もはや誰もが知っていることですが、ベンチャーキャピタリストも結局は(資金という形の)コモディティを売っているに過ぎません。そして他のコモディティ化している業界と同様に、プロダクトの差別化が難しい中、顧客を獲得するためには営業活動やマーケティング、ブランディングなどが多くの場合は何よりも重要になります。もちろん、非常にユニークで需要が高いプロダクトを確立しているファームであれば、売り込みに苦労することもないでしょう。
このような事情があるため、ベンチャーキャピタルファームは顧客に対して「資金に限らずどのような価値を提供できるか」を積極的にアピールします。Coral Capitalも例外ではありません。一方で、「ファームの弱点」についてはあまり話したことがないと思います。当然、Coralにも多数の弱点がありますが、最も大きいのは「ハンズオン」投資家ではないという点でしょう。Coralでは投資先に指示を出したり、方向性を決めるような関わり方はせず、自主性を尊重します。スタートアップとの定期的なミーティングは必須にせず、投資先の取締役になることも滅多にありません(私自身も現時点では1社のみ、取締役を務めていますが、取締役として価値を提供できなくなったら辞めるので教えてくださいと同社の起業家にははっきり伝えてあります)。投資家の中には、週に数回は投資先企業を実際に訪れて手伝うという話も聞きます。素晴らしく手厚い支援だと思いますが、Coralのやり方とは違います。
Coralが考えるスタートアップとの関係性は、2018年のブログ記事で新たな用語として提案した「ハンズイフ投資家」が表しています。私たちは「ハンズオン」でも「ハンズオフ」でもなく、スタートアップから助けを求められたときには手を差し伸べ、それ以外のときは静かに見守る「ハンズイフ」な投資家であるという意味です。同記事を書いてから5年ほどが経ちますが、今でも基本的にはこの方針を貫いています。これにはいくつかの理由があります。
まずは、私たちの基本的な理念とも一致するからです。Coralでは、トップレベルの企業は投資家ではなく起業家によって作られるものであると考えています。そのため、投資家が少し手を差し伸べるだけで十分なくらい優秀な起業家を支援することを前提としています。非常に重要なプロジェクトに取り組む、極めて有望な起業家を国内から探し出し、そのポテンシャルを何倍も引き出す手助けをするのが私たちの仕事だと思っています。より速く、より大きく成長できるよう支援し、同時に起業家たちの思い描く企業像を実現するための余裕を作り出す手助けもします。もし「子守り」をするかのようにスタートアップを支えないといけないとしたら、その時点ですでに私たちの「仕事」は失敗していると言えるでしょう。
もう1つの理由は、Coralでは「ポートフォリオ全体を支援できるようなスケーラブルなソリューション」に優先的に取り組む戦略をとっているからです。以前からCoral Capitalをフォローしてくれている方なら、「日本で最も活気があるスタートアップ・コミュニティ」や「国内最大のスタートアップ・キャリアフェア」、「独自の資金調達支援プログラム」、「1万人以上が登録している人材データベース」など、私たちが投資先スタートアップのために作り上げてきた支援ソリューションの多くをすでにご存知かと思います。いずれも効果的に運営するためには相応の時間や労力が必要ですので、スタートアップを日々細やかにフォローしなければならない状況だったとしたらとても実現できません。それよりもトップレベルの起業家を発掘し、より大きな目標に向けて加速的に到達するためのツールやリソースを提供する形で支援することを目指しています。
以前は、これらの方針をこのように包み隠さずお伝えすることにためらいがありました。「ハンズオン」なサポートを魅力的に感じる起業家も当然いるからです。しかし、いくつかの点に気づいたことから考えを改めました。まずは、リードインベスターから手厚い「ハンズオン」な支援を求めている起業家にとって、そもそもCoralは最適な投資家とは言えないという点です。また、他の「ハンズオン」な投資家と協力する選択肢もあることに気づきました。同じ株主名簿に名を連ね、彼らの「ハンズオン」なアプローチに対してCoralが別の角度から価値を提供できれば、効果的に補い合うことが可能でしょう。実際、「ハンズオン」がないだけで、Coralは数多くの価値やリソースを投資先企業に提供できているのです。
起業家にツールやアドバイス、サポートは提供しても、彼らに何をすべきか指示することはありません。これが、Coralが起業家に届ける明確な支援の形です。具体的な役割はその時々で変わり、場合によってはエンジンを調整するメカニックであったり、スピードを加速させるターボチャージャーであったり、あるいは単なる乗客として見守ることもあるかもしれません。そして起業家の皆さんが、スタートアップを1社、また1社と立ち上げて、世界を変えていく旅に今後もご同行いたします。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital