こんにちは、500 Startups Japanの吉澤です。前回、起業家によるピッチの際に重要な「競合分析」に関する改善方法についてブログを書きましたが、今回は競合分析とならぶ重要なピッチ内容である「市場規模」に関する考え方と伝え方についてご紹介します。
市場規模が調達において重要な理由と、起業家がしがちな間違え
起業家の皆さんは、VCが「市場規模は十分に大きいですか」と市場規模の大きさについてよく言及しているイメージをお持ちではないでしょうか。実際、私たち500 Startupsも狙っている市場規模の大きさを重要な投資判断材料の一つとしています。
これはなぜかというと、まだトラクションはおろかプロダクトすらない創業間もないスタートアップに投資する場合、事業・製品以外のチームや事業案の可能性で判断する必要が有ります。つまり市場規模が小さいとなると、会社の成長といった視点でのアップサイドも小さいと判断されてしまい、会社の価値もそれに基づき決められてしまうでしょう。
市場規模が十分に大きいとしても、説明可能な根拠が伴っていない場合にはかえってネガティブな印象を与えてしまうこともあるでしょう。ですから、大きい市場を選んだ上で、市場規模をきちんと理解し、根拠立てて提示できることは重要です。
市場規模の考え方と伝え方
一口に市場規模といっても、それが示す市場はそれぞれです。まずは以下の市場規模の言葉の定義、それが示す市場の範囲とその目的を理解することが重要でしょう。そしてそれぞれが示す市場規模を理解して、根拠ある市場規模を提示しましょう。
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- TAM( Total Addressable Market):実現可能な最大の市場規模で、市場における製品またはサービスの総需要を示しています。TAMを明確化することで、投資家に対し、事業の長期的なポテンシャルを示すことができるでしょう。しかし明らかに十分大きな市場である場合、このTAMの話を細かくする必要はあまりありません。例えば、とあるヘルスケアサービスの話をするのに、どの人も世界的な医療費の高騰に関しては知っていますから、日本の医療費50兆円の詳細やその増大に関する話を細かくする必要はありません。またこのTAMの数字を試算するのに時間をかける必要もなく、実際にコンサル会社やリサーチ会社が出している数字を引用すれば十分でしょう。
- SAM(Serviceable Available Market):TAMのうちの特定の顧客セグメントの需要を示している指標です。企業が当面追求すべき、目標市場のシェアを示すことができます。TAMと合わせて考えることで、参入可能なマーケットや顧客の選別が可能となり、参入可能なマーケットや顧客の選別がより明確に示せるでしょう。SAMを考える際に重要なことは、トップダウンではなくボトムアップで考えるということです。当然TAMとSAMは同じではなく、いかに大きなTAMに対しなるべく多くのSAMを取れるかが投資家のピッチにおいて重要になるのですが、「数兆円の市場(TAM)の〇〇%がターゲット市場(SAM)になるので、数百億円の規模になります」というトップダウンの計算では伝わらないでしょう。ボトムアップでの数字と組み合わせることで説得力ある数字にすることが大事です。(ボトムアップで市場規模を計算するというのは、ターゲット顧客のプロフィールから、その顧客のサービスに対する支払い意思、そしてあなたがどのようにして市場を作り出し売っていくかまでを考慮に入れた分析方法です)。
- SOM(Serviceable Obtainable Market) :SOMは実際に自社が取得できるSAMの部分を示しています。SOMは短期的な売り上げの目標であり、重要な指標になります。このSOMが取れない場合はSAMやTAMをとることはできないと投資家は考えますし、逆を言えば、短期間にSOMが取れていたり、取れるような兆候が見えている場合にはさらなる市場の拡大も期待できる判断されるでしょう。
実際に創業初期のAirbnbのピッチ資料を見ていると、TAM/SAM/SOM(ここではShare of Marketと表記している)を明確にすることで、市場規模を示しています。
スタートアップの市場規模予想が難しい理由
すでにある明確な既存のプロダクトをより良くしたような事業を考えている場合には、市場規模を定義するのは比較的容易でしょう。しかし新しい技術を活用し、今はまだない、新たな市場を創出する場合にはその定義は非常に困難になります。
Andreessen HorowitzのパートナーBenedict Evans氏も、自身のブログで潜在的な市場の推測の難しさを、スマホが誕生したばかりのころに世界で今ほどのスマホが使われるようになった状況を予想するようなものだと例えています。ですから、まったく新しいプロダクトの場合には、既存のどんなプロダクトをリプレイスするものなのか、そして代替すべき明確で強い理由があるのか、さらに置き換えようとするユーザーはどのくらいいるものなのかを予測しなければなりません。つまり、先進的なことを目指すスタートアップにとって既存市場のサイズを基準値として測定するということは、ポテンシャルのある新しいビジネスを過小評価してしまう可能性もあるということです。
TAMによってスタートアップの長期的なポテンシャルを評価することが不適切である場合、いくつか他の方法が検討されているとGreylock Partnersの投資家であるMatt Heiman氏はTechCrunchへの寄稿記事で語っています。TAMで不足している部分を補う、新たな考え方について彼は主に以下のようなものがあるとしています(詳細は記事を参考にしてください)。
- TAMの拡大:優れた起業家はUXの向上や新しいソリューションの提案など様々な工夫によりターゲットの市場を変えて、その成長可能性を拡大していきます。今でこそAirbnbはホテルと並ぶ選択肢の一つですが、当初Airbnbは、家や部屋のレンタルというとても小さな市場を想定していました。その後、ホテルのサービスのうちショートステイについてはAirbnbが代替可能であると考え、TAMを大きく拡大したのです(前述の画像の通り、TAMを宿泊予約数、SAMをオンラインでの宿泊予約数としている)。
選択市場の拡大:ビジネスモデルが適用可能な範囲を拡大して、市場規模を拡大させるという方法です。有名な例としては、創業当初は書籍販売に集中したアマゾンですが、同社は当時からあらゆる商品をオンラインで販売するというビジネスモデルを持っていたとのことです。 - 利用頻度の拡大:創出される市場規模は、その製品・サービスの利用頻度に比例し、頻度が高くなり生活の中に組み込まれていくほど、市場規模としては大きくなるという考え方です。
- 地域的な拡大:Matt Heiman氏はこの地域の拡大に関して、言及していませんが、日本のスタートアップにおいては比較的見られる拡大方法です。日本だけでは市場が小さい為に早期に海外展開を目指すことで市場を拡大させる考え方です。しかし、世界市場を狙うと言う場合には、それが可能であるというより明確な根拠も求められます。
自社の可能性をきちんと投資家に伝えよう
創業初期のスタートアップにとって、自社の価値を伝えるのは非常に難しいことでしょう。しかし、きちんと競合や市場規模といった事業を取り巻く環境を理にかなった形で説明できれば、自社の強みや可能性をより説得力を持って伝えられるはずです。
ピッチの準備ができましたら、いつでも私たちのところへピッチしに来てください。弊社の問い合わせフォームよりご連絡お待ちしております。
Senior Associate @ Coral Capital