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投資方針はVCごとに異なる―、DCM、East Venturesのキーマンに聞いた

ひとことでベンチャーキャピタルといっても、そのファンド規模や、投資対象ステージ、得意領域によって、投資のスタイルは変わります。

そこで今回は、シリコンバレー・北京・東京に拠点を構えるDCM Ventures原健一郎さんと、シード投資に特化するEast Ventures金子剛士さんに、それぞれの投資スタイルについて語っていただきました。

どうやって投資先を発掘しているのか? 投資の判断基準は? 5年後のスタートアップエコシステムは? Coral Capital創業パートナーCEOであるJames Rineyが、おふたりに聞きました。

投資先はどうやって探す?

James:East Venturesのポートフォリオは450社ほどですが、金子さんが担当されているのは?

金子:100社強ですね。創業者の平均年齢は21〜22歳くらいだと思います。

原:相当若いんですね。

James:投資先はどうやって探してるんですか?

金子:リファラル(紹介)が多いですね。僕らは「いい起業家は、いい起業家を知っている」という仮説を立てているんですが、投資先が多いので紹介がどんどん来るんですよ。まさにネットワークエフェクトで、投資先は毎ファンド30%ぐらいずつ増えています。

僕らとしては、年間の目標として何社投資しようというのもないですし、ポートフォリオ戦略的に分散したほうがいいって話があるわけじゃなくて。出資する領域も特に決めていません。この人なら間違いないと思う方々に投資させていただいていたら自然と450社になったというのが正直な感想ですね。

East Ventures パートナーの金子剛士さん

James:フォローオン(追加投資)は?

金子:例外はありますけど、ほぼしないです。もともとEast Venturesがシードに特化したVCを始めた大きな理由の1つは、早期にリスクを取って、若者が活躍できる社会を作りたかったから。その先のステージは他のVCにお任せして、僕らは一番得意なシードに専念しようと。

ただ、East Venturesのコンセプトとしては、まだ事業が決まっているか、いないかぐらいの会社が、インパクトのある事業を生み出すお手伝いをしたいんです。そこで資金が尽きてしまったときには、フォローオンすることもありますね。

日本はシード段階で勝ち上がるスタートアップが見える?

James:DCMはアーリーステージが中心で、シード投資は少ないイメージがありますが。

原:freeeやCADDi、Coralと共同出資しているChompyのSynなど、ポートフォリオの半分ぐらいはシードから投資していますよ。

James:今のポートフォリオを聞くと、すでにシード段階でPMF(プロダクトマーケットフィート)がありそうなところが多いでしょうか。

原:確かに、日本でのシード投資はPMFがありそうなところをやっていますね。アメリカはステージごとにVCの役割が分かれていて、アーリーステージのVCはほぼシードに投資しないんですよ。

DCMは日本、アメリカ、中国に拠点があって、同じファンドから投資しているんですけど、こんなにシードをやっているのは日本だけですね。なぜかというと、日本は競争が少ないから。

「こういうアイデアがおもしろそう」となった場合、海外だと競合が30社ぐらいあるじゃないですか。そうなると、どこが勝ち上がるかわからないので、ちゃんとトラクションが出たところに投資するんですけど。それと比べると、日本は競合が出てきづらいので、シード段階から入って、チームのビルドアップから一緒にやっていこうという感じですね。

James:日本は人の流動性も低いから、いい感じのチームができたら勝つ道が見えちゃう。

原:DCMやSequoiaなどアメリカのアーリーステージVCでもシード投資をするケースがありますが、日本と同じように2000〜3000万円くらいの金額を「とりあえず」入れておくことが増えてきています。この場合、PMFは関係なく、次のシリーズA投資をするためのチケットという感覚で投資していますね。

DCM Ventures プリンシパルの原健一郎さん

James:中国とアメリカに拠点がある強みは? たとえば、中国から「今こういうスタートアップが伸びてるんだけど、日本にはないのか?」みたいなやりとりがあったりするのですか?

原:それはすごいある。密に連携する濃さでいうと、僕らはほぼ毎日、みんなでWeChatしあっています。最近でも、中国でバイクシェアリングが流行ったときに、アメリカでLimeに投資したり。日本ではSaaSとかBtoBが進んでいるので、中国でそれらの領域をやるケースもかなり多いです。

James:でも、そういう情報ってネットで調べたらだいたいわかりませんか?

原:そこはやっぱりニュースでわかるレベルとは違って、ボードに入っているからこそ「これがキーサクセスファクター」みたいなことがわかる。

普段からニュースをチェックしたり、例えばユニコーンのリストをずっと洗っていても、「こんなのあるんだ!」みたいなやつは出てくるんですよ。あと、アメリカの投資を見て、「これ日本でも絶対行けるじゃん」ということもありますし。その点でも、海外からの情報は僕らの強みですね。

James:ハンズオンはどれくらい力を入れてるんですか?

原:アメリカのアーリーステージVCと一緒で、基本的に1人のシニアメンバーが投資するのって、年間1〜2件ぐらいなんですよね。それでフルに時間を使えるぐらいっていうイメージ。アーリーステージのVCでは、それが一般的な数字だと思いますね。

金子:僕らは投資先を呼んで、社内で月に3〜4回勉強会をやっています。数十社が同時に参加するので、そこで話すと投資先の進捗も把握できます。毎回、業界で有名な方にゲストとして来てもらっているので、出席率はめちゃくちゃいいです。

原:みんなまとめてコミュニティーをつくるっていう感じでいうと、アクセラレータに近いかもしれない。

金子:まさにそうですね。結局、一番のハンズオンはシェアオフィスの中で、同じ空間に成功している会社がいることじゃないか、みたいな話があって。

うちはシェアオフィスもやっていて、初期のメルカリが六本木のシェアオフィスに入ってたんですよね。その当時にメルカリがやっていることを間近で見ること以上に、いいハンズオンってありますか? と思います(笑) その頃、BASEの鶴岡さんもシェアオフィスにいて、同時期にいた同士で何かが生まれたりするんですよね。

(※)BASEはその後、2019年10月に東証マザーズに上場

James:よくある話だけど、うまくいっているところはそのままでもいいし、厳しいところは手をつけても効果がなかったりしませんか?

金子:投資先には厳しい状況が長く続いている会社ってほぼないですね。

原:East Venturesの投資先の創業者の平均年齢が21~22歳ということは、半分学生ですよね。普通に就職する人も出てきたりしない?

金子:半分は学生ですけど、就職する人はいないですね。次のラウンドに行けなくて、倒産したり清算する投資先は5%を切っています。シードステージの会社は、まだバリュエーションがそこまで高くないので、アクハイアみたいな形で吸収されるケースもありますね。

Coral Capital創業パートナーCEOのJames Riney

James:生き残ってるけど、成長も倒産もしない「ゾンビ」みたいな投資先はどうするの?

金子:無風状態から立て直して復活するケースも過去多くありました。その意味で経営者が諦めていなければ、資金繰りの整理に協力したり、新規事業のディスカッションをしたりすることも多々あります。

James:それって450社で、1社1社(チェックする)?

金子:毎年監査法人の先生にモニタリングいただきながら、状況をアップデートしています。ある種、多数シード投資のオペレーションを構築してきたのが、僕たちのモデルの参入障壁かもしれないです。これを日本国内でマネしようと思っても難しい。伝統芸能みたいな(笑)

James:それはやばいね。大変(笑)

投資先のピボット、どう考える?

James:投資先のピボットをどう思いますか?

金子:パートナーによって意見が分かれそうですが、個人的には100%ピボットOKです。それは起業家にも伝えています。

James:まずはやってみて、うまくいかなかったら、そのときにまた考えようと。そのやり方って、日本にすごくマッチするスタイルだと思うんですよね。アメリカでは、ほとんどがダメだったら解散して、ゼロからリスタートする。日本人は責任感があるから、ピボットして投資家に恩返ししたい気持ちは残る気がしていて。

原:確かにアメリカ人は降りるのが早いですよね。

James:原さんはピボットについてどう考えていますか?

原:ピボットの判断は難しいですね。もう少し粘ってPMFに到達する可能性もあるけど、何でもかんでもピボットすればいいというものでもなくて。実際、ピボットして本当に成功した会社ってそんなになくて、Slackぐらいですよね。

James:flickrもそうでしょうか、Slackと同じ創業者ですけど。

原:East Venturesの投資先の中には、アイデアが固まっていないスタートアップもあるわけですよね。そうすると、ピボットというより、アイデア探しという感じ?

金子:うちの場合、シードで出資させてもらうと、投資先は3周くらい仮説検証できるので、「その間にPMFする仮説を一緒に探そうね」みたいなイメージですね。僕らは仮説検証のための資金を提供しているというか。

James:仮説検証の時間軸ってどれぐらいで1周なんですか。事業によって異なると思いますが、例えば半年やってみて「うまく行きませんでした」って言われたら、「半年じゃ分からないだろう」みたいなやりとりをする感じですか?

金子:それも結構分かれますね。反応イマイチかなと思っても粘り強くトライする起業家もいるし、一方で、ローンチしてから進ちょくが良さそうなのに「やめちゃうんですか?」みたいな人もいるので。イメージ的には1年~1年半の資金を提供しているので、半年×3回くらいの仮説検証を回すのが実態として近いかもしれないですね。

まだまだ日本にもユニコーンは出てくる

James:日本のスタートアップエコシステムは今後5〜10年でどうなっていくと思いますか?

原:東京っていうマーケットは非常に大きいですからね。ベイエリアとかよりも大きいし。コアなマーケットがあって、競争がそんなになくて、ユーザー側は限りなくみんな同じセグメントなので、可能性は大きいと思いますよ。

例えばアメリカでビジネスをする場合、ミズーリにいる人と、ベイエリアにいる人って違いすぎるじゃないですか。でも、東京は大体みんな同じような生活をしていて、満員電車がつらいみたいな同じペインポイントを持っている。

James:じゃあ、日本国内のGDPだけでも、ユニコーンは10社とか20社は出てくる? 例えばSaaSの分野とかで。

原:全然いけると思います。ちょっと具体的な話になりますけど、中国と日本の一番の違いは、競争の有無もそうですが、あともう1つは、日本はアメリカのプロダクトを使うという違いがありますよね。SlackやDropboxを使ったり。

それは結構大きいんですよ。SaaSの領域ではアメリカのほうがクオリティーが高いし、日本で成功するにはローカライズが必要です。例えばfreeeがそうですよね。税制などが違うから、(アメリカの会計ソフト)QuickBooksは使えない。

あとは、医療系スタートアップのKAKEHASHIのようなバーティカル系の領域もあります。マーケットは小さくなるからチャレンジングですが、ユニコーンはもっと生まれてもいいと思っています。

James:金子さんは、どうですか。

金子:僕らの投資先社数が増えているもう1つの理由は、起業する大学生がめちゃくちゃ増えていることなんですよね。

特に東大とか慶應のような高学歴の学生が非常に多いですね。「友達が起業して成功しているから」っていうのが一番の理由。マクロで見ると悲観的かもしれませんが、僕が接しているミクロで見ると超明るいなっていう感じはしますよね、日本の未来は。

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Editorial Team / 編集部

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