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オンラインイベントに欠けているもの

本ブログは独立系アナリストのベネディクト・エヴァンス氏(Benedict Evans)の論考、「Solving Online Events」を氏の許可を得て翻訳したものです。エヴァンス氏は20年のわたってモバイル、デジタル・メディアを始めとするデジタルテクノロジーの動向や戦略を分析を本業とし、ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitzでパートナーを勤めていました。


今のオンラインイベントを見ていると、1996年頃のEコマースを思い出します。ソフトウェアは未熟で、ところどころ出来が甘く、うまく動作しないことも多々あります。それはそのうち修正できるでしょうが、より重要なのは、どんなプロダクトを作るべきか誰にも見当がついていないことです。

カンファレンスやイベントは、いくつかの要素が組み合わさったものと言えます。まず、ステージで誰かが話したり、発表したり、パネルディスカッションをしたり、質問に答えたりするようなコンテンツがあります。通路ではランチやドリンク、コーヒーを片手に参加者同士が交流しています。それから何十、何千ものブースやスタンドが立ち並ぶ展示会場があります。そこでは業界中のプロダクトを一挙に見ることができ、各社のエンジニアや営業担当者と話すことができます。さらに、業界の全員が集まるイベントに合わせて設定したミーティングもたくさんあるでしょう。本当に大規模なカンファレンスになると、イベント自体には参加しないという人も少なくないのです。CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)やMWC(モバイルワールドコングレス)に行く人の多くは、実際のカンファレンスや展示会場には行かず、ラスベガスやバルセロナのホテルのスイートルームでクライアントやパートナーと会うために来ているのです。業界中の人がイベントに足を運ぶのは、業界中の人がイベントに集まっているからなのです。

いくつかの要素がある中、現在、オンラインで機能しているのはコンテンツの部分だけです。カンファレンスで行われるプレゼンテーションやパネルディスカッションを動画配信にするのはとても分かりやすいでしょう。ですが、他の部分はそう簡単ではありません。

理由は、人々がイベントに行く目的を果たすための良いオンラインツールがないことにあります。一番分かりやすいのは、同じイベントに来ている業界人と偶然知り合い、会話が盛り上がる体験をオンラインで再現できるソフトウェアがないということでしょう。誰もまだネットワーキングイベントを本当の意味でオンラインにするプロダクトを作れていません。動画配信の視聴者全員が利用できるテキストチャットのチャンネルを用意するだけでは、カクテルパーティーを再現したことにはならないのです。また、MWCでQualcommやEricssonのブースに立ち寄り、順番を待って、ブースにいるエンジニアに聞きたいことを質問をするといった体験をどのようにオンラインで再現できるでしょうか。オンラインで営業担当者と話す予約を入れることはできますが、それではまるで違います。

つまり、通路でネットワーキングすることを中心に設計されたカンファレンスは多くありますが、 オンラインに移行しようとしても、オンラインに通路はないのです。

もうひとつ、いくつかの要素をオンラインに移せたとしても、それがイベントと連動しているようには感じられないことが挙げられます。確かに、ホテルで行うミーティングをビデオ通話にすることはできます。しかし、ビデオ通話をするなら、それがいつ、どこで行われようと関係ないはずです。CESではいつも大勢の人がミーティングを行っています。それをすべてビデオ通話にしたからといって、CES開催期間である1月の最初の週にZoomの利用量が急増するなどということは起きません。こう説明すると当たり前のことのように思えるかもしれませんが、オンラインイベントの参加者が1時間のビデオ通話の予定を入れるためにカンファレンスプラットフォームの機能を使い、それに課金できると信じているオンラインイベントを私はこれまで数多く見てきました。オンラインのネットワーキングツールにも同じことが言えます。毎年2月のたった4日間しか使わないプロダクトを作る意味があるのでしょうか。現実のイベントでは、様々な形で交流が起きています。そしてイベントとは特定の場所の特定の日時に人を集めたものであるとも言えます。しかし、それをオンラインに移行した瞬間、場所や時間で括ることに何の意味もなくなってしまうのです。

イベント主催者やイベントプラットフォームが、すべての要素を1つのウェブサイトの特定の日程に詰め込もうと考えるのは理解できます。ですが、その考えは、1990年代の「バーチャルモール」に似ているように思います。お客と小売店を集めるショッピングモールは、お客にとっても小売店にとっても価値があります。ウェブが登場し、人々がオンラインで買い物をするようになるのは明らかでした。ですが、それをどのような形にすべきかは分かっていませんでした。小売店はそれぞれ自分たちのウェブサイトを持つべきなのか。それともトラフィックを集約する地主がいて、「バーチャル・ショッピング・モール」がたくさん存在するべきなのか? そうはなりませんでした。ショッピングモールのような集約モデルはオンラインでは意味がなかったのです。もちろん、今ではGoogleやInstagramにアグリゲーターは存在しますが、それはショッピングモールのような役割とはまったく異なります。オンラインへの移行は、そうした集約をなくすことであり、カンファレンスでもまた同じことが起きるでしょう。

ロックダウンが収束するにつれて、形は変えつつ現実のイベントの多くを再開するというのが答えの一部であると思います。ですが、それと同時に、まったく新しいアプローチのツールが登場し、新しい行動や習慣が生まれるのではないかと私は考えています。

例えば、ネットワーキングイベントはかなり非効率的で運任せな部分が多いように思います。50人、500人が集まる会場で1、2時間過ごし、純粋に交流を楽しむことができるかもしれません。しかし、仕事に役立つ交流をするのが目的だとしたら、あなたは1時間で会場にいる何割の人と話すことができるでしょうか。話す人があなたの目的に合う確率はどれくらいでしょうか。その部屋にはそもそもどのような人がいるのでしょうか。部屋を見渡して誰と話すか判断できるよう、このブログのトップ画像(訳注:関ヶ原の戦いの屏風絵)のように、全員がバナー(戦のときののぼり)を身に着ける方法を私はときどき提案したりしています。

ネットワーキングを機械に任せるという手もあるでしょう。私が内向的だからそれを望んでいるだけなのかもしれませんが。とはいえ、偶然の出会いやアルコール耐性の影響を受けない形で、イベント周りのネットワーキングをスケールさせるチャンスがあるのは確かです。ひと昔前、Twitterがその役割をいくらか担っていました。また、オンラインデートの爆発的な増加を見ると、集まっている人やサンプルセットによって成果が変わることが分かります。2017年、アメリカでは新しい交際の40%がオンラインから始まっています。

また、ロックダウンの前、パートナーやクライアント、知り合いとの急ぎではないミーティングを、「次に同じ街にいるときにしよう」と約束することが良くあったのではないでしょうか。特定のイベントがあるとき、あるいは「次に私がベイエリアに行くとき」とか「君が次にニューヨークに来たとき」など、会えるタイミングで会おうと約束したミーティングです。今年の1月なら、誰もそうしたミーティングをビデオ通話にしようとは思わなかったでしょう。ですが、今ではすべてのミーティングがビデオ通話なので、そうした約束もビデオ通話にできます。「次にどこどこの街に行ったとき」や「CES/NAB/MIPCOMのとき」ではなく、今週、ミーティングを設定できるのです。この数か月で、従来の習慣が劇的に変わりました。すべてのミーティングが同じように変わった先が、どうなるのか私は興味があります。

オンラインイベントにおける主張のいくつかに反論すると、現代美術家ジェームズ・タレルは、自分の作品「ローデン・クレーター」は、本当に関心がある人しか見れないことが価値でもあるのだと話していました。飛行機とホテルを予約し、チケットを手配して、数日がかりで行くのです。カンファレンスでも同じようなことが起きていると言えます。イベントには本当に関心のある人を選別する効果があるのです。特定の業界や分野に関心がある人を、特定の日程に集中的に集めることには価値があります(もちろん、それには排他的な効果もあります)。

新しいツールが登場するたびに、私たちはそれを従来のやり方に合わせようとします。そしてある日、違うやり方があるのだということに気づき、、最終的には仕事そのもののあり方を変えてしまうものであると気づくのです。この先また、再び飛行機に乗ってカンファレンスに行く日が来るでしょう。ですが、それと同時に、同じ街の同じ時間帯にいたり、そのような体を装ったりせずに、人と意見を交換する全く新しい方法や、人と知り合う全く新しい方法が登場することを私は心待ちにしています。

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