本ブログはロサンゼルスに拠点を置く法律事務所、Manatt, Phelps&Phillipsでデジタル担当のリーダー兼同事務所のVCファンドのマネージングパートナーを務めるLisa Suennen(リサ・スエネン)氏のブログ「Venture Valkyrie」の投稿、「If You Can’t Join ‘Em, Beat ‘Em! – To Break up the Boys’ Club Women Are Starting Their Own Venture Capital Firms」を翻訳したものです。記事は2019年5月のもので、米国VC業界で女性キャピタリストの独立とファンド設立が相次いで始まった時期でした。なお、本記事は2019年5月21日にEntrepreneur紙に最初に掲載されたものです。
いわゆる『ボーイズクラブ』(男性中心の業界や組織)を打破するために、女性の皆さん、自分でVCファンドを立ち上げてみませんか? VCで働く女性は、広報のための取り組みや、うわべだけの賛同、男性の同僚の騎士道精神を頼っていてはいけません。自分たちで行動しなければならないのです。
エロディ・デュピュイは、自分の役割を十分に果たしてきたと思っていました。一流のVCであるInsight Venture Partnersに9年間在籍し、受付担当からVPにまで昇進した後、別の投資会社にも勤めました。しかし、娘が生まれた後、とあるVCの新しいパートナー職に応募した際、面接も佳境になって(面接官である)男性のパートナーが「本気で復帰する気があるのか」と質問したといいます。
これは、受け入れがたいことでした。「多様性の割合目標達成のために雇われている女性のように見られることがあって、ウンザリしていたんです」とデュピュイは言います。
そこで昨年、彼女は行動を起こしました。デュピュイは、Insightの同僚だったジェシカ・デイビスと一緒に、Full In Patnersを立ち上げました。以来、彼女たちは成長ステージにあるテック系スタートアップへの投資のために、2億ドル(約200億円)の資金調達に奔走してきました。
これは、あの何も分かっていない男性VC幹部の質問に対するデュピュイの答えでした。仲間に入れないなら、打ち勝てばいい。そして、どうやらその考えは浸透してきたようです。Fairview Capital社によると、昨年(訳注:2018年)、女性主導のVCファンドで資金調達を行っていたのは39社で、2017年に比べて63%増加し、2016年の3倍となっています。60%以上が初めての資金調達でした。
こうしたファンドの創業者には、Kleiner Perkinsを退社してDefine Venturesを設立したリン・チョウをはじめ、Greycroft、Venrock、SoftBankで活躍し、Rucker Park Capitalを設立したマリッサ・キャンピス、Foresite Capitalで活躍し、Magnetic Venturesを設立したクリスティーン・エールワードなどがいます。彼女たちは、5,000万ドルから1億ドル(約50〜100億円)の資金を調達しています。
自分のファンドを立ち上げる女性の数はまだ少ないですが、その数は確実に増加傾向にあるようです。すでに、Kleiner Perkinsのスターだったメアリー・ミーカーが新会社Bond Capitalを立ち上げて12.5億ドル(約1,250億円)を調達したり、Lux Capitalのレナタ・クィンティーニがInstitutional Venture Partnersのロゼアン・ウィンセクと共同でVCファンドを立ち上げたりと、女性たちは2019年に素晴らしいスタートを切っています。
これまでの常識にとらわれてきた重要な業界に変革を起こすには、自分が主導権を握るのが一番です。大金を手にする昇進を待つのではなく、自分の手で自分自身を昇進させましょう。
VCに多様性が欠如していることは、以前から指摘されていました。最初に注目されたのは、女性が率いる企業への投資の少なさでした。その大きな理由は、VCは過去のパターンに基づいて、自分たちに似た人に投資する傾向があるからです。投資家は圧倒的に白人の男性が多いため、その連鎖が断ち切れなかったのです。
この事実は、VCにおける多様性の欠如が、女性起業家だけでなく、イノベーションや財務リターン全般に悪影響を与えていることを明らかにしました。
実際に変化を起こそうとする動きの中で最も注目を集めている取り組みの1つが、2012年にCowboy Venturesを設立したアイリーン・リー氏をリーダーとして、昨年女性のベンチャーキャピタリストたちが立ち上げたAll Raiseです。2028年までに、女性パートナーの割合を9%から18%に倍増させることをミッションに掲げています。これは立派で必要な取り組みですが、私たちはもっと早く行動する必要があります。
結局、VCの意思決定層に占める女性の数は、過去20年間ほとんど変化してきませんでした。この統計は、毎年発表されるVCダイバーシティ・インデックスによって最近明らかになったもので、メディアの注目度が高まっているにもかかわらず、状況はその後もほとんど改善されていません。
しかし、このインデックスを詳しく見てみると、トップには、VCのボーイズクラブに切り込んだ最初の女性の1人であるカーステン・グリーンが率いるForerunner Venturesがいます。また、トップ100のベンチャーキャピタリストをランク付けした2019年のフォーブスのMidas Listでは、ランクインした12人の女性のうち7人が自分のファンドを持っています。多様性がより良いリターンをもたらすことを示す研究には、明らかにメリットがあります。
ジェシー・ドレーパー、ジェニファー・ネウンドーファ、サラ・ブランドなど、新しくファンドを設立した女性たちも、これまで資金が流入していなかったグループの起業家たちにチャンスを見出しています。Pitchbookによると、昨年(訳注:2018年)の女性創業者の資金調達額は28億ドル(約2,800億円)で、これはVCの総投資額の2%にあたります。
このような状況を打開するためには、さらに2つのことが必要です。起業家は、男女を問わず、資金提供の意思決定に女性が発言権を持つVCを探しましょう。化粧品分野のスタートアップ Winky Luxの創業者であるナタリー・マッキーは、男性中心のVCに断られた後、この方法をとりました。彼女は最終的に、女性主導のファンドや、ジェニー・リーがマネージングパートナーを務めるGGV Capitalから800万ドル(約8億円)の調達に成功しました。
リミテッド・パートナー(LP)と呼ばれる機関投資家は、女性主導のVCファンドを支援する上で、より積極的な役割を果たす必要があります。また、VCが支援するスタートアップのチームにも多様性を求めるべきです。多様性がより良いフィナンシャルリターンをもたらすことを考えれば、これは当然と言えます。そうすれば、VCは、必ずしも自分たちと属性が同じではない創業者の話にも、より確実に耳を傾けるようになります。
今のところ、自らVCファンドを設立する女性の多くは、LPとの信頼関係を築くために、コンセプト実証用のファンドから始めなければなりません。彼女たちは、初めてファンドを立ち上げるリーダーとして、同じ立場の男性たちに比べてより厳しい精査の目を向けられ、より少額の出資をかき集めなくてはならないと話します。
ドレイパー氏は自身のファンドであるHalogen Venturesとして1,040万ドル(約11億円)を調達する以前、Valley Girl Venturesを運営していた頃に、現在では人気の菓子メーカーとなったSugarfinaに初期のエンジェル投資を行いました。最近では、Halogenのポートフォリオ企業2社をWalmartとP&Gにそれぞれ1億ドル(約100億円)で売却しています(注:私が率いるManatt Venturesは、Halogenの投資家です)。
ドレイパー氏は、VCの世界における世代交代の顕著な例と言えるでしょう。代々男性のみが投資家になってきた家系に生まれた彼女は、自分がその世界に溶け込めるとは思っていませんでした。「(女性の投資家を)見たことがなかったので、自分は投資家になれないと思っていました」と語っています。
業界のあり方を変えるためには、女性が自ら変革の主体者(チェンジ・エージェント)になる必要があります。広報のための取り組みや、うわべだけの賛同、男性の同僚の騎士道精神を頼るわけにはいきません。過去のやり方に頼っていては、未来を修正することはできないのです。私たち女性が得意とすること――つまり、自分たちの力で実現すること――、をやりましょう。
注:この曲はEntrepreneur版の記事には含まれていませんが、含めておくべきでした 🙂
Editorial Team / 編集部