最近、トム・ニコラス著『アメリカのベンチャーキャピタル史 (原題: “VC: An American History”・未訳)』を読み始めました。まだ第一章しか読めていませんが、とても興味深いです。
本書は、ベンチャーキャピタル(以下VC)業界と18〜19世紀の捕鯨業界の比較から始まります。著者によると、このふたつの業界は驚くほど似ているというのです。18〜19世紀のころ、捕鯨は魅力的な商売でした。クジラからとれる鯨油は、灯油や潤滑油として大いに役立ったからです。捕鯨は危険な上、多額のコストがかかりましたが、ひと山当てれば莫大な利益を見込めるものでした。いつか大金を得る日を夢見て、仲介業者たちはこぞって富裕層から資金を募り、長いあいだ漁に出てくれる船長や船員を確保したのです。仲介業者たちは投資家より船長たちのことに詳しく、トップクラスの仲介業者は、最も有能な船長を確保することができました。同様に、VCは起業家(船長)に投資する資金を募ります。以下の2つのチャートから分かるように、この2つの業界は構造的にとても似通っています。
VC業界におけるゼネラル・パートナーと同じように、仲介業者は漁による利益とは別に管理費を受け取っていました。そして多くのケースでは、捕鯨業者間のパートナーシップにも個人的に出資していました。また、起業家やスタートアップの従業員にとって、自社株やストックオプションというインセンティブがあるのと同様に、船長や船員は漁の出来高に応じた報酬を得ていました。
どちらの業界でも、失敗するのが当たり前です。捕鯨の場合、すべての漁のうち34%において、収益率が0%未満でした。一方、VCによる投資でも、32%は同様の結果に終わります(以下のグラフは、捕鯨業界とVC業界の収益率の分布を比較しています。)捕鯨やVCのように、ヒットの本数に左右される業界では、運が明暗を分けると思われがちです。しかし、どちらの業界においても、優良なプレーヤーは一貫して良い結果を出し続けてきたのです。
また、どちらの業界にも「右に倣え精神」が蔓延しています。かつての捕鯨業では、ある海域でたくさんクジラが捕れると知られるようになると、船長たちはこぞって同じ場所に向かい、数え切れないほどの船が一箇所に集結したのです。皮肉にも船長たちは、そのようにして捕鯨に失敗するほうが、逆張りをして失敗するよりも、自らの名誉を守ることができると考えていました。同じタイミングで同じ業界に集中投資して失敗するVCたちと何ら違いはありません。いずれも、「ブルーオーシャン」と「レッドオーシャン」のたとえがこれ以上あてはまる例はないでしょう。
アメリカのVCがどのように発展したのかに興味がある方は、ぜひ本書を読んでみてください。本ブログに掲載しているVCの歴史シリーズもお見逃しなく。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital