優秀なCOOの条件は経営陣との相性で決まる、ユーザベース共同代表のアドバイス
急成長するスタートアップが遭遇しがちなのが、「CxOの採用をどうするか」という問題です。新規事業を立ち上げたり、業務拡大をはかるとき、スタートアップにはどんな人材が必要で、どのようにアプローチして、どう口説けばいいのか——。
そこで今回の記事は、多くのスタートアップが直面する「CxO採用」を深堀り。事業の拡大に伴いCOOの募集を開始したという、株式会社空CEOの松村大貴さんの悩み相談の模様をお届けします。
空はホテル・モビリティ企業等のダイナミックプライシングを実現するSaaS「MagicPrice」を提供するスタートアップです。2020年5月には近鉄ベンチャーパートナーズから資金調達を実施しました。
今回、空の悩みに答えてくれたのは、株式会社ユーザベース共同代表Co-CEOの佐久間衡さん。同社は創業以来、複数人が共同代表に就き、お互いの強みを活かし、弱みをカバーし合う「チーム経営」を掲げています。佐久間さんにはチーム経営の視点からアドバイスしてもらいました。
(情報開示:Coral Capitalは空に出資しています)
「優秀なCOOの条件」は経営陣との相性で決まる
松村:これからスケールしていくためにCOO候補を絶賛募集中なんですが、苦労していまして……。佐久間さんには、優秀なCOOの探し方はもちろんなのですが、その前に、ユーザーベースさんが掲げている「良い経営チーム」について教えていただきたいんです。
佐久間:ユーザベースは創業者の新野、梅田、稲垣の3人による「チーム経営」を続けてきた会社なんです。チーム経営というのは、自分の弱みを他の人の強みが補いつつ、逆に、他の人の弱みを自分の強みで補うこと。デコボコな人間でも、弱みを補完してもらいつつ、自分の強みにフォーカスして付加価値を出していくことだと思っています。
私がユーザベースに入社した2013年に代表だった梅田は、できないところが明確なんです。細かい仕事がすごく苦手な一方で、大企業のトップの心を鷲掴みにするところもある。すごいデコボコだなと思いつつも、周りがサポートすることで事業が伸びていたので、それでいいんだと。
「良いCOOの条件はなんですか?」という質問については、チーム構成によって求める人材が異なるので、答えるのは難しいところがあります。CEOの松村さんがどんな人で、どこに強みを持っていて、どんなことが少し苦手で……、というところに答えがあるのかもしれませんね。
松村:なるほど。チームはそれぞれの強みで補完し合うことが前提なので、チームごとに答えが違ってくると。
佐久間:そうですね。ユーザベースはいろんな事業をやっていて、COOと名の付く人が何人もいますが、特性は全員バラバラなんですよね。管理系の仕事に強い人もいれば、モデリングに強い人がいたり、顧客グリップがめちゃくちゃ強い人がいたりとか。
松村:経営陣の能力や個性、相性によって「良いCOO」の定義は変わるということなんですね。
「社外×人」「社内×人」「プロダクト」の3要素で考える
松村:スタートアップ創業メンバーの構成を語るとき、ハッカー(開発者)とハスラー(ビジネス)とヒップスター(デザイナー)が必要だと言われることもあります。
佐久間:私が事業をスタートするときは、「社外×人」「社内×人」「プロダクト」という3つの要素を考えるようにしています。
「社内×人」というのは、モチベーションが高く、行動の強度が高いチームを作れる人。「社外×人」は、連日の飲み会も歓迎で、すぐに人を好きになれるような人。ユーザーや仕事のパートナーが好きでたまらなくて、共創する状況を作る能力に秀でているのが特徴です。「プロダクト」はその名の通りプロダクト価値に精通している人ですが、「ビジョン」を語れる人と言い換えることができます。
新しい事業をスタートするときは、この3つの要素がそろっているかが大切だと思います。「この人は『社内×人』の要素が強いから、補完的に『社外×人』の要素を持つ人が必要だよね」みたいな考え方です。空さんは今、どんな感じなのですか?
松村:社内の役員でいうと創業者の私と、CTOの田仲の2人体制ですね。私の担当領分は、佐久間さんの分け方でいうと、プロダクトやビジョンに近いと認識しています。
その一方で、人間を見るのがすごい苦手でして……。人事制度を作るのは好きなんですけど、個人のモチベーションを上げるのが得意ではないんです。そのあたりは、人を見るのが上手な田仲がカバーしてくれていますね。
今話していて気づいたのですが「社外×人」の要素を持つ人がいないですね。私はプロダクトを広めるエバンジェリスト的な動きもしているのですが、「このままではスケールしなそうだな」と、もやもや感じているステージではあります。
報酬ギャップを埋める方法はストックオプション以外にもある
佐久間:ストレートに聞きますが、COOには何を期待しているのですか?
松村:段階的に2つの役割を期待しています。1つは自身でBizDevができる、トップ営業ができる人材です。空の事業は単にツールを売るのではなく、経営層の方を相手に数千万〜億円単位の商材をコンサル的に提案するので、経営の話ができて、事業提携の契約が結べるような人材が欲しいですね。
もう1つの役割は、営業とマーケティングの溝を埋めるようなマネージャーですね。さらにステップアップしてもらえるのであれば、内向きの会社経営を任せたいと思っています。私が長期ビジョンを発信するので、四半期や半期の目標達成を任せられる人に来てほしいですね。
佐久間:松村さんの言うような人材を探すのはなかなか大変ですね(笑)事業開発ができて、営業もマーケも理解できて、なおかつ、スタートアップマインドがある人って、市場には少ないですよね。いま最も困っているのが大企業向けの事業開発であれば、まずはその部分に強い人を探してみてはどうでしょうか?
数千万〜億円単位の商材を扱えるスキルを持っている人となると、事業部や経営企画部、情報システム部を横断的に抑えて営業してきた人ですよね。極端な言い方ですが、外資系のソフトウェアベンダーに絞れるかもしれませんね。
松村:外資のエグゼクティブクラスになると給与面のハードルも高そうです。
佐久間:外資のセールスの給与が高い要因のひとつは、セールスインセンティブなんです。日本で取り入れているスタートアップは少ないですが、採用したい人材に合わせたインセンティブを導入してもいい。多くのスタートアップは、採用時の報酬ギャップをストックオプションで解決しようとしますが、インセンティブを外資系の会社のように設計することも一案だとは思います。
松村:ちなみに佐久間さんは、前職(UBS証券投資銀行)からユーザベースに移ったとき、報酬面はどう変わりましたか?
佐久間:3分の1ぐらいですね。
松村:おおお。
佐久間:3分の1といっても、ユーザベースが給与テーブルを導入した後のタイミングだったので、それなりに高かったんですよね。800〜900万円くらいだったと思うんですけど。
松村:入社時にストックオプションの話はあったんですか?
佐久間:何もなかったですね。ただ、当時役員は自分のお金で自社株が買える制度がありました。入社時は知らなかったですが(笑)私は入社後半年ぐらいで役員になったのですが、一部借金して株を買いました。手金なしでもらうストックオプションよりも、しっかりリスクも追うという意味で、いい意思決定だったと思っています。
最近では、代表だった梅田が非常勤取締役になったのに伴い、梅田が持っている株の一部をストックオプションの形で一部のユーザベースの従業員が買えるようにしたんです。梅田は自分がユーザベースを辞めるわけではないけど、次を担う人たちが株を持てるようにしたかった。株を付与されるのではなく買うことで、リスクを取りつつリターンがある、というフェアな仕組みがつくれます。
松村:サラリー面が減ってしまうチャレンジャーに対して、「出資してもいいよ」というスキームはハマるかもしれませんね。
佐久間:はい、ある程度、しっかり働いて、お互い見極めてからがいいとは思いますけど。
入社後にフィットするのは「現場にダイブできる人」
松村:佐久間さんが面接されていた方々は、CxOや執行役員として採用するのが前提だったのですか?
佐久間:いえ、ユーザベースの採用の特徴でもあるのですが、入社時から役員待遇するケースはほとんどないんですよね。
松村:まずはメンバーとして入ってもらうんですね。面接ではどんなことを意識しているのでしょうか。
佐久間:一次面接のような初期の段階では、とにかく興味を持ってもらうことを意識します。最初の2〜3分話してちょっとでもいいなと思ったら、残りの時間はその人をアトラクトすることしか考えませんでしたね。ひたすらビジョンを語っていました(笑)
最後のプロセスでは逆に、自分たちの失敗例ばかりを話しますね。たとえば、前職で高いパフォーマンスを出していても、ユーザベースとフィットせずに短期間で辞めてしまった人もいるんです。そういった事例もリアルにお伝えした上で判断してもらうようにしています。
松村:ちなみに、ビジネスサイドの幹部として入社してフィットする人と、しない人の違いはどこにあるのでしょうか?
佐久間:営業にコミットできるかどうかですかね。ビジネスサイドでは、営業してお客さんの信頼を得て数字を作ることが基礎だと思うんです。営業を下に見たり、短期的な成果を出す人を十分リスペクトできない人は辛いですよね。
ビジネスサイドの幹部であれば、計画の段階で数字が足りないのがわかったら、自分が営業パーソンとして売りに行けるかどうかは重要だと思うんです。営業に限らずとも、マネージャーやシニア層の採用では、現場にダイブする選択肢を常に取れるかどうかを見ています。
「いきなりCxO入社」の良し悪し
松村:CxO候補として入社することの功罪もある気がしています。CxOとして入社して、すんなりフィットしてくれればいいのですが、中にはハードランディングしてしまうケースもありますよね。私たちもCOO候補を募集していますが、それが最適なのかどうか、悩んでいます。
佐久間:私だったら、候補者にどちらがいいか聞きますね。最初からCOOとして入ると、当然周囲の期待もすごい高いし、うまくいかない場合はCOOから降格する可能性もある。反対に、COOとして入らなくても、営業や事業開発で結果を出して、みんなの信頼を集めてCOOになる道もある。その上で、どちらがいいですかと選んでもらえばいい。役員待遇で入社するということは、降格するリスクもセットなので、入社前の段階でちゃんと話すべきですね。
松村:確かに、それが本人の腹落ち感もありそうです。本人に自信があれば、COOとして入っていただけばいいですし、リスクも含めて考えられる方法ですね。ものすごくクリアになりました。
佐久間さんとのお話を通じて、「優秀なCOO」はCEOや他の取締役の能力や性格との相性で決まるというのは気づきでした。改めて、自分自身の棚卸しをしたうえで、空に興味を持ってくれるCOO候補の方とお話からでもさせていただければと思います。
Editorial Team / 編集部