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気鋭のCEO 3人が考える「スタートアップで成功できる人」とは──STARTUP AQUARIUMレポート

自身のキャリアの選択肢として、スタートアップに関心を持つビジネスパーソンに向けたイベント「STARTUP AQUARIUM」が2020年2月8日、東京・虎ノ門で開催されました(概要レポート)。

シードステージのスタートアップを支援するベンチャーキャピタルのCoral Capitalが主催した今回のイベントには、事業内容・組織規模・カルチャーともに多彩な32社が集結。テーマ別のトークセッションや、各社の担当者と個別面談できるブースが設けられ、来場者1,000人超、個別カジュアル面談730件以上という盛況をみせました。

本記事では、スタートアップ3社のCEOが登壇したトークセッション「先鋭起業家3名が語る スタートアップで働く魅力と罠」から、宮田昇始さん(株式会社SmartHR代表取締役・CEO)、中尾豊さん(株式会社カケハシ代表取締役CEO)、笹原健太さん(株式会社Holmes代表取締役CEO)の発言要旨をご紹介します。

変化に挑むスタートアップの「ハードシングス」

「いずれも日本を代表する起業家。10年以内に上場する企業のトップだと思っている」

この日モデレーターを務めたJames Riney(Coral Capital創業パートナーCEO)は、共に登壇した3人のCEOを、そう紹介。セッション最初のテーマとして、順調に成長を続ける各社が今日まで、外からうかがい知れないハードシングスをどう乗り越えてきたか尋ねました。

創業後12回のピボットを経て2015年からクラウド人事労務ソフトを展開するSmartHRの宮田さんは、これに対し「法律と密接に関わる事業特有の難しさがある」と回答。もっとも、そうした難問に事欠かないことが「この1年で公認会計士5人が入社する」ほどのチャレンジングな魅力をもたらしていると話しました。

また、もともと製薬会社のMR(医薬情報担当者)で、調剤薬局向けの電子薬歴システムを提供するカケハシの中尾さんは「医療体験に対する患者の多様なニーズに応えようとする中で、ニッチな業界ならではの困難がある」とコメント。具体的には「特に現状への課題意識がない薬剤師にもプロダクトを通して変化を促す」という事業面、そして「専門知識がある社員に集中しがちな業務を他の社員に委譲する」という組織面での取り組みに時間をかけてきたと述べました。

さらに、紛争裁判を未然に防ぐというビジョンを掲げて起業した元弁護士で、企業の契約に関わる業務全般を最適化する契約マネジメントシステム「ホームズクラウド」を提供しているHolmesの笹原さんは「今までにないプロダクトだけに、社員はその世界観を高い解像度で理解する努力をしている」と回答。自身もハードシングスを抱えている最中だといい「会社が成長していく中で、今までの自分の器で対応できない壁に絶えずぶつかる。常に成長しなければならないという意味では、日々がつらい」と打ち明けました。

笹原健太さん(株式会社Holmes代表取締役CEO)

エスタブリッシュメントとスタートアップで、何が違うのか

安定した大企業などのエスタブリッシュメント的組織から、挑戦の機会を求めてスタートアップに転じる人も増えつつある中、James Rineyは、こうした選択のプラス・マイナス面についても尋ねました。

「一般論として、大手勤務よりキャッシュ(現金収入)は減る傾向だろうが、当社にも年収1000万円以上の社員がおり『超低い』わけではないと思う。スタートアップにはストックオプションの制度もあり、資産面も考慮すれば経済面での大きなリスクはない」

そう応じたのは、カケハシの中尾さん。エスタブリッシュメントでは得がたいスタートアップのメリットとして、同氏は「社内出世で終わらず、業界のスタンダードをつくる先駆者になれること」を挙げました。

Holmesの笹原さんは「急成長という良い面の裏返しで、スタートアップではプレーヤーとして成果を出している社員が、勝手の異なるマネジメントに回るケースが多くなる」と回答。「四大法律事務所出身・ニューヨーク勤務経験あり」という弁護士のエリートコースを歩んできた同社の社員が現在、未経験の意志決定やマネジメントに奮闘していることにも触れ「役割の変化を苦にせず、逆に楽しめればよいのでは」と述べました。

スタートアップの急成長が社員の明暗を分けることにはSmartHRの宮田さんも同意し「私の肌感覚では、会社より速く成長できる人は社員の1割から2割。たいていの人は付いていくのがやっとで、残念ながらついて行けなくなる人もいる」とシビアな実情を明かしました。ただ一方、同社では1エンジニアとして入社後4年でCTOに就くケースもあり「解くべき課題の難易度がどんどん上がる中、会社の成長を追い抜いていく社員には日々驚かされる」(宮田さん)とのことです。

ビッグネームで経験を積んだプロフェッショナルが、新境地で華々しい活躍をみせることもあるようです。カケハシの中尾さんは、投資銀行出身でEC大手の新規事業ファイナンス責任者だった同社社員がCOOと共に、30億円近い資金調達をほぼ決めた状態で報告に来たエピソードを紹介。「本来死ぬほど大変なのがスタートアップの資金調達。僕にはとてもできない、本当にすごいこと」と賞賛を送りました。

中尾豊さん(株式会社カケハシ代表取締役CEO)

共通の流儀と各社独自のカルチャー、そこで生きる資質とは

スタートアップ各社は「新たな領域を開拓しながら急成長する」点で共通する一方、その事業内容やカルチャーはさまざまです。James RineyはCEOの3人に、自社が守るカルチャーと、そこにフィットする人が備える資質についても尋ねました。

「なるべく指示を少なくしている。『自分を律して動ける人でないと苦しそう』というのが新入社員からの感想」(SmartHR・宮田さん)

「『ルールがあるから頑張れる』タイプだと大変。確立した国民皆保険制度で回ってきた業界の真ん中へ切り込む事業だけに、社内外のルールを変える発想を持つほうがうまくいく」(カケハシ・中尾さん)

「課題を前にうなるだけでなく、まずは自分で手を動かして少しずつ回しながら、周囲を巻き込んで改善につなげることが大事」(Holmes・笹原さん)

社員に求める資質として、3人で共通していたのは「自発性・自律性」。これが新たなビジネス領域で急成長を担うための、いわばマスト条件かもしれません。

さらに、主体的に動く判断材料を社員が持てるよう経営会議の内容も徹底公開しているというSmartHRの宮田さんは「会社の変わってほしくないところを社員に尋ねても『情報の透明性』がダントツ」とコメント。通算100万回以上閲覧されている採用候補者向けのオンライン資料では、社外秘まで明かした結果「オープンなカルチャーの当社で働きたい人が集まり、応募は公開前の5倍に増え、なおかつマッチングの精度も上がった」(同)そうです。

宮田昇始さん(株式会社SmartHR代表取締役・CEO)

カケハシの中尾さんは、自社の特徴について「執行役員レベルの優秀層も含め、なるべく役職を設けないフラットな組織で動いている」と説明。ヨコの関係を重視する同社には年間30~40人が入社しますが、中尾さんの観察では「ジョインから2、3週間で、業界事情を謙虚かつアグレッシブに学べるかが大事」とのこと。過去の経歴を問わず、新たな同僚から徹底的にヒアリングして一気にアウトプットする社員が速く成果を出しているそうです。

Holmesの笹原さんは、自社に根付く「承認する・されるカルチャー」を挙げました。同社では、日々の業務で成果を認め合うのはもちろん、月1回開く成果発表会で「承認されるのも義務」(同)というルールのもと、好意的な評価をきちんと受け止める姿勢を大切にしているそう。伝える側に戸惑いがなくなる結果、時間が足りないほどの盛り上がりをみせているといいます。

セッション終盤、James Rineyは3社の「5年後」と、そこに向けて求める社員像を質問。これに対し各社のCEOは、次のように答えました。

「当社は、国内で100万社に1社しかない『創業10年内に、上場してかつ時価総額1,000億円』を達成し得るポジションにいる。難しい問題を解く大きなチャレンジがしたい人を全職種で募集しており、一生に一度あるかないかのチャンスをつかみに行ってほしい」(SmartHR・宮田さん)

「5年後の便利、10年後の当たり前をつくる新事業を準備中で、社会課題の解決にゼロや1から取り組める状況。現在の当社は『優秀でいい人』が多く、社内で気遣い合うだけでなく、もっと頑張っていこうという雰囲気に軌道修正できる人を、特に事業開発、セールスの責任者として歓迎したい」(カケハシ・中尾さん)

「人事・営業・会計分野に続き、契約の分野でも活版印刷をベースにしてきたオペレーションが今後5年から10年で変わる。史上初の状況を楽しみながら組織をつくっていける人、ソリューションのセールスを通じて確かな価値をつくりだすことにワクワクできる人に来てもらいたい」(Holmes・笹原さん)

CEOの熱意と本音が伝わる貴重な40分を共有した参加者からは、壇上を後にする4人に盛大な拍手が送られました。

(取材・文:相馬大輔)

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