混乱の続いた2020年もようやく終わりに近づいてきましたので、今回は今年最後の記事として軽めの話題で締め括りたいと思います。私は毎年たくさんの本を読んでいますが、2020年も例外ではありません。家で過ごす時間が長くなったので、むしろいつもより読書量が増えました。
冬休みに入り、このブログを読んでいる読者の方たちも家でゆっくりと読書をする時間がいつもより増えることと思います。そこで、まだ読む本を探しているという方のために、今年読んだ中で特におすすめな3冊を紹介したいと思います。お好みに合う本が見つかれば幸いです。
ただ、最初に伝えておきたいのですが、これから紹介する本を私は全て英語で読んだので、日本語訳がどうなっているかはわかりません。もともとのオリジナルは英語で書かれているので、英語で読めるのなら、そうすることをおすすめします。ですが、どれも日本語訳でも十分に読み応えのある本だと思います。
「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド著、原題「Guns, Germs, and Steel」)
Yuval Noah Harariの「サピエンス全史」や「ホモ・デウス」を面白いと思った方なら、きっとこの本も気に入ると思います。地理学者であると同時に歴史学者、人類学者、そして鳥類学者でもあるJared Diamond氏がその幅広い知識を総動員し、なぜ人類史において一部の文明が他よりも早く発展できたのかを説明します。なぜ、他の文明ではなく、ヨーロッパ人が地球上の多くの地域を征服できたのか。早くから農耕社会へと移行した文明がある一方で、その後何千年も狩猟採集社会のままだった文明があるのはなぜか。Diamond氏によると、これらの違いの多くは主に環境の差異によってもたらされたものであるとのことです。例えば、運よく栽培や家畜に適した植物や動物が生息している地域で生まれた文明もあれば、最適な気候や豊富な資源、もしくは貿易において戦略的に有利な土地に恵まれた文明もあります。それらを全て享受できた文明もあるのです。
20年以上前に書かれた本ですが、もはや古典と言っていいでしょう。しかも、ピューリッツァー賞のお墨付きです。
「スノーデン 独白:消せない記憶」(エドワード・スノーデン著、原題「Permanent Record」)
Edward Snowden氏がアメリカ政府の大規模監視システムの存在を告発した事件については、多くのメディアや書籍で取り上げられ、映画化もされました。しかし、本人の視点や言葉で語られる話からは、これまでとはまったく違う一面が見えてきます。Snowden氏の明晰な思考力や表現力の高さを感じさせられる1冊であり、時にはユーモアさえも交えつつ彼自身から見た一連の出来事が語られます。ただ面白いだけではなく、読むことで深く考えさせられた本です。
「国際指名手配犯 私はプーチンに追われている」( ビル・ブラウダー 著、原題:「Red Notice」)
作者のBill Browder氏はHermitage Capital Managementというヘッジファンドの共同創業者です。同ファンドは最盛期にはロシア最大の外国人投資家にまで上り詰め、1997年には世界で最も運用実績が高いファンドとして注目を集めました。当時はソビエト連邦が崩壊してまだ間もなく、ロシア中で企業の民営化が盛んに進んでいた時期でした。しかし、大企業の多くは裏取引でタダ同然の値段で売り渡されてしまっていて、その結果、組織の腐敗が常態化し、企業の実際の大きさやお金の流れが不透明な状況でした。そこでBrowder氏はそれらの企業の実態を調査し、時価と実際の資産価値との間に大きな乖離があることを明らかにした上で投資しました。そして、株主アクティビズムを通じて矛盾や腐敗を暴くという戦略を取ったのです。もう想像がつくかもしれませんが、この戦略は怒らせてはいけない人たちを怒らせてしまい、特に民営化の流れで新興財閥として強大な力を得ていたオリガルヒの逆鱗に触れました。Browder氏は最終的にはプーチンに目をつけられ、2005年にロシアから強制追放されました。
しかし、話はそこで終わりません。モスクワにあった複数のオフィスが襲撃され、2億3,000万ドル(約240億円)相当の税金が横領されました。さらに彼の顧問弁護士であったSergei Magnitsky氏が逮捕され、1年にわたる拷問の末、獄中で撲殺されました。
まるで犯罪スリラーもののような読み応えで、守ってくれる法律やルールがほとんどない世界でファンドを立ち上げ、お金だけではなく命すら危険にさらされながらも奮闘する様子が描かれています。目の前で起こっているかのような臨場感に引き込まれ、ページをめくる手が止まりませんでした。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital