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経営陣と現場の距離は、社員規模に比例しない

経営陣として方針を説明したり、社員の声に耳に声を傾けるのは大事なことです。しかし、スタートアップといえども社員数が一定数を超えると社員の声は拾えなくなりがちです。むしろ、無理に拾おうとしても対応できなくなるため「言っても無駄と思われる」ことから、かえって逆効果だという話も聞きます。

ここでいう一定数というのが100人なのか1000人なのか分かりませんが、やり方次第では10万人規模になっても十分に1人1人の社員に向き合うことができるのではないか、と思います。私は過去に10万人規模の会社2つに在籍したことがあるほか、1000〜2000人や数百人、十数人の会社、数人の組織に身をおいた経験があります。風通しが悪い十数人の組織にいたときに不満や不信感がぬぐえなかったことがあるのに対して、情報の透明性が高く、1人1人の社員に耳に傾ける文化と制度がある10万人の組織では、組織運営という点では全く文句がないどころか驚嘆すらしていました。

その会社というのはGoogleです。

「またか」とか「特殊事例」と思われるかもしれません。しかし、いくつかの原則や考え方には普遍性があると思います。この記事では私がGoogleで良いと思ったアプローチについて書いてみたいと思います。

10万人規模の会社でも経営との距離感は感じなかった

私は社員番号が約20万番目の社員としてGoogleの日本法人に入りました。全世界で社員数が8万6000人から10万人に増えるまでGoogleの社員として働きましたが、この間、一度たりともGoogleのスンダー・ピチャイCEOや、Google共同創業者でアルファベットCEOのラリー・ペイジCEOといった経営陣と距離があると感じたことはありませんでした。毎週社員の前に姿を見せていましたし、その気になれば、いつでも質問ができ、そして、ちゃんと答えてくれることも知っていたからです。これは、日本のカントリーマネージャーといった階層でも同様でした。

Googleでは部署やチームによって金曜日は4時ごろから社内にあるゲームセンターでビデオゲームや卓球をしながらビールを飲み始め、5時になると「TGIF」(Thank God It’s Friday!:神様ありがとう、金曜日だ!)と呼ばれる簡易パーティーが始まります。かつて小さな会社だったころは、このTGIFの場で経営陣がオープンに経営課題やプロダクトの進捗の話を社員らとしていたと言います。10万人規模になった現在も経営陣が出てきて(ライブ配信を組み合わせた)全社員の前で、毎週話をしていました。

Googleから学ぶべきアプローチは以下の6つだと思います。

(1)全社員が参加・閲覧できる場で経営陣が生の声で話すこと

まず1つめは、全社員が参加・閲覧できる場で経営陣が生の声で話すこと、そして対話することです。ヒトの社会は霊長類の中ではサルにもゴリラにもボノボにも似ていて、かつ、そのどれとも違うそうですが、そうはいってもヒトもサルの一種です(個人的にはゴリラ型のリーダーシップが良いと考えていますが)。やはり物理的存在が感じられる方法でコミュニケーションを取るべきですし、そのときの聴衆との相対的な位置関係、目線や聞き手との距離、声の大きさや声音など、全て重要なパラメーターだと思います。これはカリフォルニア文化かもしれませんが、コミュニケーションスタイルはフラットでカジュアル。そのことも距離を感じさせないポイントだったのだろうと思います。経営陣が話をする内容については当然なにも書けませんが、元ITジャーナリストとして、「これは話しすぎではないか?」と思う程だったとだけ書いておきます。私はその驚嘆すべきオープンさを、経営陣から社員に対する信頼と敬意として受けとめていました。

大切なのは、経営陣が情報共有や社員に耳を傾けることについて、やれるだけのことをやっていると社員が思えかるかどうかだと思います。例えばYouTube Liveを使えば、簡易にライブ配信ができます。1000人規模の会社であれば「全員が見ることができる」「リアルタイムで意見を出せる」ような率直な対話の場を設ける、というのは難しくないと思います。

(2)社員が声を届けるチャンネルを常にオープンにしておくこと

これは書籍、「How Google Works」に書いてあることですが、Googleは会社が成長するにつれてTGIFで直接質問を受けるのがどんどん難しくなったので、Doryと呼ばれるツールを開発しました。これは、sli.doのような質問ツールと同じです。どこの地域の社員でも経営陣に質問ができ、皆が聞きたいという質問が投票で上位に来るようになっています。創設20年目で10万人規模、世界70拠点になっても全社員が声を届ける仕組みがあるということです。10万人規模で可能なので、100人とか1000人の会社であれば、やはり可能ではないかと思うのです。

(3)経営陣が上から目線ではないこと

コインの表裏だと思いますが、経営陣やVPは現場社員を下に見ていません。その結果として優秀な社員を惹きつけることができているのだと思います。Googleには何度もイグジットしている連続起業家もいれば(買収の結果としてGoogle社員となっている元起業家も多い)、オープンソースの著名人、世界的研究者やスーパーハッカーがごろごろいます。ビジネス系でも名だたる企業でCEOやリーダーを務めてきた人たちがたくさんいます。

社員が優秀だから経営陣が偉ぶらないのかというと、順序が逆に思えます。スタートアップの世界でも、よく「自分より優秀な人間だけを採用しろ」といいます。もしそれができているのなら、実際のところがどうあれ、経営陣やリーダー職にある人はみな、現場社員に対して敬意を持って接するはずです。

社員への敬意がないと思う言葉に、以下のようなものがあります。

  • 経営者が朝三暮四と現場に言われるのは仕方がない。持っている情報の質や量が違うのだから
  • 経営者目線でものを考えられる社員が少なすぎる
  • 知らなかったかもしれないが、すでに意思決定済み。実行するのがあなたであっても、これは上位レベルで決まったことで、あなたには関係がない話だ
  • 経営課題について、いちいち全社員が知る必要はない

高度知識産業で競争しようというのであれば、相応の社員を惹き付けるべきで、こうした物言いは全て優秀な人材を遠ざけることになり、不利だと思うのです。実態として能力やレベル感がさまざまであっても、持てる能力を最大限に発揮してもらうことを目的とするなら、情報はできるだけ流通させるのが、今の時代には正解ではないかと思います。また、それぞれの専門性を生かしてチームとして最大限のパフォーマンスを出すためには、モチベーションがきわめて重要です。しかし、上記のような発言は現場のモチベーションを削ぐことになります。

情報の取捨選択ができる人材であれば、情報の流量は多ければ多いほど良いはずです。それに、情報の偏在は、政治家タイプの跋扈を許す悪い権力の発生源にもなります。トップ自ら情報の公開・流通に積極的でなければならないと思うのです。Googleという組織にいて、私は情報を探すストレスから人生で初めて解放されたように感じていました。社内をググれば全て情報はある、というほどに極度の情報共有状態です。日々自分に向かって飛んでくる情報量も最初は洪水のように思えるほどでした。

組織の意思決定では、事前に意思決定のプロセスに参加してもらうことで、メンバーのコミットメントを高められます。その説得や合意のコストが高すぎて避けたいと考えているとしたら、社員を軽んじているか、間違った社員を採用しているか、その両方ではないかと思うのです。

(4)述べた意見が軽んじられたり、不利な扱いを受けないと社員が理解していること

経営陣やリーダーが一方的に話すだけでは意味がありません。寄せられた質問や厳しい批判、あるいは建設的な意見に対して、その場で回答するのも重要だと思います。即答できない場合でも、どう対応するかを手短に述べ、「対応する」といったら1、2週間で2、3の施策を関係者全員に出す、というところまでやらないとアカウンタビリティーを持ったリーダーと言えないと、私は思います。

このとき大事なのは、どんな意見でも嘲笑したり、軽くスルーしたりしないこと。そしてどんな意見でもそのことで社内で不利な立場に立たされたり、待遇が悪くなったりしないと社員が理解していることです。そうでなければ、やり取りは茶番になるからです。

(5)意思決定を、それぞれの専門チームに分散させておくこと

声が上がったら1、2週間で対応する、ということをGoogleができるのは、権限が分散されているからだというのが、私の観察です(これは公式な見解などではありません、念の為)。あまり具体的には書けませんが、個人や部分部分が自律的に動きつつ、その関係性の中で意思決定をしていく「ティール組織」に近い、と感じていました。このため、オーナーが決まりさえすれば、「対応する」といったことは比較的短期で実際に動きがありました。

100人とか1000人で「社員の声を聞いても対応ができない」というのは、経営陣が情報や権限を独占しすぎている(社員を信用していないか、情報共有や権限移譲に真剣ではない)からではないか、というふうに私には思えるのです。

(6)意見に対応するといったら対応を継続報告すること

社員の意見を拾ったとき、回答は2つに1つだと思います。「それは対応できない、なぜなら」というものと、「それはすぐに対応しよう」です。

「それは良いかもしれない。検討しよう」という曖昧な回答は避けるべきだと思います。これだと結局具体的な次のステップを決めていませんし、事実上、社員の声を無視していることになるからです。「それは良いかもしれない。検討するためにNさんに調べてもらってxx日までに回答する」というふうでなければ、耳を傾けたと言えません。さらに、その後の経緯の報告までがセットです。あるいは、優先順位から難しいということであれば、それをストレートに伝えるのが良いと思います。それで現場が納得しないとしたら、情報に非対称性があって、それを解消していないことが問題なのだと思います。

いろいろな組織を経験してきた私には驚きでしたが、Google社内は、現場から声を吸い上げることで大小多くの改善が日々行われています。吸い上げて改善するのはトップだけでなく、権限をもった当該部署です。これは「Work Rules」という書籍に書いてあることですが、小さなところでいえば「Bureaucracy Busters」という仕組みがあります。「意味のないお役所的な仕事」を見つけ出して徹底してやっつけようというツール・文化です。

以上、述べてきたことは私個人の体験に基づく意見で、Googleがどう考えて何をしているかについての公式の見解などではありません。ただ、この辺りは公開情報としてさまざまな書籍やブログ記事にもなっています。情報が双方向(もしくは縦横無尽)に飛び交うオープンさで、10万人規模と思えないほど経営陣と現場の距離が近いと思えた私としては、もしスタートアップの経営者で「社員数が一定数を超えると社員の声は拾えなくなる」という課題を感じているのであれば、ネットのツールも活用して、TGIFのような仕組みを真似してみてはいかがでしょうかと提案してみたく思います。

企業文化の構築

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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