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大企業のほうがスタートアップよりリモートワークが得意なワケ

フルでリモートワークをはじめるとなると、大きな組織のほうがスタートアップのような小さな組織と比べて導入が難しそうな印象があるかもしれません。しかし、難しさの理由が異なるだけで、実はスタートアップにとっても完全リモートへの移行は同じくらい高いハードルになり得ます。
ある程度の大きさ以上に成長した組織では、何十人とか何百人、さらに大きければ何千人もの人たちの間で連携を取り、情報を共有しなければならないため、様々な方針や手順の策定が必要になってきます。こうした組織では、全員が同じオフィス内で働いていたとしても、常に他の部署の人たちと連携を取らなければなりません。そういった意味では、すでに「リモートワーク」をしているとも言えます。しかも、実際は離れた場所同士で連携することのほうが多いので、その場合、場所が自宅やカフェではないというだけで、まさにリモートワークそのものです。
このような複雑さに対応するために、組織内には様々な制度が導入されているものです。たとえば、多くの組織には決められた新規採用者のための研修制度があり、新しく採用された社員はオリエンテーションやトレーニング、場合によってはさらにメンター・プログラムなどを通して組織にきちんと馴染めるよう導かれます。参考となる資料もおそらく膨大な量が用意されています。そのようにして、運営や業務の進め方などがすでに決まっているシステムの中に組み込まれていくわけですから、あまり良い例えではありませんが、すでに完成されている機械の中のいわば「歯車」のようなものです。
一方で、スタートアップはまだその「機械」を作っている段階にあります。会社の成長ステージにもよりますが、運営やカルチャーどころか、まだビジネスさえも完全に確立されていない場合もあるでしょう。これらの基本要素を作り上げるためには、メンバー間のクリエイティブなやりとりや確かな信頼関係が必要になりますが、残念ながらどちらもリモートワークが不得意とする分野です。小規模なチームであれば、同じ場所で働いたほうがよほど速くフィードバックを繰り返して議論を進められます。リアルタイムな会話のほうがやはり速いということもあり、誤解や懸念、対立する意見などにも即座に対応して解消できるからです。また、企業カルチャーにとってもリアルタイム性が重要で、意識的であろうとなかろうと、同じ場所で仲間たちとともに苦難を乗り越えていく中で醸成されるものです。つまり、ビジネスを作るにしても、カルチャーを作るにしても、1つの場所で小さなチームで取り組んだほうが新しいものを作る環境として適しているのです。
こうした背景が、スタートアップのほうが新しいビジネスの運営が得意で、大企業のほうが既存ビジネスの運営やスケールアップに秀でていることが多いという傾向につながっている一因です。大企業のような大きな組織は、部署間の「リモートワーク」を通して1つの組織として連携する術をすでに極めています。最新のコラボレーション・ツールを活用してリモートの「仕事」を管理するという点では、スタートアップから学ぶことが多いかもしれません。一方で、スタートアップにとっても、リモートで「人」を管理するための制度については、大きな組織のやり方を参考にしなければならない点がたくさんあります。
スタートアップの成長過程において、どの時点で「大きな企業になった」と感じるようになるのかについては様々な意見があります。30人くらいからと答えるCEOもいれば、100人や300人と答える人もいます。いずれにしても、リモートワークへ移行した組織ではそのターニングポイントとなる閾値が著しく低下するようです。全員が同じ場所で働くことによるメリットが失われた状況では、明確なコミュニケーションやスムーズな連携を再現するために各種制度を早めに導入しなければなりません。そういった意味で、最近ではスタートアップの間でもOKRや資料作成ルール、オンボーディングの仕組み、1on1ミーティングなどの「大企業的」なベストプラクティスの重要性が高まってきているようです。それは必ずしも悪いことではないですが、今後の新たな必要コストとして考えるポイントにはなるでしょう。
今年にかけてワクチンの供給がこのまま順調に進めば、多くの企業にとってリモートワークはもはや必須ではなく、選択肢の1つへと変わっていくでしょう。以前にも書きましたが、個人的にはリモートと対面を織り交ぜたハイブリッド型アプローチが、両方のメリットを最大限に活かせるという点で理想的だと思います。すでにオフィスを手放し、短期的なバーンレートの低下というメリットを選んだスタートアップも多いようですが、彼らがこの先またオフィスへ回帰するのか、そのままリモートを続けるのか、それとも両方を取り入れた働き方を選択するのか、今後の展開が興味深いところです。

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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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