上場したロビンフッドは、なぜ「証券業界のテスラ」なのか?

手軽に株取引ができるプラットフォームを提供し、GameStopなどのミーム銘柄をとてつもない株価へと高騰させる土台を作り上げたアプリRobinhoodが、先週の木曜日に上場しました。メディアでも大きく取り上げられましたが、その内容は同社が期待していたものとはまるで違っていたと思われます。というのも、320億ドル(約3兆5,100億円)の公募時時価総額から始まったものの、上場後わずか数時間で株価が8.4%も下落し、同規模のIPOとしては過去最悪レベルのスタートを切ったからです。

メディアではRobinhoodのIPOは失敗だと騒がれていますが、そこばかりに注目するのは企業に対する誤った評価につながりかねないので注意が必要です。株価が上場初日に急落したら、「この企業はダメだ」と決めつけられ、逆に高騰したら「公募価格が低く設定されすぎている」という点を強調して取り上げられるのがお決まりのパターンとなっています。しかし、長期的に見れば、上場初日の結果だけで企業の今後の成功が決まるわけではありません。Facebookも、当時は「IPOに失敗した企業」としてみなされていました。それが、今では時価総額が100兆円を突破しているのです。

メディアの評価はさておき、Robinhoodが個人投資家の株取引の世界にもたらした影響は誰の目にも明らかです。残高ゼロからの口座開設や、単元未満株の取引、手数料ゼロという手軽さを実現したことで、個人投資家でも少額から株取引を始められるようになったのです。おかげで、従来の大手証券会社に軽視されてきた若くて新しい世代の投資家たちも取引市場に参加できるようになりました。

さらに、Teslaが自動車業界全体のEV化を牽引したように、Robinhoodの台頭は証券業界全体をゼロもしくは低手数料の方向へ舵を切らせました。Teslaと同様に、同社が2013年に起業した当時は、業界の大手プレイヤーたちからほとんど無視されていました。しかし、2019年になる頃には、無名だったはずの新興企業がもはや無視できないほど強力な競合相手へと成長していたのです。その結果、Charles SchwabやE*Trade、Ameritrade、そして最後にはFidelityさえもが、取引手数料などの各種手数料を廃止する流れに屈せざるを得なくなりました。先駆者となって業界全体を巻き込むという、本当にすごいインパクトをもたらしたのです。

また、ユーザーとしても、Robinhoodのおかげで以前より遥かに快適かつ簡単に株取引を行えるようになりました。同アプリでは、金融サービスというよりはゲームに近い感覚で株を売買できます。実際、同社がIPOで提出した書類によると、ユーザーの約半数が毎日欠かさずアプリを開いて投資状況をチェックしているそうです。しかも、平均で1日に7回もアプリをチェックしているというのです。業態を知らずにアプリの利用頻度だけを見れば、ソーシャルメディア系の企業だと勘違いされてもおかしくありません。

一方で、空売り狙いでRobinhoodに投資している投資家の多くは、同社の先行きには不安があると強調しています。例えば、最近では大手プレイヤーも同社のサービス形態の利点に気づき、類似した機能や利便性を提供し始めています。Fintech界でも、近年多くのイノベーションがカンブリア爆発のごとく生まれてきていることから、それに伴い資金豊富な新しいスタートアップが何百も誕生し、Robinhoodのシェアを削ろうと対抗してきています。また、Robinhoodの主要ビジネスモデルである「Payment for order flow」では、取引手数料を無料にする代わりに、顧客の注文を仲介業者に回してリベートを受け取ることで収益をあげているのですが、このビジネスモデルの妥当性について規制当局から疑問視されていることも懸念材料の1つです。

これらの批評はどれも一理あるのですが、それでもRobinhoodが誰よりも先行して圧倒的に有利なスタートを切ったことを考えると、当面の間はライバルとの差を維持できる可能性が高いでしょう。実際、2015年以降、米国で新たに開設された証券取引アカウントのうち、およそ半数をRobinhoodのアカウントが占めています。ブランド力も高く、すでに多くのSNSと同様に米国のポップカルチャーの一部として地位を確立しています。規制が今後見直される可能性もありますが、影響を受けるのは業界全体であり、同社に限ったことではありません。個人投資家向けの金融サービス業界に革命を起こし、一変させてしまったRobinhoodは、今後何年にもわたってその功績による恩恵を享受できるだろうと私は予想しています。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

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