地図アプリや口コミサイトで「営業中」と書いてある飲食店に行ったのに閉まっていたーーそんな経験をしたことのある方は少なくないでしょう。コロナ禍の自粛要請で営業時間変更を余儀なくされている昨今は、なおさらかもしれません。
ローカルSEOの実現に向け、口コミ情報の一括管理サービス「口コミコム」を運営しているmovによると、こうした状況は決して珍しいものではないそうです。同社が2021年4月に都内の飲食チェーン500店舗を対象に行った調査によると、Googleマップ上の営業時間に誤りがあった飲食店は52%に上ります。地図上の情報はマーケティングで大きな役割を果たしますが、実情がこれでは、せっかく興味を持ってくれた顧客にネガティブな印象を与えてしまいかねません。
※情報開示:movはCoral Capitalの出資先企業です。
2000年代のSEOに酷似する、「やったもの勝ち」のMEO市場
地図サービスにまつわるもっと深刻な問題は、今やマップ上の表示の最適化、集客をうたう「MEO」(Map Engine Optimization)が「何でもあり、やったもの勝ちの状況」になりつつあることだと、mov代表取締役の渡邊誠氏は指摘します。
「MEOの手法はいろいろありますが、中にはGoogleのガイドラインに違反してでも順位や口コミ評価が上がればいいという業者まで出てきています。検索の順位さえ上がれば何でもいいという業者が横行していた、2006年ごろのSEO業界と重なる部分があります」
movの顧客の1社はかつて、MEO業者の不正な営業手法のせいで、大きな被害を受けていたそうです。
「対象となるキーワードの検索順位に応じて成果報酬型を受け取る業者にMEOを依頼したところ、上位に入るためにあらゆる手が使われてしまいました。その結果、Googleのガイドラインに抵触してしまったせいで、店舗の情報自体がGoogleマップから消されてしまったのです。Googleマップから自社アカウントを消された結果、売上は年間で2億円ほど落ちてしまい、どうにか復旧できないかという弊社への相談につながったのです」
急速に成長する市場には、別の業態を展開していた会社が利益の匂いを嗅ぎつけて集まってくることがあります。
中には、意図的に競合他社をおとしめたり、事実と異なる情報に基づいて比較表を作ったり、果ては、クライアントを訪れる前に個人アカウントからネガティブな口コミを書き込んでおき、「うちと契約すればこの口コミを消せますよ」と営業をかけるマッチポンプ的な手法まで見られるようです。そうした悪質な営業を見極めるポイントとしては「成果報酬型の料金体系を掲げてくる業者には気をつけた方がいい」と渡邊氏はアドバイスしています。
本来、検索や口コミ情報は、店舗などのブランディングを高め、顧客獲得を支援してくれる武器ですが、委託する業者のやり方次第で逆効果を生み出す恐れがあります。そんな「焼き畑農業」が広がってしまっては、「MEO、ローカルSEOという市場自体が悪印象を持たれかねない」と同氏は強く危惧しています。
焼き畑農業に背を向け、顧客の成功という本質にフォーカスし続ける
movはこうした焼き畑農業的なやり方に背を向け、顧客の結果につながる施策に実直に取り組むことを大事に考えています。その結果、たとえ成長が遅くとも信頼してくれる会社と長く取引を続け、ローカルSEOでクライアントの価値を高めることを最優先に運営してきたそうです。
口コミコムが目指すのは、まだまだ活用されていない口コミサイトを自社の売り上げに変えていくための支援サービスです。現在は12種類の口コミサイトやマップサービスに対する店舗情報を一括管理することで、正確な情報を届けて逸失利益をなくすサービスを提供しています。店舗名や電話番号のほか、営業時間や決済手段を最新の情報に反映することで、冒頭のような「Googleマップの営業時間が間違っている」という問題も回避できるわけです。
各種サイトに投稿された口コミを分析できるのも口コミコムの強みです。
例えば、投稿件数のマクロ動向を取得したり、評価の星(点数)評価を時系列に集計したり、検索ワード文脈のポジネガを自動判定したり、競合ブランドの口コミ比較も行えます。これらのデータに店舗別やサイト別、ブランド別、都道府県別といった分析軸をかけ合わせてクロス分析することで、店舗でやるべきことをToDoリスト化することも可能です。
口コミコムは単なる検索順位のチェックツールでもなければ、一括管理による工数削減効果だけをうたうわけでもないと、渡邊氏。Googleマップの情報しか管理できないサービスとも一線を画していると言います。
「世の中には今、MEOツールと呼ばれるものは20~30種類登場していますが、複数のサイトのマネジメントができるサービスとなると、口コミコムを含めて3社程度しかありません。国産でそれができるとなると口コミコムしかありません」
世の中では即効性を謳うソリューションに目が行きがちですが、実は、ローカルSEO、MEOという施策できちんと効果を出すには時間がかかります。それを実現するためにmovではカスタマーサクセスを支援するチームを強化して、社内で一番大きな部署になっているそうです。
2021年7月には日本に2人しかいないGoogleマイビジネス プラチナプロダクトエキスパートの永山卓也氏をアドバイザーとして招き、正攻法のMEO対策を実行していく構えです。
Contributing Writer @ Coral Capital