緒にやっていく、ということです。例えばY CombinatorとかAndreessen Horowitzのポッドキャストに、普通に大学の先生が来て最先端の研究のことをしゃべってるじゃないですか。

西村:しゃべってますね。

鮫島:ああいうのも、いいなと思っていて。

澤山:それって、ひとつの拠点に起業家や専門家を集めて、同時並行的にプロジェクトを走らせるような、いわゆるスタートアップスタジオっぽい感じになってくるということなんですかね。

西村:Andreessen Horowitzって研究者とか大手企業、起業家を、めちゃめちゃ引き合わせていますよね。

澤山:確かに引き合わせとかマッチングってやるべきではあるんだけど、どうしてもマッチングで化学反応が起きる可能性ってそんなに高くないじゃないですか。研究者と経営者の人を合わせるところって。それで本当にそれから5年とか10年戦っていけるチームが生まれるかっていう疑問もあったりするんですよね。だから、どうやったらもっと増やせるのかというのは、いつも考えています。何かもっとほかのアプローチと考えると、やっぱりスタートアップスタジオ的なものとか、むしろ研究者のビジネスのリテラシーを上げる取り組みをやるとかね。

ネット系起業家と研究者のマッチングが、今後の課題

西村:この間、大学系のイノベーションフォーラムの展示を見に行ったら、ピエゾ素子でつくる感圧センサーをファイバー状の細い線にした発明を展示してたんですね。そんなものは世の中のどこにもない。で、それを売ってるって言うんですけど、どこで使わてるんですかと聞いても、ただ「売っています」と……。ああいうのも、ビジネス系の見る人が見たら、これにはこういうマーケットがあるよ、あれに使えるよ! というイノベーションが起こりそうに思えるんですよね。

澤山:そういう話ができたら楽しいですよね。

鮫島:日本のこれからのチャレンジって、ネット系の人たちをいかにテック系のほうのディープなところに呼び込んでいくということも1つですよね。たぶんそれは、僕らディープテック系の人たち側にとってもチャレンジです。研究者って、どうしてもみんな研究者だから、「これくらい分かっていて当然でしょう」というのがあると思うのですね。そうじゃなくて、お互いが分かりやすいようにプレゼンするとか、逆にネット系の人たちは、ある程度自分でできることは調べて行くとか、そういう歩み寄りがあるといいですよね。

そういう意味でいうと、Andreessen Horowitzのポッドキャストは対象リスナーがテック系起業家と研究者の両方なので良いんですよね。ネット系の人たちも、そんな技術があるのかと、何となく話を聞いているだけでも分かる。すると、その先の話の進み方がぜんぜん変わってくると思うのですよ。

澤山:僕らが気にしているのは、そこの通訳みたいな人をもっと増やしたいし、それは誰なんだろうなっていうのがあるんですよね。僕らも通訳の1人だと思うんですけど。

鮫島:数が足りていないですよね。

澤山:そこをもっと増やさないと、結局、ネット系の人と研究の人とが出会っても、結局そこで言葉が通じなくて、化学反応が起きないですよね。

鮫島:僕はTechCrunchとかにディープテック系ベンチャーが出てくるのはすごくいいなと思っていて、そこでどんどんほかのネット系の人たちにも見てもらいたいなと思っています。

西村:じゃあ、ANRIとCoralでディープテックのポッドキャストを持ち回りでやりましょう! 今日はお時間ありがとうございました!

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