気候変動に関するビル・ゲイツの新著が与える危機感と希望

つい先日、ビル・ゲイツ氏が新しく出版した「How to Avoid a Climate Disaster(気候災害を回避する方法)」という本を読み終えました。同書では、気候変動に対する彼の考え方がどのように変化してきたかを説明した上で、この迫る危機を克服するために取るべきだと考えられる対策や方向性について紹介しています。情報量が多いのに読みやすく、「気候変動」という人類最大の課題を知るための入門書として最適だと思います。

この本を読んだ後、私は危機感と希望の両方をいだきました。「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ」という目標まであと30年足らずだというのに、私たちはいまだに状況をほとんど改善できていません。紙のストローに替えたり、レジ袋をやめたりすることで「やった感」は出るかもしれませんが、そのような些細な取り組みだけでは2050年までに間に合うはずがありません。もっと飛躍的な変化をもたらし、目標に一気に近づけるようなソリューションが必要なのです。その鍵となるのが、革新的な科学やテクノロジー、そしてより良い未来へつなげようと実現や実用化に向けて日々奮闘している人たちの貢献であり、それらの成功に私たち人類の命運がかかっているのです。

その点で、現在進んでいる電気自動車へのシフトは非常に大きな前進です。しかし、実はクルマなどの移動による温室効果ガスの増加は全体の16%にしかすぎません。人間の社会活動で大半の温室効果ガスを排出しているのは、上から順に「製造(セメントや鋼鉄、プラスチックなど)」、「電力の消費」、「農業(農耕や畜産)」、「移動(クルマやトラック、船、飛行機など)」、そして「温度管理(ヒーターやエアコン、冷蔵庫など)」となっています。

実際のところ、テクノロジーや科学に解決策を求めるといっても、実現性やコスト、政治面などでまだたくさんの課題が残っています。例えば、クリーンエネルギーというと太陽光や風力などが真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、こうした電力源では24時間365日の安定した電力供給を実現できません。また、発電量的にも現在の電力需要にまったく追いついていないという問題があります。原子力発電ならクリーンで安定的な供給が可能ですが、スリーマイル島やチェルノブイリ、福島の事故以来、世間から悪い印象を持たれるようになってしまいました。過去の全ての原子力事故を合わせた死者数よりも、石炭燃焼による汚染に起因する年間あたりの死者数のほうが多いことを考えると、非常に残念な状況だと言わざるを得ません。

セメントの製造による排出(石炭石に熱を加え、酸化カルシウムを生産する工程で二酸化炭素が排出される)も、製造自体の完全停止を除けば、現時点ではなくす手段がありません。また、牛のゲップやおなら由来のメタンは、世界全体における温室効果ガスの年間排出量のうち4%を占めています。農業では家畜の排泄物も2番目に大きな排出源となっています。移動に関しても、ディーゼル(軽油)を使ったトラックなら1回の給油で1,600km以上走れますが、18輪の燃料電池トラックの場合、ディーゼルの35倍も重量があるバッテリーを乗せた上で、積載量を25%もカットしてようやく1,000km弱ほど走れるに過ぎません。貨物船や飛行機への燃料電池の応用はさらに難しいのです。

このように気候変動対策には多くの課題がありますが、一方で、新しい課題は新しい機会にもつながります。いずれの分野でも、必要とされる革新的変化を実現するためには、今後は行政や民間、大企業やスタートアップなどがそれぞれ協力して取り組んでいかなければならないでしょう。それに気候変動への取り組みは人類のためだけではなく、経済的にも大きな意義があります。これからはゼロカーボンの企業や産業を生み出すことに成功した国こそが、この先何十年と世界経済を牽引していくリーダー的存在になることが予想されます。コロナ禍がはじまったばかりの頃に投資家のMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏が言ったように、あらゆる意味で、まさに「It’s time to build」(今こそが、作り始めるべきとき)なのです。

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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