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国内スタートアップの資金調達相場レポート「Japan Startup Deal Terms」2019年夏版をリリースします

(2020/9/3追記)2020年夏版を発行しました。

国内スタートアップの資金調達相場レポート「Japan Startup Deal Terms」2020年夏版をリリースします


Coral Insights読者の中には、2年前に公開した「調査レポート: 186社の登記簿から分かったスタートアップの資金調達の『相場』」という記事を記憶している方もいるかもしれません。ちょっとした好奇心から、2016年に1億円以上を調達したスタートアップについて商業登記簿謄本を取得し、その調達条件についてまとめた調査記事です(おかげでGWをまるまる潰す羽目になりましたが……)。当時、この記事は業界中から大きな注目を集め、実は今でもCoralの全ブログ記事の中で歴代1位のアクセス数を誇っていたりします。

今回、この調査を質・量ともに発展させ、また継続的に発行できる体制を整えた上で、「Japan Startup Deal Terms by Coral Capital」として定期的に発行することにしました。もちろんスタートアップの資金調達は全てが様々な事情に基づいたケースバイケースであり、1つとして同じものはありません。それでも、過去の先達たちが行ってきた様々な交渉の結果である資金調達の条件を学ぶことには価値があると思っています。真っ暗闇の中を闇雲に進むのではなく、かがり火に照らされた先人たちの足跡をしっかり見据えながら、自分が進むべき新たな道を切り開いていく、それこそが私たちCoral Capitalが考える、「戦略的に未来へ」進んでいく起業家像です。

私たちは、海の生態系の基盤を支えるサンゴ礁(Coral)のように、そうした起業家たちを支えるエコシステムの構築に積極的に取り組んでいます。本レポートもその一環として、起業家向けの情報を増やし、資金調達に関する情報の透明性を高めることを目的としています。このレポートが起業家のため、そしてそうした起業家を支える投資家のために少しでもお役に立てば幸いです。

なお、本レポートは英語版も公開予定です。近年、SmartHRのシリーズC調達や、InfostellarのシリーズA調達など、海外投資家による日本のスタートアップへの投資が増え始めています。しかし、まだまだ情報が足りていません。言語の壁やプラットフォームの違いなどの影響で、海外から見ると日本はブラックボックスになってしまっています。本レポートはそうした壁を打ち破ることも目標としています。

さて、レポートのダウンロードフォームは本稿の末尾にありますが、せっかくですので、一部の結果をここでご紹介したいと思います。

30億円以上のバリュエーションでの資金調達件数が約2.6倍に増加

資金調達時のバリュエーションは、調達リリースにはあまり出てこない情報です。しかし、謄本からある程度は推測が可能です。2018年に資金調達を行った約600社について調査したところ、調達時のバリュエーションは以下のようになっていました。

図表1 ポスト時価総額別の資金調達件数

このチャートの中で最も顕著なのは、30億円以上のバリュエーションでの調達の増加です。2018年第4四半期は対前年同期比で約2.6倍に増加しています。一方で10億円以下の件数は大きく変わっていません。このことから、全体的にバリュエーションが上がっている(=バブル)のではなく、ミドル〜レイターステージのバリュエーションが高まっている、すなわち未上場のままエクイティでの資金調達を重ねて成長を続けるスタートアップが増えたと推測されます。メルカリやSansanのようなユニコーンの登場を受けて、上場を急がずに未上場で成長を続けるというシナリオを起業家も投資家も受け入れるようになってきたこと、そして新たなレイターステージ投資家(グロースキャピタル)の出現により未上場での大型調達が現実的な選択肢となってきたことの影響と言えるでしょう。

1億円以下の調達で優先株やJ-KISSの利用が増加

エクイティでの資金調達手段は、大きく分けると普通株式、J-KISSを始めとするコンバーティブル、優先株式の3種類があります。大型調達になると、起業家と投資家のリスク・リターンについてより詳細に調整可能な優先株式が用いられる傾向があります。一方、優先株式はその交渉や実行に手間やコストがかかることから、シードステージでは普通株式や、近年ではコンバーティブルが用いられます(詳しくはシードファイナンス勉強会「Coral School」の動画やスライドを参考にしてください)。

1億円以下の資金調達について調べたところ、四半期ごとの若干の変動はあるものの、約50%の調達案件で普通株式が、同40%で優先株式が、同10%でコンバーティブルが用いられていることがわかりました。長期で見るとJ-KISSを始めとするコンバーティブルの利用は増加傾向にあり、手前味噌ではありますが、2016年4月にCoral(当時は500 Startups Japan)がJ-KISSを無償公開して以来、普及がじわじわと進んでいることが確認できました。

図表2 1億円以下の調達における資金調達手段

優先株式の条件が起業家寄りに

優先株式の条件の中で、最も経済的なインパクトが大きいのが残余財産分配権です。特に優先分配倍率が大きい場合は、小規模な買収の際などは最終的な普通株主(主に創業者)へのリターン額が著しく小さくなってしまうリスクもあります。優先株式を用いた調達において、優先分配倍率がどのようになっているかを調査しました。以前の調査では、約75%が1倍でしたが、今回の調査では約90%が1倍と、より起業家に有利な条件にシフトしていることがわかります。

また、優先分配における参加権も重要な点です。日本では参加型が97%を占める一方、米国のある調査では99%が非参加型と、日米間で違いの大きいポイントです。今回の調査でもその傾向に大きな変化はありません。しかし、Sansanのような著名スタートアップが非参加型の優先株式で調達していたこともあり、非参加型の事例も毎四半期数件は出てきていることがわかりました。もちろん、こうした条件は日米の環境の違い、例えば起業家と投資家の数やパワーバランス、M&A EXITの数や規模など様々な環境要因の影響を強く受けるため、どちらが正しいというわけではありません。今後も状況を定期的に注視していければと考えています。

図表3 残余財産の優先分配倍率

レポートのダウンロード

本レポートでは、他にもステージ別のバリュエーション動向、希薄化率の動向、残余財産分配権の動向などを収録しています。ダウンロードは以下のフォームから可能です。また、今後も半年おきの発行を予定しているので、次回の発行時にはフォームに入力していただいたメールアドレスにご連絡させていただこうと考えています。



Special Thanks

商業登記簿謄本の大量一括取得に関して、Coral Capitalの投資先で、Graffer® 法人証明書請求などのGovTechサービスを開発する株式会社グラファーに協力いただきました。

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Yohei Sawayama

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