skip to Main Content

高すぎるバリュエーションで資金調達するのはなぜ危険なのか

スタートアップが高いバリュエーションで資金調達することには分かりやすいメリットがあります。より多くの金額を調達しつつも、株式の希薄化を抑えることができるので、自社の所有株式を多く保つことができます。一方、できるだけ高いバリュエーションでの調達を目指すことにはデメリットもあります。

それについて話す前に、あらかじめ明示しておきたいことがあります。VCである私が、このテーマについて中立的に語ることはやはり難しいです。当たり前ですが、最初にスタートアップに出資する際、バリュエーションが低いほうが私にとっては望ましいです。一方、シード投資家である私たちは多くの場合、最も早いラウンドで投資し、その後いくつものラウンドを見届けることになります。この際には株主として、会社がより高いバリュエーションで調達できるように支援するというインセンティブが働きます。つまり、私の考えにはバイアスがかかっているかもしれませんが、少なくとも、株式の希薄化を抑えたいという方の立場から語ることはできます。

前置きはこのくらいにして、高すぎるバリュエーションで調達することのデメリットを紹介しましょう。

次のラウンドの調達が難しくなるかもしれない

スタートアップの理想は、会社にまつわる全てのことが右肩上がりになることです。顧客の数や採用が増えれば、調達額も増えていきます。しかしもちろん、これらが常に右肩上がりになることは稀です。スタートアップ界における「ハード・シングス」はどの会社にも起こり得るのです。

スタートアップのバリュエーションは、その会社が到達し、超えていくであろうベンチマークを示唆します。高いバリュエーションで調達すると、次のラウンドの投資家には、会社の成長を保つため、さらに高い評価額で投資することが求められます。もし全てが上手くいき、次のラウンドの投資家が以前のバリュエーションを基に設定したマイルストーンを達成するか、上回ることができれば、何も心配することはないでしょう。しかし、自分たちではどうしようもない事態が起きる可能性もあることを忘れてはいけません。投資家の期待をすべて大幅に上回ったとしても、市場全体が不況に転じ、資金が引き上げられてしまうかもしれません。現在の資金余りの状況においては想像し難いことかもしれませんが、これは過去に何度も起きたことであり、いずれいつかは必ず起きるでしょう。

物事はなかなか思い通りに進みません。これこそが、高すぎるバリュエーションにおけるリスクです。新しい投資家が、前回と同じ評価額で投資するか(フラットラウンド)、またはさらに低い評価額で投資する(ダウンラウンド)こともあり得るのです。一部のケースでは、フラットラウンドやダウンラウンドを要求しにくいため、投資すること自体を避けてしまうこともあります。多くの投資家は、より高いバリュエーションで調達できないことが、マイナスのシグナリング効果を生むリスクを理解しているのです。これについては、この後に説明します。

期待値を過度に高めてしまうかもしれない

スタートアップの成功は、その会社が人々からどう見られるかに大きく左右されます。勢いがありそうに見えるスタートアップには、人々が入社したり、投資したり、協業したいと思うのです。勢いがありそうに見えれば、顧客も、採用候補者も、投資家も集まります。それによってさらに勢いがつき、より多くの顧客、採用候補者、投資家が集まる……、というサイクルが回ります。勢いをものにすることができれば、成功が成功を呼ぶようになります。この勢いの指標のひとつとなるのがバリュエーションです。だから、フラットラウンドやダウンラウンドになる可能性が出てくると、周囲からの評判も失墜します。顧客は、会社が大丈夫かどうか心配になります。社員の信頼も失い、投資家から向けられる目も変わってくるでしょう。

この最たる例がWeWorkです。人々がWeWorkに感じていた勢いは、バリュエーションとともに急上昇していました。しかし、WeWorkは過度にアグレッシブな経営を行い、やがて厳しい現実に直面しました。似たような事業を手掛けるTKPとRegusの時価総額が両方とも数千億円程度であることを考えると、WeWorkにもその程度の価値があるかもしれない、と考えても大げさではありません。しかしソフトバンクのビジョンファンドから投資を受けたWeWorkには、5兆円ほどのバリュエーションが付いたのです。その後WeWorkが厳しい現実に直面した際、ネガティブな報道がさらにネガティブな報道を呼び、負のスパイラルを巻き起こしました。WeWorkは、数千億円の評価額で上場することもできたでしょうし、そうであれば成功例として称賛されていたかもしれません。しかしWeWorkは、ギリシャ神話のイカロスのように、太陽の近くを飛びすぎたせいで、羽をとめた蝋(ろう)を熱に溶かされてしまったのです。

会社を売却するのが難しくなるかもしれない

あなたの会社に投資をした投資家はもちろん、その投資が将来何倍にもなることを期待しています。つまり、あなたが決めたバリュエーションは投資家にとって、どの価格で売却すべきかのベンチマークにもなるのです。例えば、100億円のバリュエーションで調達したのち、同程度の額の買収オファーを受けた場合、投資家が売却を拒否するということもあり得ます。ファウンダーは売却したいのに、投資家が首を縦に振らない場合、関係者全員にとって不幸な状況になります。

バリュエーションを決めるにあたって大事なのは、株式の希薄化を避けつつ、将来の調達における選択肢を残す、というバランスを取ることです。バリュエーションを高くするということは、好況がこれからも続くことに賭けるということです。低いバリュエーションのほうが、さまざまな状況に対応しやすくなります。また、資金だけでなく、残余財産優先分配権や参加型・非参加型など、投資契約のほかの条項も重要ですし、以前の記事で述べたように、会社に価値をもたらしてくれる投資家を迎え入れることはとても大切です。バリュエーションは結局のところ、この先どんな投資家と歩んでいくかを決める材料のひとつでしかないのです。

エクイティファイナンスバリュエーションベンチャー投資投資基準

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

Coral Insightsに登録しませんか?

Coral Insightsのメーリングリストにご登録いただくと、Coral Capitalメンバーによる国内外のスタートアップ業界の最新動向に関するブログや、特別イベントの情報等について、定期的にお送りさせていただきます。ぜひ、ご登録ください!

Latest Posts

Library

Back To Top