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成長SaaS企業のカスタマーサクセスづくり【前編】

SaaSを代表とするサブスクリプションサービスの台頭で注目される「カスタマーサクセス」。継続利用が前提となるサービスでは顧客の成功を支援することがチャーン(ユーザーの解約)を減らし、付加価値の高いオプションサービス販売を通した売上向上にも繋がります。カスタマーサクセスは比較的新しい業種であるため、社内でどう取り組みをはじめ、組織化していくのか、まだ書籍がたくさん出るほどには共有されているとは言えません。

ただ、すでに国内でも組織の壁を超えてカスタマーサクセスの試行錯誤や成功例を積極的に情報共有し、発信するコミュニティーが立ち上がっています。Coral Capitalでは、そんなコミュニティーに参加しているSmartHRの稲船祐介さんにお願いして、組織づくりやKPIの考え方などをお話いただきました。

カスタマーサクセスは、米国テック企業から書籍やブログの形で情報が入ってきてもいますが、日本のスタートアップとして実践してきた体験談や知見は、これからカスタマーサクセスに取り組もうとしているスタートアップや、創業チームの方々の参考になるでしょう。

株式会社SmartHR カスタマーサクセスグループ マネージャーの稲船祐介さん

――稲船さんは、2019年からSmartHRのカスタマーサクセスとして入社され、現在はマネージャーとして活躍されています。これまでのキャリアについて教えてください。

元々は、エンジニアを経てWebディレクターとして働いていました。主に受託開発を行っていたのですが、事業会社で自分の力を試してみたく、前職ではWebマーケティングの会社で企業のマーケティング支援サービスの立ち上げに携わっていました。

企業のWebマーケティングを支援するSaaSの立ち上げに参画しました。システムの仕様決めから営業・マーケティング・カスタマーサポートなど、あらゆる業務を経験しました。

このプロダクトをつくりあげていく中で、カスタマーサクセス組織が必要になると感じ、2017年頃からカスタマーサクセスについての勉強をしながら、CS組織を立ち上げました。

自分自身が組織を立ち上げていく中で、カスタマーサクセスをより深く追求したいと思い、前職で立ち上げた組織が一定の水準まで回るようになったタイミングで、SmartHRのカスタマーサクセスに2019年の1月からジョインしました。2020年の1月からはマネージャーとしてグループ全体のマネジメントをしています。

――ちなみに、カスタマーサクセスとして、現在SmartHRに応募される方も経験者が多いのでしょうか。

最近は、CS経験者が増えてきましたが、他の業種と比較しても経験者自体が少ないので未経験者の方も多いです。

初期メンバーは全く別の業種から来ている人もいます。弊社のCSチームの共通点を1つ挙げるとすれば、前職で「既存のお客さまとの関係を構築する仕事」をしていた人が多い点ですね。

カスタマーサクセス:プロダクトを通じた成功を顧客に経験してもうこと

――そもそも「カスタマーサクセス」とは社内でどのような役割を果たすのでしょうか。

カスタマーサクセスといっても、プロダクトや事業フェーズによってアプローチの仕方や内容が大きく異なります。どの企業にも共通するカスタマーサクセスの「極意」はありません。あくまで、SmartHRのカスタマーサクセスの考え方という前提で聞いていただけると幸いです。

とはいえ、仮にどのプロダクトや事業フェーズにおいても共通するカスタマーサクセスの役割があるとすれば、「プロダクトを通じたお客さまの成功」を経験してもらえるようにすることでしょう。

SmartHRは、人事労務の効率化を実現する「クラウド人事労務ソフト」を提供するSaaS企業です。SaaSは基本的に、継続利用してもらわなければ収益を得られないビジネスモデルです。受注に至るまでの活動やオンボーディングには大きなコストがかかります。初期段階に重心がかかる構造になっているので、収益を出すためにはお客さまにサービス・プロダクトを継続して使ってもらわなければなりません。

だからこそ、お客さまが継続利用する理由が必要なのです。カスタマーサクセスは、お客さまの成功体験の維持や、さらなる成功体験を生み出すことで、継続利用の理由を生む仕事であるともいえます。

継続利用が収益の前提となるビジネスモデルにおいては事業成長のために欠かせない役割となるのがカスタマーサクセスです。極論すると、売り切りモデルで収益が出るようなビジネスモデルであれば、もしかしたらカスタマーサクセスは重要ではない可能性もあります。社内でカスタマーサクセスを立ち上げる前に、その事業はカスタマーサクセスの設置が「事業成長」に繋がるか?と確認することも重要でしょう。

ひとことで「お客さまの成功」と言ってしまうのは簡単ですが、まずは各社にとっての「お客さまの成功の定義とは何か?」を考え、判断基準をつくることが大事です。

カスタマーサクセスのコミュニティ参加が近道

――カスタマーサクセスを立ち上げるべく、情報収集するとすれば、何からはじめれば良いでしょうか。

まずは、カスタマーサクセス関連のイベントやコミュニティに参加してみることをおすすめします。個人的な肌感ですが、CS業界は他の職種と比べてもナレッジの共有が進んでいます。カスタマーサクセスは職種として比較的新しいからこそ、情報もフルオープンにしてCS界隈全体で発展させていこうという空気があります。

検索すると色々出てくるので、自分に合うものに参加していくのが良いでしょう。私が参加しているイベント・コミュニティは「CS HACK」「Japan Customer Success Community(JCSC)」「Customer Success Cafe」「CSカレッジ」などです。

――それぞれのコミュニティの特徴について教えてください。

はい、それぞれの特徴は以下のとおりです。

CS HACKは、カスタマーサポート・CX・UX・UI・コミュニティなどがカスタマーサクセスの構成要素だという前提を掲げ、様々なテーマでイベントを開催しています。コミュニティマネジメント、SQL勉強会、シェアリングエコノミーのCSなど……幅広いテーマがあるので、自分の目的にあった回に参加することがおすすめです。

JCSCJapan Customer Success Comunity)は、カスタマーサクセスに取り組む企業の担当者がリレー方式で登壇し、CSにおける戦略・具体的な施策内容や成果、失敗談なども含めて学びを共有していくイベントです。毎回、1社の取り組みを深く掘り下げているのも特徴の1つです。自社が次のフェーズで施策や戦略を立てていくときの参考例を見つける場となるイベントです。

Customer Success Cafe は、カスタマーサクセスに関わったり、興味がある人たちのオフラインでの交流の「場」として、勉強会やイベントを不定期で開催しています。カスタマーサクセスの第一線でご活躍されている著名な方々の登壇も多く、最新の情報を得ることができます。最近はオンラインでの開催も行われました。

CSカレッジは、カスタマーサクセスに取り組んでいる企業のケーススタディを基にしたワークショップなどが行われる参加型・体験型のイベントです。カスタマーサクセスの仕事を体験できる企画が用意されているので、これからCSを立ち上げるという方には特におすすめです。

シリコンバレーなど海外からもカスタマーサクセスのナレッジのシェアなどがありますが、日本国内でもさらにアップデートされ、日本ならではのナレッジや手法も生まれているので、このようなイベントで情報をキャッチアップしています。そして何より同じCSに携わる仲間との出会えることがイベント参加の大きなメリットだと思います。

――おすすめの書籍などはありますか?

CS界隈で青本と呼ばれている有名な『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」』(ニック・メータ、ダン・スタインマン、リンカーン・マーフィー著、英知出版)と赤本と呼ばれている『カスタマーサクセスとは何か?――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(弘子ラザヴィ著、英知出版)です。SmartHRのCSもこれらの書籍を体制構築の参考にしてしてきました。

しかし書籍を参考に組織を作っても、うまくいかないことがたくさんあります。私自身もカスタマーサクセスとして働いていく中で、その難しさを日々痛感しています。全体の流れの中で課題解決に取り組むべきなのに、部分的な問題解決に目が行きがちで上手くいかなかったこともありました。

カスタマーサクセスの全体的な枠組みなどは書籍から学ぶことができますが、実際に現場で起こりうる問題やその解決方法などについてはイベントやコミュニティに参加して得た情報を参考にして、実務の課題解決につなげていくのが良いと思います。

SmartHR初期のカスタマーサクセスの組織づくり

――SmartHRでは、ユニット制などを取り入れていますよね。現在までのカスタマーサクセスの変遷について教えてください。

はじめはお客さまサポートを中心に行っていました。当時のお客さまは、従業員規模も20〜30名ほどと小規模で、チャットで絵文字などを使ったりしながらお客さまとフレンドリーなやりとりもしていたそうです。代表の宮田もお客さまのサポートに入って、積極的に声を聞いていました。

また、お客さまの元へ直接出向いて初期設定の作業を代行していた時期もあります。その過程で、多くのお客さまがオンボーディングできていないというデータが見えてきたため、オンボーディングに注力する体制へと変わりました。

オンボーディングを進めていくと、お客さまがつまづくポイントや説明の仕方などのナレッジが蓄積され、オンボーディングの型化が可能になってきました。さらに導入企業数も増え、従業員規模が大きい企業も増えていく中で、オンボーディングのステップや、導入後の運用サポートを分ける必要性が生じ、対応にも差が生まれてきたため、SMB担当・エンタープライズ担当とチームを分けることになりました。同時に「カスタマーサクセスの仕組化」が必要となり、仕組みを作るためのチームとして「CS Ops」(=CSオペレーション)が立ち上がりました。

CS Opsでは、使用するツール・データの整理方法や、ヘルススコアの設計、イネーブルメントなどを担っています。

現在のカスタマーサクセスは、3ユニットで構成しています。SMB・エンタープライズ・オペレーションで大きく3ユニットに分け、さらにユニット内でチームを組成しています。

――めまぐるしく組織が変化していますね。

プロダクトの成長に合わせて必死に組織の形も見直しています。ありがたいことに、プロダクトが急激に成長しているので、カスタマーサクセスもその動きに合わせるべく、四半期ごとに組織の見直しをせざるを得ない状況です。

記事後編では、カスターサクセスの組織づくりの具体的注意点などをお聞きします。

(取材・構成:馬本寛子)

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