起業家にとって資金調達がうまくいくかどうかは死活問題です。キャッシュアウトを避けるため、たくさんのVCに会い、話し合いを重ねながらある程度のお金の見立てをつくっていきます。ここで、私がお伝えしたいのは「投資実行前のミーティングの際にVCが言う『いいですね』や『社内で検討します』という言葉をうのみにしてはいけない」ということです。
これは、VCとして自分たちが起業家とミーティングした際にポジティブな反応をしても、実際に投資に至るのは非常に少ないという事実からの教訓でもあります。Coral Capitalでは月間400社以上見ていて、実際に投資するのはそのうちの1件とかなり少ないのが現状です。そしてこれは投資検討するVCという立場だけでなく、投資先スタートアップの調達時において、それを仲間の立場でサポートする際にも、同様のことを感じます。起業家は「前向きに検討してもらっている」と感じていても、実際の投資家側の温度感はそこまで高くないということが比較的よくあります。投資家の温度感を感度高く察知し、検討状況を的確に判断できる方と、苦手な方がいると思っています。
投資家の「いいですね」という発言の裏にはどんな本音があるのか?
投資家の「いいですね」という発言には、いくつかのパターンがあると思っています。当然、投資検討を進める上で、進めたいと思うような文脈での「いい」もあります。
しかし、起業家から調達の相談や状況を共有された際に、必ずしも全ての「いい」が投資案件としていいという状況ではありません。事業やチームに関して良いと思っている要素があっても、投資案件にはならないだろうと考えている場合もあります。
自分がこのパターンに当てはまっているのではないか、と勘ぐる必要はないかもしれません。ただ言葉通りにしか受け取れないよりは、投資検討の可能性がどの程度かを見立てて、備えられる方が良いのは間違いないと思います。
「いいですね」のひと言に惑わされず、見立てを研ぎすませるには?
起業家にとってキャッシュアウトは、なんとしても避けたい事態です。悲観的なシナリオも想定したバッファプランを設定することは、とても大事。では、初対面のVCの「いいですね」に惑わされず、見立てを研ぎ澄ませていくにはどうすればいいのでしょうか? これはもうシンプルに、VC本人に「率直に聞く」のが一番良いのではないかと思っています。たとえば、こんな質問です。
「投資判断に至らないとしたら、何がネックになるのか」
「その後、どういった意思決定プロセスになるのか?」
「ほかの意思決定者は、どんな温度感なのか?何を懸念しているのか?」
「なんだ、そんなことか」と思った方もいるかもしれません。ですが、私の肌感覚だと、ここまで具体的に聞いてくる方は全体の2割程度という印象です。聞かれた身としては、失礼だと思いませんし、見立てや課題をクリアにしたいという起業家に対して取り繕うことはしないと思います。直接投資家に聞きづらいようであれば、そのVCから調達していたり、過去に投資の打診をしたが断られたという知り合いの起業家に、投資検討におけるコミュニケーションの傾向を聞いてみてもいいかもしれません。
投資実行後は、同じ船に乗る仲間!
何度か調達経験のある起業家は、ミーティングなどの後に、どういったプロセスでどのように進んでいくか見立てがつくかと思います。しかし初めての調達だと、VCの投資検討のプロセスはなかなか想像がつかないかと思います。加えて、VCによっても大きく異なります。
ちなみに、Coralでは社内稟議のための投資委員会というものはなく、投資判断を下すために社内でのディスカッションを活発に行っています。起業家とのミーティングでの情報に対し、各パートナーが意見を出し合い、投資実行するかどうかを判断しているのです。
そして、投資実行に至れば、同じ船に乗る仲間となります。事業を成功させるため、VCはアドバイスや懸念をクリアに伝えてくれるようになるはずです。そういった間柄になるまでは、表面的な言葉に惑わされずに、調達の見立てや課題の明確化に必要な情報を聞き出すべきでしょう。
Senior Associate @ Coral Capital