グローバル化が進む現代において、世界の旅行者数は毎年増加傾向にあります。世界観光機関(UNWTO)によれば1950年に全世界で約2500万人だった年間旅行者の数は68年後の2018年には約14億人と約56倍に増えています。背景には新興国の経済成長があります。1人当たりのGDPと、その国における国外出国者の間には相関があるため、インドやインドネシアなどは、これから海外旅行者が大幅に増えると予想されています。また燃料価格の安定、ビザ要件の緩和なども近年の加速度的な旅行者増加に影響しています。
日本に旅行に訪れる訪日外国人も毎年増加傾向にあり、中国からの旅行者をはじめとした、外国人旅行客向けのサービスを街中で見かけることも多くなってきたのではないでしょうか。
Source: Our World in Data (https://ourworldindata.org/tourism)
旅先での滞在はこれまでホテルという選択肢が一般的でしたが、Airbnbはルームシェアという考え方は新たな選択肢として世界に広めました。Airbnbは世界191か国、600万件以上の部屋のリスティングを行い、世界大手のホテルチェーン以上に部屋数を提供しています。Airbnbの成功が代表するようにスタートアップが旅行業界へもたらした変革は数多くあります。
分かりやすい例で言えば、Uberのライドシェアという考え方も、旅先の移動手段の選択肢を増やしました。旅先先の慣れない土地でのタクシードライバーとの値段交渉やトラブルは、Uberを利用することによって、事前に値段やドライバーを確認することが可能となり、現地での移動手段として安心して利用できるようになりました。現在では旅行者に特化したライドシェアサービスを提供するスタートアップも各国で続々と広がりを見せています。
さらにビジネス出張者向けのサービスもこの「TravelTech」分野で広がりを見せています。
グローバル化にともない、企業がさまざまな地域にオフィスを構えることで、出張者もこれまで以上に増加することが予想されます。従業員の出張管理は、煩雑な業務のひとつです。企業向けのビジネス出張の予約・管理プラットフォームサービスを提供しているTravelPerkは2019年7月にシリーズCで6000万ドルの資金調達に成功するなどTravelTech分野への期待の高まりがうかがえます。
実際に以下のグラフからも、「TravelTech」分野への投資額は年々増加していることが分かります。
Source:CB Insights
さらに、下のグラフを見ていただくと、実は世界のGDPに対して産業としての旅行は約10%の経済効果を持っているとされており、旅行が経済に与える影響が非常に大きいことが分かります。
Source: 日本旅行業協会(https://www.jata-net.or.jp/data/stats/2019/pdf/2019_sujryoko.pdf)
この大きなマーケットに挑戦するTravelTech分野のスタートアップは、以下のカオスマップで把握することができます。分類としてグループ化されているのは、「予約&検索」「ホームシェアリング&レンタル」「旅行に関する情報提供」「スマートラゲッジ」「ラグジュアリー 」「プライベートジェット予約」「分析ツール」「カーシェアリング&レンタル」「B2Bサービス」です。
Source: CB Insights
上記カオスマップを見ると「TravelTech」分野は、ルームシェアやライドシェア、富裕層向けの旅行など、これまで以上に選択肢を広げるサービスが注目されていることが分かります。
1) ホテルの直前予約で最安値での利用が可能に
HotelTonightは宿泊日直前のホテルの空室をセール価格で予約できるサービスを提供しています。ホテル側は空室による機会損失を減らすことができ、ユーザーにとっては直前に予約することで低価格でホテルに滞在できるメリットがあります。実際に定価の半額近い値段で予約が可能となっています。HotelTonightは、2019年3月にAirbnbによって買収されました(買収額は非公開)。
2) ビッグデータを活用した航空券の最安値予測
Hopperはビッグデータを活用して航空券やホテルの価格予測を行うサービスを提供しています。価格予測は約95%の精度で行うことができるという実績もあり、ユーザーは広告なしで無料で利用できます。どのタイミングで予約するのが最も低価格なのかを通知で教えてくれる機能もあります。
3) 長距離都市間移動に特化したカーシェアリング
BlaBlaCarはクルマでの長距離都市間移動のライドシェアに特化したマッチングプラットフォームを提供しています。フランス発で現在22か国でサービスを提供しています。都市間の距離が数十から数百キロで目的地が同じドライバーと乗客をマッチングさせることで、ガソリン代などをお互いにシェアすることで、安く移動できます。乗客とドライバー双方のID認証やAXA保険と連携した独自の保険に加入していることなど、安心感が高いサービスを提供しています。以下の動画でユーザー同士のマッチングの仕組みが説明されています。
4) 最寄りのクルマを煩雑な手続きなしでレンタル
Getaroundはユーザー同士のクルマのレンタルプラットフォームサービスを提供しています。借りたいユーザーは、自分が利用したいときに、最寄りのクルマをレンタルすることができる一方、クルマの所有者のほうは、自分が使用していないときに自分のクルマから収益をあげることができます。クルマをレンタルするための煩雑な手続きが必要なく、好きな車種を選ぶがができます。Getaroundはソフトバンクやトヨタからも出資を受けています。以下の動画でGetaroundのサービスが分かりやすく説明されています。
5) 富裕層向け、ホテルのサブスクリプションモデル
Inspiratoは富裕層向けの会員限定旅行予約サービスを提供しています。「Inspirato Membership」では、月額会員になることで、高級ホテルでの特別待遇や通常予約が難しい別荘での滞在、限定ツアーへの参加などが可能となります。さまざまなオプションの月額会員制度が用意されており、最低約12万円からメンバーになることができます。さらに高額になりますが、月額約27万円からの「Inspirato Pass」に入会すれば、定額で世界中の高級ホテルに泊まり放題になります。以下の動画にInspiratoが扱うラグジュアリーなホテルやツアーの概要が説明されています。
世界的な旅行者数の増加により、これまで以上に旅行の選択肢が求められる時代に突入したのではないでしょうか。収入や宗教、民族によって旅行に対するニーズは多岐に渡ります。日本もインバウンド旅行客が毎年増加していることからも、「TravelTech」分野に関する海外のスタートアップの先例に、さらに注目する必要がありそうです。
Editorial Team / 編集部