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米国テック業界を知る「ニュースレター」のオススメ10選

本記事はTemma Abe氏による寄稿です。Abe氏は東京大学経済学部を卒業後に新卒で三菱商事に入社。2016年からのアクセンチュア勤務を経て、2019年からは米国西海岸に在住し、UC BerkeleyでMBAプログラムに在籍しています。就職活動や授業、課外活動を通じてテック業界の情報をフォローしています。また、現地で流行のニュースレターやポッドキャストを数多く購読しており、そこから得られる情報やインサイトを日本語で発信する活動をされています。


最近は日本のメディアにおいても、ニュースレターについて取り上げられることが増えてきた印象です。週1回とか2回、定期的にメールで配信するコンテンツのことですが、ブログやSNS全盛の今になって、アメリカではSubstackというプラットフォームを中心にして大流行しています。今回は特に米国テック界隈でのトレンドにフォーカスして紹介したいと思います。

どんなニュースレターが流行っているのか?

まずはあれこれ蘊蓄を語る前に、オススメをお伝えすると、筆者が選ぶ米国テック界隈で良く読まれている10選はこちらです。

(1)個人ニュースレターの先駆け的存在「Stratechery」

  • 媒体名Stratechery
  • 筆者:Ben Thompson(アナリスト)
  • 課金:無料+有料
  • 頻度:週3〜4
  • 特徴:個人ニュースレターの先駆け的存在。シンプルなフレームワークで技術トレンドや時事ネタを解説するのが好き

(2)PdMネタが豊富な「Lenny’s Newsletter」

  • 媒体名Lenny’s Newsletter
  • 筆者:Lenny Rachitsky(元Airbnb幹部・ライター)
  • 課金:無料+有料
  • 頻度:週1〜2
  • 特徴:PdM(Product Management)系の投稿が多い。筆者の人脈を駆使したリサーチも示唆深い

(3)欧州・米国のテック情勢をカバー「Benedict Evans」

  • 媒体名Benedict Evans
  • 筆者:Benedict Evans(アナリスト・元Andreessen Horowitzパートナー)
  • 課金:無料+有料
  • 頻度:週1
  • 特徴:米国VC出身の英国人として、皮肉の効いた独自の視点で、ヨーロッパや米国のテック情勢をカバー

(4)歯に衣着せぬ物言いが人気の「No Mercy / No Malice」

  • 媒体名No Mercy / No Malice
  • 筆者:Scott Galloway(教授・起業家・作家)
  • 課金:無料
  • 頻度:週1
  • 特徴:大学教授とは思えない破天荒なキャリアとキャラで、歯に衣着せぬ物言いが人気

(5)若い世代(学生も含む)の間で流行「Morning Brew」

  • 媒体名Morning Brew
  • 筆者:多数(メディア企業)
  • 課金:無料
  • 頻度:毎日
  • 特徴:若い世代(学生も含む)の間で流行。ミームやジョークが散りばめられていてイケている

(6)投資系のニュースを網羅「Axios Pro Rata」

  • 媒体名Axios Newsletters
  • 筆者:Dan Primack(メディア企業)
  • 課金:無料
  • 頻度:平日は毎日
  • 特徴:投資系のニュースをかなり網羅したもの。主要なスタートアップの資金調達ニュースは大体カバー

(7)長期トレンドをやさしく解説する「6-pages」

  • 媒体名6-pages
  • 筆者:多数(メディア企業)
  • 課金:無料+有料
  • 頻度:週1
  • 特徴:単発のニュースではなく、長期的なトレンドについてやさしく解説

(8)VCが独自視点でプロダクトやトレンドを解説「Next Big Thing」

  • 媒体名Next Big Thing
  • 筆者:Nikhil Basu Trivedi(VC)
  • 課金:無料
  • 頻度:不定期
  • 特徴:VCが独自の視点で気になるプロダクトやトレンドについて解説

(9)超有名VCによるブログ「AVC」

  • 媒体名AVC
  • 筆者:Fred Wilson(VC)
  • 課金:無料
  • 頻度:平日は毎日
  • 特徴:超有名VCがカジュアルな日常生活からシリアスな政治/経済問題まで毎朝コメント。一部記事はCoral Capitalで翻訳して掲載中

(10)テック関連のニュースのアグリゲーション「Techmeme」

  • 媒体名Techmeme
  • 筆者:多数(メディア企業)
  • 課金:無料
  • 頻度:毎日
  • 特徴:テック関連ニュースのヘッドラインとそれに対する主要Tweetsだけを収集

(特別枠)有料テックメディア「The Information」

  • 媒体名The Information
  • 筆者:多数(メディア企業)
  • 課金:有料
  • 頻度:毎日
  • 特徴:月額39ドルという超強気な値段設定にも関わらず成立している有料テック系メディアで、スクープ報道も多い

これらは筆者が通う学校で良く読まれているもの、米国テック業界におけるネットワーキングの中で収集した情報、ネット上で良く参照されているもの、などを総合的に考慮して選定したものです。もちろんテック系のニュースレターは他にも山ほどありますが、メジャーなものは押さえている認識です。特に上の3つが、個人ライターが有料版で提供しているという点で、象徴的なものです。

なぜ今ニュースレターなのか?

ニュースレターの隆盛の理由には諸説ありますが、筆者としては以下が要因であると捉えています。

  • Substackなどのライター向けのSaaSプラットフォームの登場により個人でも簡単にニュースレターが配信・課金ができるようになった
  • アメリカの政治的分断で特に顕著になったように、既存メディアに対する不信感が広がった
  • 情報過多の時代の中で、自分が信頼できる書き手からの情報だけを受け取るのが効率的である
  • 読者はネット上で複製される「情報」ではなく、「ものの見方=インサイト」を求めている

どれくらいビジネスとして盛り上がっているのか?(⇒テック企業のプロダクトマネージャーよりも儲かる)

特に象徴的なニュースレターとしては、Stratechery (by Ben Thompson)とLenny’s Newsletter(by Lenny Rachitsky)が挙げられます。どちらのライターもニュースレターを専業にしており、前職での給料を超えていると公言しています。Lennyの方は、Newsletter開始からわずか1年半程度で、無料ユーザー4万5,000人、有料ユーザー3,200人を達成したとのことです。Stratecheryの方は、2013年配信開始で歴史が長いこともあり、ある推定によると有料購読者数が25万人超、年間収益が3億円超ともいわれるお化けニュースレターです。

また、ニュースレター発行企業の代表格としてMorning Brewがありますが、創業者がまだ20代ということもあり、若い世代を中心に強い支持を得ています。発行から3年程度で購読者数250万人超、売上2,000万ドル(約20億円)、利益600万ドル(約6億円)という実績を誇り、2020年末にオンラインメディアのBusiness Insider社に75億円のバリュエーションで買収されました。

また、Axiosは上記リストに入れたPro Rata以外にも数十個のニュースレターブランドを持っており、最近はアメリカの各地域ごとのブランドを立ち上げたりと、各分野で幅広い支持を集めています。こちらも発行から3年程度で、売上5,800万ドル(約58億円)、購読者数は140万人(複数ニュースレターの購読者を別にカウントすれば400万人)という実績を誇り、直近の資金調達時のバリュエーションは2億ドル(約200億円)だったとのことです。

有効な活用方法は?(⇒全てのコンテンツを消化しきれなくてもメールボックスに情報を蓄積するイメージで使う)

多くの人は、筆者のように暇ではなく、10個以上のニュースレターを購読して全て読み込む時間はないだろうと想像します。なので、まずは特に興味をひかれるもので、日常的に読めそうな2、3個にフォーカスしてスタートするのが良いのではないでしょうか。

1個だけフォローするのは視点の偏りの観点からオススメしません。例えば、AVCのFred Wilson氏はかなり熱狂的な暗号通貨信者であり、彼のVCであるUnion Square Venturesも関連スタートアップに多く投資しています。当然ながら、アメリカのテック業界やVCにも暗号通貨に懐疑的な人もいます。なので、1個のニュースレターの情報を鵜呑みにすることは避けたいところです。

そこで、筆者が個人的にオススメしたい方法は、「たとえ定期的に全てを消化できないとしても、とりあえずたくさん購読して、メールボックスに情報を蓄積しておく」という手法です。これはニュースレターの提供価値の1つである「自分が信頼する情報源へのアクセスを容易にする」性質を活用するものです。

もう少し具体的に書くと、例えば最近話題の会社(例:Plaid)やトレンド(例:no code/low code)などについて調べたいときは、ネット検索をせずに、まずはメールボックス内でキーワード検索をします。すると、自分が購読しているニュースレターの中から、該当テーマについて語られている投稿がヒットするので、タイムリーに読み込めていなかったものも含めて目を通します。これにより、ネットブラウザ上で検索して信頼できる情報源を探すという手間を省くことができます。

最近では、Slackやメッセージアプリの台頭でメールボックスの利用機会が減ってきている人が多いのではないかと思いますが、そこで新たに「信頼できる情報を自動的に集積するツール」として活用できるのではないか、という提案です。

いくらお金をかけるべきなのか?(興味が薄い人ほど課金するべき?)

最初は全て無料版からスタートして、かなり気に入ったライターがいるのであれば、有料版に切り替えるスタンスで良いのではないかと思います。プレミアム版に登録すれば、週1または月1に限定されていたニュースレターがより頻繁に届くことになります。料金は、Benedict Evansは月額10ドル、Stratecheryは月額12ドル、Lenny’s Newsletterは月額15ドルです。そのコンテンツに価値を認めているなら、年間2万円程度は払えなくはない金額ではないでしょうか。

ただし、あえて懐疑的な視点で見てみると、世界トップクラスの新聞メディアNew York Timesが月額17ドル、同じく動画ストリーミングNetflixが月額14ドル月、音楽ストリーミングSpotifyが月額10ドル、日本のネットメディアの雄NewsPicksは月額1,500円です。これらのサービスと比較した際に、週数回程度のメールを受け取るサービスの値段設定はどう正当化されるのでしょうか。圧倒的なコンテンツ量の差を考えれば、ニュースレターに同じくらいの値段を払うのは無理があるように思えます。

そうは言っても、絶対値として値段は高くない、自分のお気に入りのライターやメディアを応援したい、自動でメールボックスに情報が届くのは便利、あえて高いお金を払うことでちゃんと読み込むインセンティブになる、など正当化の理由はいろいろ挙げられます。ただ、そのなかでも、筆者が特に重要だと考えるのは、「情報過多の時代において、逆説的に少ない情報に対してお金を払う人が出てきているのではないか」という点です。インターネットのおかげで消費者はあらゆる情報を無料で手に入れられるようになりましたが、その反面、何が重要な情報なのかを選定するコストも高まりました。ニュースレターが提供している価値の1つは、「この話題さえ押さえておけば大丈夫。テック関連の話題についていける」という安心感だと思います。

とすると、これまた逆説的ですが、米国テック業界に普段からあまり触れていない、そんなにリサーチに時間をかけられない人にこそ、今回ご紹介したニュースレターはオススメかもしれません。

(参考) ニュースレターのユニークな稼ぎ方

ニュースレターにビジネスとして興味がある方向けの追加情報です。

上記でも紹介したAxiosという企業は、自分達のニュースレター作成に利用しているツールやノウハウを外販するというユニークなビジネスも展開しています。ターゲットは企業の社内コミュニケーションを担当する部署です。自らの強みは何で、誰がそこに価値を見出してくれるのかについて、発想を転換している面白い取り組みだと個人的に感じました。また、Axiosの既存読者はビジネスパーソンなので、顧客セグメントの親和性も高そうです。

もう1つ興味深い動きとして紹介したかったのが、今回のオススメリストには入れていませんが、割と名前を聞くニュースレターの1つであるHustleが、Hubspotに2,700万ドル(約27億円)で買収されたというニュースです。さらに、Morning Brewの場合はBusiness Insiderという既存メディアが買い手ということで分かりやすいですが、Hubspotは企業向けマーケティングSaaS企業です。どんな狙いがあったのでしょうか。実はHustleはニュースレターに加えて、動画やポッドキャストも手掛けていたり、「メディア」というよりも読者との繋がりの強い「コミュニティ」を築くことに成功しています。HubspotはHustleのもつコンテンツ作りのケイパビリティと、それにより起業家やスタートアップ界隈で熱狂的なファン層を作り上げたことを評価したようです。

ニュースレタービジネスに大きな影響を与える最近の動きとして、TwitterがSuper Followsと呼ばれる新しく課金モデルを導入すると発表したことが話題になりました。これまでは、Twitter上で宣伝して別のプラットフォームでコンテンツを配信していた人が、Twitter上でコンテンツのマネタイズまで出来るようにするということで、大きく舵を切った形です。今後も新しいプレイヤー、ビジネスモデル、M&Aが出てくるであろうニュースレター業界に注目です。

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Editorial Team / 編集部

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