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スタートアップの売却における主要な問題 ⑴統合後の事業計画

本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」のMBA Mondaysというシリーズの投稿を翻訳したものです。前回の第一回に続き、今回は第二回としてスタートアップのM&Aを取り巻く、主要な問題の一つ「統合後の事業計画」についてご紹介しています。また、記事公開にあたり、プルータス・マネジメントアドバイザリーに日本での実務の観点からコメントいただいています。


統合後の事業計画とは、買い手が買収後に買収した会社をどのように運営していくか、その計画を記したものです。被買収企業は、最終契約書に署名する前に、統合後の事業計画をしっかりと把握しておく必要があります。買収後は統合後の事業計画で決められた内容に沿う形で運営が行われていくわけですから、署名して会社を譲渡してしまう前に、しっかりと統合後の事業計画に参画すべきです。

買い手が買収先を「統合」する方法は、主に2つあります。1つ目は、買い手が買収先をそのままにしておく方法、いわゆる「子会社化」する方法で、大抵の企業がこの方法を取ります。具体例としては、GoogleのYouTube買収やeBayのSkype買収、Washington PostのKaplan買収があります(Kaplanは私の好きなM&A事例の1つです)。2つ目は、被買収企業を完全に買い手の組織と一体化させ、被買収企業の姿を消してしまう、「合併」という方法です。具体例としては、GoogleのApplied Semantics買収、YahooのRocketmail買収、AOLのTACODA(USVの投資先)の買収があります。

なお、当然のことながら、「子会社化」する方法と「合併」する方法の間には、バリエーションが多数存在しています。私の意見としては、消費者と直に接するWebサービスについては、統合の際、おおむねそのままにしておく(子会社化する)べきだと考えています。一方、Doubleclickの広告配信プラットフォームといったインフラストラクチャについては、強固に一体化する(合併する)方法がベストだと思います。

統合後の事業計画における、もう1つの極めて重要な要素は、被買収企業のキーパーソンたちが買収後にどうなるか、という点です。彼らは会社に残るのでしょうか、それとも買い手側の企業に移って別の新たな活動に重点を置くのでしょうか、あるいは買収取引の署名直後に離脱することになるのでしょうか。

私は、買い手は買収時にキーパーソンたちをつなぎとめておくべきだと考えています。キーパーソンのいない会社を買う意味など、あるでしょうか?ですので、取引署名直後にキーパーソンたちに離脱を許してしまうというのは、本当にまずい考えのように思います。とは言え、買い手側も、偉大な起業家を長期間、大企業につなぎとめておいても彼らが幸せにはなれないことは重々認識しておく必要があります。よって、ほとんどのM&A取引に、創業者または創業チームに会社に残ってもらうという条項がありますが、その期間は1年または2年間となっています。これは理にかなったものです。というのも、買い手は創業チームが会社を離れる前に新しいチームを配置する準備ができるからです。

私は、キーパーソンたちが買収後も会社に残ることは概して良いアイデアだと考えています。買い手企業が変化の荒波にもまれる中、キーパーソンが残ることで、継続性と快適性がもたらされるからです。しかし、一方で、私はキーパーソンたちが買い手側の組織に移り、価値を提供している事例も目にしてきました。Dick Costolo(ディック・コストロ)氏はGoogleによる買収後にFeedburnerを離れ、Google内の他の重要な案件に注力しました。Dave Morgan(デイヴ・モーガン)氏はTACODAが買収された後、TACODAを離れ、AOLの戦略的案件に注力しました。このようなことが可能なのは、被買収企業に買収後も強力な経営チームが残っている場合です。

統合後の事業計画の別の重要要素は、買収企業組織内に既存のプロジェクトと被買収企業の間で起きるコンフリクトをコントロールする方法です。実際、YahooがDeliciousを買収する際に、このようなコンフリクトが起きています。Delicious買収前、YahooはDeliciousと競合するプロジェクトを進めていましたが、買収後もそのプロジェクトを残していました。結果、製品の選定に頻繁に困難が生じたり、リソース同士の競合が起きたり、その他にも問題が多発しました。私は、このことが、DeliciousがYahooのオーナーシップの下で軌道に乗れなかった多々ある理由の1つだと考えています。最も発言力があるのは譲渡契約書に署名する前です。買い手側の競合するプロジェクトを買い手にすべて破棄してもらいたい場合は、譲渡前に同意を得るようにしてください。譲渡後は、同意を得ることが不可能になるかもしれません。

被買収企業が統合時に直面する主要課題の一部をこちらでご紹介しました。課題は他にもまだまだたくさんあります。ですが、ここはブログですので、ほどほどの長さに留めておきたいと思います。今回取り上げた取引時の交渉は大変重要ですので、是非覚えておいてください。起業家の多くは、価格や条件に重点を置き、買収取引完了後の成り行きについてはあまり心配しません。しかし、彼らは後に後悔することになります。なぜなら、彼らは2年間も悪い状況で働き続けなければならず、おまけに、自分たちが築き上げた企業やチームが買い手企業の組織の中で衰えていく様子を前にしながら、何もなす術を持たないからです。それは様々な点から(魂と引き換えに願いを叶えてもらう)ファウスト的取引と言えます。ですが、そのような形にならないようにすれば良いだけのことです。統合後の事業計画をきちんと理解しておけば、良いとこ取りができるのです。

原文記事: M&A Issues: The Integration Plan

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