クラウド・スマホの組み合わせによって食のバリューチェーンに大きな再編の波が押し寄せています。大きく言えばFoodTechで総称される領域のイノベーションとして、国内でもUber EatsやChompyといったフードデリバリー系のスタートアップが立ち上がり、一方そうしたフードデリバリー専門サービスの存在を前提として、店舗を持たず厨房だけを開業するゴーストキッチンなど新業態も出てきています。
そうした時代背景に加えてコロナ禍の中でサービスを伸ばしているのがCoral Capital出資先のシェアダインです。栄養士やレストランのシェフが家庭に出張してきて、糖質オフや妊活向けの食事、ダイエット目的など、個々人や家庭の事情に合わせてメニューが選べる多様な作り置きの食事を作ってくれる。そんな全く新しいサブスク型サービスを提供しています。
シェアダイン共同創業者・共同代表の井出有希さんが、サービスの狙いと現状について語りました(※本記事は記者向け勉強会「Coral Seminars」からの内容をまとめたものです)。
共働きだと時短料理ばかりで義務っぽくて楽しくない
井出さんがシェアダインを創業した背景には、妊娠をきっかけに家庭内の食事に悩み始めたことがあるそうです。外資金融や戦略コンサルティングファームでキャリアを築いてきた出井さんは、こう言います。
「子どもを妊娠してから意識が変わりました。今は手軽な食事ということだと冷凍食品やミールキット、完全栄養食品などの選択肢はあります。それなのに自分に合った健康的な食事となると難しいなと感じていました。子どもの偏食がひどかったこともありますが、もっと栄養士の専門家と繋がれるといいのにと感じていました」(シェアダイン井出さん)
家族の健康のことまで考えたときのモヤモヤに加えて、共働きだからといって「時短」にフォーカスした料理ばかりだと、義務的に感じられて、食事自体が楽しくないという思いもあったそう。
コロナでレストランに行けないし、デリバリーにも飽き気味
シェアダインの創業は2017年ですが、コロナ禍により時代の要請が以前にも増して明確になってきたと言います。
「出張シェフサブスクが受け入れられる時代背景としては、家事代行サービスの広がりで自宅に他人を入れることに抵抗感が減ったことや、シェアリングの概念が広がったことがあります。それに加えてコロナ禍においては、レストランに行けず、かといってデリバリーも飽きてきたという状況が続いてる家庭が多いのではないでしょうか。保育園や学校が休園もしくは休校となって、急に自分たちで食事を用意しなければならなくなった。そんなこともシェアダインが急速に伸びている背景にあると思います。『おうちレストラン』のニーズが伸びているのです」(井出さん)
ビジネス面でいえば、学校が休校になって給食がなくなるのと似た話で、「在宅勤務が増えて社食など一律のサービスが届かなくなり、福利厚生の1つとして企業が話を聞いてくれるようになっている」(井出さん)ということもあるそうです。
シェアダインは利用者となる家庭と、プロのシェフや栄養士をマッチングするサービスですが、シェフ側のニーズはどうでしょうか?
「外食産業はコロナの打撃で市場が縮小しています。そこで店舗に頼らない働き方を模索するシェフの方が増えています。サービス開始から2年半で、シェアダインのシェフ登録は800名を超え、CMGR 11%で伸びてます」(井出さん)
出張料理はレストランのシェフと違い、個別の家庭に合わせるので、結果としてスキルや料理の幅を広げることになるという声も少なくないそうです。
1回のシェフ訪問で家族4人の4日ぶんを作り置き
シェアダインではライフステージやライフスタイル、食事のテーマを選択するとシェフがマッチングされて、1食645円から利用できます。1回の訪問で作るのは16食分。4人家族なら4日分、単身世帯なら2週間程度の食事量になるそうです。
「例えば妊活に取り組むご夫婦なら、産科で栄養指導も行う管理栄養士など資格を持った専門家をマッチングします。ほかにも赤ちゃんの離乳食、生活習慣病対策、筋トレをしている人のこだわりメニューなどにも対応します」(井出さん)
国内でシェフの数は推定200万人。まだまだ伸び代のあるサービスですが、今後どういう方向性を志向していくのでしょうか?
「家庭ごと、個人ごと、食べる人々にどこまで寄り添えるかが価値で、それが内食市場での勝ち筋だと思っています。今後は属性データや喫食データを使って、よりパーソナライズしていき、利用者の皆さんに気づきを与えたり、食事という体験をもっと楽しんでもらえるようにしていきたいと考えています。その意味でもテクノロジー活用が鍵で、もっとエンジニアを増やしたいですね」(井出さん)
Editorial Team / 編集部