日本で活動する数少ないシリコンバレーの投資家である私たち500 Japanの問い合わせフォームには、自然と世界進出を目指すファウンダーから多くのメールを頂きます。ご連絡をいただけて光栄に思うだけでなく、海外進出を視野に入れたファウンダーが最近増えてきていることが感慨深いです。
どうすればグローバルに成功する会社を築けるのか、というような質問を多く受けますが、その中でも頻繁に聞かれるのが、「どうすればシリコンバレーのVCから資金を調達できるか」です。この問いに答える前に気に留めておいて頂きたいのが、近頃は国内でも潤沢な資金を調達できる点です。このようなファウンダーが実際求めているのは、資金よりも、シリコンバレーの有名投資家からの太鼓判です。そうすれば世界的に認められ、ひいてはPR活動、人材確保、事業開発、そしていずれはもっと大きな資金調達に繋がるであろう、という考え方です。会社が成功するためにその太鼓判が本当に必要かどうかについては、賛否両論があります。
この手の話をするとよく話題になるポイントが2つあります。1つ目は、シリコンバレーで資金調達したければ、まずアメリカで会社を設立せよ、という考え方です。しかし、これは時代遅れであり間違っています。シードステージの資金調達が日本でまだ難しかった頃に、国内を諦めてシリコンバレーに資金を求めた会社もありました。そこで分かったのが、ある意味当然かもしれませんが、シードステージの投資家は、契約書にかかる多くの時間と費用を省略するために、馴染みのある会社形態と管轄を選んでいた、という点です。デラウェア州法人の親会社の下に日本法人の株式会社がある、という構図が前例となり、多くのアドバイザーが勧めるトレンドになってしまいました。
しかし、このアプローチはもう過去のものです。今は、シードステージ企業も日本国内で資金調達しやすくなっているので、その時点でシードラウンドを調達できなければ、シリコンバレーへ行っても状況は変わらないでしょう。そして、もしシリコンバレーの投資家から資金を調達するのであれば、みなさんに自由に使っていただける日本向けにローカライズした日英の投資契約書のご用意があります。
後のステージになると、アメリカで会社設立していることの意味はさらに薄まります。このような投資家は、数百万ドル(数億円)の投資を実行するときには、契約書(弁護士)に費用を支払うことを当然のことと思っています。そのため、あなたの会社がシリコンバレーから資金調達できるかどうかは、日本で会社設立しているか否かとは関係ありません。ベネズエラやチャドのような国で営業しているのなら、設立地の重要性もまだ理解できます。しかし、安定した国では重大なボトルネックになるはずもありません。むしろ、会社をアメリカで設立しているのに日本で営業することのほうが、ただただめんどうなはずです。最も初歩的なことから言うと、銀行口座を開設したり、オフィススペースを借りることさえ大変になります。最も厄介なのは、(たいていの場合、アメリカで上場するにはハードルが高すぎることに気づいてしまい)日本でIPOするために日本企業に切り替えようと決めたときです。コーポレート・インバージョンを実施する時に投資持分の価値が上昇している場合、アメリカの株主はアメリカで課税される可能性があります。本当は、検討しなければならないことが他にもたくさんありますが、今回は詳細を割愛させていただきます。重要なポイントは、マイナス面が多い割に、プラス面がほとんどないことです。
2つ目のポイントは、どうすればシリコンバレーで注目を集めることができるかです。実際のところ、シリコンバレーの人々がその気にならないと興味を持ってもらえない、というのが厳しい現実です。BaiduやAlibabaがヒットするまで、誰も中国に目を向けませんでした。インドや東南アジアも同様でした。シリコンバレーの多くの投資家は、大きな成功事例が出現するまで日本を真剣に検討しないでしょうから、彼らに直談判してもあまり効果はありません。彼らを間接的に説得するには、彼らが敬う人を説得・味方につけることです。日本と何らかの繋がりがあるから日本を気にかけてくれる人たちがいます。日本に住んだことがある、日本人と結婚している、あるいは単に親日家なのかもしれません。耳を傾けてくれる彼らにまず働きかけるべきでしょう。そして、その人に影響力があれば、その人を味方につけることによって、その回りの人たちにも話を真剣に聞いてもらえるようになります。忘れてはならないのが、この業界は人との繋がりが全てであり、心のこもった紹介には意味がある、ということです。さらに、投資家は臆病な動物です。投資家の8割は、残りの2割が投資したから自分も投資する、と言われるくらいフォロー投資家は多いものです。
結局のところ、シリコンバレーで資金調達しても、それが会社の成功に繋がるとは限りません。ただし、名の知れた投資家に協力してもらうことにプラスの効果があるのは確かでしょう。だからこそ、500 Japanファミリーのために、私たちはまさにそうした優れた投資家を呼び込めるよう様々なサポートを行っています。
本文のレビューを行いフィードバックをくれた、GengoのMatthew Romaine氏に感謝します。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital