自分の身体を実際よりも大きく見せる行動をとるように進化した生き物はたくさんいます。その例として、最初にフグを思い浮かべる人が多いかもしれません。他にも、フクロテナガザルというサルには、自分の頭くらいの大きさまで膨らませられる「のど袋」があります。カマキリは前脚を上げ、羽を広げて威嚇ポーズをとります。ホークモスという蛾の羽には、蛇の眼にみえる模様があります。そして、これらの威嚇的な行動とは当然全く異なりますが、スタートアップにも独自の手段があります。
先週の記事で書いたように、「夢」と「現実」のバランスは、全てのステージの会社に共通して繰り返し出てくるテーマの1つです。現実を語るといっても、様々なまとめ方や見せ方があります。起業家の仕事はなるべく魅力的な形で現実を伝えることであり、投資家の仕事は目の前の情報から現実を見極めることです。両者の事情を考慮した上で、現実を伝えるときの情報の序列を以下に示します。どういった点を強調するべきか判断するのに、起業家の方の役立つかもしれません。あなたが投資家なら、ビジネスの健全性を正しく把握するためのヒントになるかもしれません 。
ここで1つ注意しておきたいのが、「スタートアップ =成長」であるということです。以下に述べる数字がいくら素晴らしくても、成長を示していなければ、ベンチャーキャピタリストの目には魅力的に映らないでしょう。
利益
言うまでもないかもしれませんが、あらゆるビジネスの最終的な目標は利益を上げることです。したがって、利益はビジネスの健全性を表す最も有効な指標となります。利益が出ているなら、起業家はそのことを強調するべきでしょう。そして、起業家がそれを強調するということは、投資家にとってはそのビジネスの現実を示す重要なシグナルになります。
利益は様々な形で伝えることができますが、最終的にもっとも重要なのは純利益です。ただ、その数字が振るわないようであれば、代わりに調整後純利益または経常利益・営業利益などを見せることもできます。
売上高
利益面で強い数字を出せないのであれば、売上高に注目することになります。有望なスタートアップ ですら、長い期間、売上高にフォーカスする傾向があります。成長に注力するために利益の確保を見送っているということなので、これは必ずしも悪いことではありません。Amazonですら長く利益を出さなかったことで有名です。
売上高の見せ方はビジネスモデルによって異なります。サブスクリプション・ビジネスではMRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)を一般的に用います。取引手数料や、売り切り型のプロダクトの売上高を採用するビジネスモデルもあります。より大きく見せようと、GMV(Gross Merchandise Volume:流通総額)などの取扱高関連の指標を使うスタートアップもあるかもしれません。GMVがなぜ問題かというと、実際に収益化できている額を必ずしも表しているわけではないからです。単に将来的に収益化できるかもしれない額を示しているだけです。
アクティブユーザー数
売上高がイマイチであれば、アクティブユーザー数を中心にプレゼンするという選択肢もあります。提供するプロダクトのタイプに応じて、月間(MAU:Monthly Active Users)、週間(WAU)、もしくは1日あたり(DAU)のアクティブユーザー数を採用します。たとえば、ニュースアプリならDAU、フィットネス系のアプリならWAUやMAUが適しているかもしれません。アクティブユーザー数の問題は、GMVなどと同じで、将来マネタイズにつながる指標でしかないことです。
ダウンロード数もしくは登録ユーザー数
アクティブユーザー数が微妙であれば、ダウンロード数や登録ユーザー数を強調するパターンもあります。率直に言えば、これらはあまり健全な指標ではありません。ビジネスの目標は、ユーザーにただ単にダウンロードや登録をしてもらうことではなく、実際にプロダクトを使用してもらうことだからです。これらの数字を伝えること自体にはもちろん何の問題もありませんが、アクティブユーザー数がどこにも書かれていなければ、何かを偽ろうとしている黄色信号であると個人的には受け止めます。
受賞歴またはメディアでの取り上げ
上に述べた指標がどれもパッとしない場合、受賞歴やメディアで取り上げられた事実に焦点を当てることもあるかもしれません。たとえばピッチコンテストでの優勝や、東洋経済の「すごいベンチャー100」で紹介された実績などです。これらをリストに入れることには全く問題はありませんが、トラクションを伴わない場合、他に語るべきことがほとんどないと自ら言っているようなものです。
何かを売り込むとき、自社をよりよく見せるために最善を尽くすのは当然のことです。起業家の仕事は会社のポテンシャルを売り込むことで、投資家の仕事はそれを評価することです。つまり、不正直でないかぎり、プレゼンで強調するべき数字を選ぶのは自由です。とはいえ、プレゼンで何を伝えているかより、何を伝えなかったかの方が多くを語ることもあります。強いポジションを築いている企業は、今回のリストの上位にある項目を伝えるものです。鋭い投資家なら、このことに気づき、起業家がこうした指標をプレゼンに入れているかどうかに関わらず、きっと具体的な数字を尋ねるでしょう。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital