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新スタイルで挑むW ventures、創設者・新氏が語った「LPは1社のみ」という強み

2019年4月、アイ・マーキュリーキャピタル代表の新和博氏が新ファンド「W ventures」を設立しました。W venturesが注目されたのは、CVCではないもののLPが1社のみという従来のVCとはかなり異なる座組みです。また、投資対象領域をC向け事業に絞った、というのも特徴的です。

実は新氏とCoral Capital(以下、Coral)の創業パートナーであるJames Rineyは、イベントなどを通じて知り合った旧知の仲。Jamesの「新ファンド立ち上げについていろいろ聞きたい!」という希望から、さっそくW ventures共同代表パートナーの新氏にインタビューしました。

W venturesを立ち上げた背景は?

James:新さんとは同じイベントで登壇することはありましたが、こうして改めて話すのは初めてかもしれません。今日はよろしくお願いします! さっそくですが、今回新たにW venturesを立ち上げた背景を聞かせてください。

新:シンプルに言ってしまうと、CVCとしては取ることが難しいリスクやチャンスと向き合うためにW venturesを立ち上げました。というのも、まず前提として、これまで経営してきたアイ・マーキュリー(以下、IMC)は、株式会社ミクシィのCVCです。しかし、CVCでありながら、ミクシィ社から独立した意思決定をし、将来的に事業のシードとなるスタートアップに投資することを目的に設立された経緯があります。そのため、これまでもミクシィ社では取れないリスクを取るべく、投資判断を重ねてきた歴史があります。

James:では、もともと独立した意思決定ができる風土は持っていたということですよね? そこからなぜW ventures設立へ?

:CVCとして独立した意思決定ができるとはいえ、IMCはミクシィ社の100%子会社です。そのため、投資委員会にはミクシィ社の取締役も出席しますし、さらに本社の経営会議にかけるプロセスがありました。そうしたなか、その時々のミクシィ社の事業戦略とのバランスを優先するため、成長性あるテーマに投資できないケースもあったわけです。そこに対して、徐々に課題感を感じるようになりました。例えば、ミクシィ社側で進めている事業領域に近いものだった場合、事前に事業責任者のリファレンスが必要になったり、時には投資を見送ったりすることもありました。

James:しかし、それはCVCとして本来のプロセスなので、間違ってはいませんよね?

新:そうなんです。でも、ミクシィ社の3年後をイメージしたとき、VCとしてできるのはスタートアップにたくさん投資し、ともに事業を成長させること。そして、スタートアップエコシステムを拡大させることが必要です。そうすると、CVCとして、その判断を仰ぐ先が異動や転職で担当者が変わる可能性のある組織ではなく、10年単位でフルコミットできる体制をつくるべきだと考えたんです。そして、10年間フルコミットするには、従業員という立場ではなく、ファンドのGPとして投資と向き合う必要がある。そこで、組織として独立したかたちを選択したのです。

James:さらに独立した意思決定ができるように、だったんですね。

新:そうです。IMCとは別であり、そしてCVCではなく完全に独立した組織として新たに誕生したのがW venturesです。資本・意思決定・報酬体系・人事制度など、すべてミクシィ社とは関連のないかたちにしたため、私自身も立ち上げのタイミングでミクシィ社を退職しました(引き続きIMC代表は兼務)。

ファンドのフィロソフィーを「どんどん失敗しよう」にした理由

James:W venturesは50億円ファンドということですが、ここにも何か背景があるのでしょうか。

新:実は、当初は100億円規模のファンドを想定し、幅広い領域のスタートアップにシリーズAやBでリードをとるシナリオを描いていました。しかし、VC業界におけるポジショニングやプランニングを念頭において検討してみると、100億円のポートフォリオ投資するファンドそのものには、もはや競争力がない。最近では既存ファンドもどんどん大きくなってきていますし、エンジェル投資家も増えています。中途半端な金額でミドルステージで戦うと、ファンドとしてのポジショニングも中途半端になってしまう。そこで、あえてC向け事業かつシード・アーリーステージに絞り、ある程度のまとまった金額でリードする方向性で勝負することを選択したんです。

James:しかし、C向け事業は「どうやればうまくいくのか」という再現性があるわけではないです。その領域に挑むこと自体が大きなチャレンジのようにも感じるのですが、そのあたりはどうですか?

新:難しいところですよね。B向け事業のようにロジックで戦略を立てればプロダクトが受け入れられるわけではなく、すごくおもしろくてワクワクするユーザー体験にお金が支払われる世界であり、それができないとPMF(Product Market Fit)もありません。そういった意味では、ヒットするまであの手この手を繰り出していくしかないんです。

James:少しつらいところでもありますね。

新:なので、W venturesとして起業家に向けて伝えているのが「どんどん失敗しよう。」です。これは、私たちファンドとしてのフィロソフィーでもあります。PDCAをたくさん回してトライ・アンド・エラーをくり返していこうという姿勢と、一方で「死なない程度に」という心持ちを伝えたい意図を込めました。C向け事業は何がヒットするのか、本当に掴みにくい。だからこそ、起業家がどんどん挑めるよう、私たちが二人三脚でサポートしていくことに価値があると考えています。

「LP1社のみ」だからこそ実現できる、生産性高い起業家サポート

James:改めて聞くのですが、W venturesにとって、ミクシィ社は親会社ではなく、あくまで「LPの1社」という位置づけなんですよね?

新:ミクシィ社は、VCに対してとても理解が深いんです。なので、「LPが1社のみ」という座組みは、ミクシィ社の理解がなければ実現しなかったスタイルです。そして私も、共同パートナーである東も、ファンドのGPとしてミクシィ社が今後展開する事業も含めて、その世界観に共感しています。彼らがLPであることで、投資先にとって必要であれば事業シナジーの創出など、さまざまなメリットを提供できるとも考えています。

James:これまでミクシィ社のCVCだったからこその強みですね。

:また、何より「LPが1社のみ」のメリットは、コミュニケーションコストを最小限に抑えられること。LPが複数社になると、どうしても各社とコミュニケーションをとる必要があります。しかし、W venturesの場合はミクシィ社のみ。そのため、LPであるミクシィ社とも、起業家とも、適切な時間を確保できますし、それが生産性を高める鍵になると思っています。

James:W venturesは新さんと東さんが共同代表です。2人の間での投資判断はどのようにしているんですか?

新:基本的に、お互いが投資したい案件にフィードバックし、問題なければ合意とみなすやり方をしています。もちろん、なかなか合意に至らないこともあります。その場合は、特にモニタリングやサポートが必要なポイントを明確にし、フィードバックするようにしています。フィードバックの内容は、「なるほど」と感じるところがあり、お互いの強みを生かしながら足りない要素を補完し合えるのが良いですね。

James:それはいい!

新:そうなんです。私と東のキャリアのバックグラウンドは似ていて、事業会社の現場経験を持ちながら、投資の経験もある。事業の厳しさを痛いほど体感してきたからこそ、起業家ファーストの姿勢や目指すVC像が似ているように思います。あと非言語的な部分で、感覚も合いますね。C向け事業に取り組むプロセスでは少なからず感覚的な要素も大切なので、そうした感覚が合うパートナーと組んでいることもファンドとしての強みの1つになっています。

CVC経験者が独立系VCを目指すのは、自然な流れ

James:最近では独立系VCやエンジェル投資家だけでなく、新さんのように、CVCでの投資を経験した後に独立系VCを目指すキャピタリストも増えつつあるように感じているんですが、どうですか?

新:CVCで事業会社の社員として投資経験を積み、次のステップとして独立系VCのGPを目指すのは、キャピタリストのキャリアとして自然な流れのような気がしています。そもそも、VCの競争力は、「強いGPがいるかどうか」と言っても過言ではないと思っています。優秀な人材を招聘するには、競争力のある制度を用意することも必要です。

James:今後、そういったキャリアを目指すキャピタリストに、何かアドバイスはありますか?

新:ぜひ、直接話を聞きに来てください(笑)

James:(笑)。では、W venturesの今後の展望は?

新:今後はHR・PR・ファイナンス支援など、スタートアップが共通して抱える課題を適切なタイミングで解決できるような体制をW venturesとして整えていこうと考えています。それによって、各種ノウハウ・ナレッジが蓄積できたらと。そこで、外部パートナーと連携するところからスタートしていく予定です。また、長期的な視点では、2号ファンドも視野に入れていきたいですね。そのためにもまずは、1号ファンドとしての実績を地道に重ねていきます。

■プロフィール

新 和博(Kazuhiro Shin)・・・W ventures代表パートナー。大学卒業後、株式会社NTTドコモにて法人営業や事業企画、ベンチャー投資に従事。2011年より、株式会社ミクシィにてアライアンスや事業買収等を多数経験。2013年、アイ・マーキュリーキャピタルを設立し、ヴァイス・プレジデントに就任。2015年、同社代表取締役就任(現任)。 2019年3月、株式会社ミクシィを退社。同年4月、W venturesを設立し、共同代表パートナーに就任。主な投資実績は、FIVE(2017年LINEにM&A)、ラクスル(2018年IPO)、ポケットコンシェルジュ(2019年AMEXにM&A)、スタディプラス(社外取締役)など。

James Riney(ジェームズ・ライニー)・・・Coral Capital創業パートナーCEO。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。


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Editorial Team / 編集部

Coral Capital

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