キャリアの選択肢としてスタートアップに関心を持つビジネスパーソンに向けたイベント「STARTUP AQUARIUM」が2020年2月8日、東京・虎ノ門で開催されました(概要レポート)。本記事ではイベントの中からスタートアップにおけるプロダクトマネージャーという職種のあり方について議論したパネルセッションをお伝えします。同じスタートアップでも金融サービスとC向けハードウェアでは、かなり業務内容が異なることがわかります。
【告知】Coral Capitalはオンライン版のSTARTUP AQUARIUMを4月23日に開催予定です。こちらで参加申込を受け付けています。
渡部 まず皆さんに自己紹介と事業の説明をお願いします。
向山 もともと公認会計士で、コンサルティング会社に所属し、いろいろあってフリーランスのエンジニアになり、その後クレジットエンジンを創業しました。プロダクトチーム全体のマネジメントをやっています。
我々の事業には2本の柱があります。LENDYというオンラインで完結する融資サービスを提供しています。一方で、Credit Engine Platformという金融機関がオンラインレンディングをすぐに構築できるプラットフォームも提供しています。これはオンラインのデータを収集して審査し、データに基づきユーザーに気持ちいい体験でお金を借りてもらうサービスです。去年、三菱UFJ銀行とみずほ銀行に提供しています。
グループ会社として、LENDYという金融事業をやる会社と、自分たちのサービスで培ったものを他の金融機関に向けてサービスとして価値を提供する会社の2社でやっています。
森 HOMMA の森です。高校2年のとき単身でアメリカに留学、大学院を卒業したときに「日本とアメリカの両方で働いてから、どっちでやるかを考えよう」と。まず日本オラクルでソフトウェアエンジニア、プロダクトマネジメントをやり、アメリカのマイクロソフトでプログラムマネージャー、こちらでいうプロダクトマネージャーをやりました。その後ブログで知り合った仲間と日本でスタートアップを立ち上げたり、日本の外資系企業でエンジニアリングディレクターをしたり、シリコンバレーにもどりプロダクトマネージャーなどをやってきました。去年から HOMMA のビジョンに共感し参画しました。
HOMMAでやっていることは大きく2つ。ひとつは土地を買って家を建てて売ります。モダンなデザインのスマートな家です。スマートホームといっても、後付けではセンサーの場所を確保してきれいに付けることがうまくいかなかったりする。スマートスピーカーから電源のオンオフができるだけでスマートと呼べるのかという疑問もある。我々は、家をゼロから作り、例えばセンサーで電源のオンオフを自動的に制御するなどして、一日中気持ちよく過ごせる家を目指して作っています。もう1つは、スマートホームのシステムを作り、家と一緒に提供していくことです。
住宅のプロトタイプ「HOMMA ONE」
昨日、うちのエンジニアがブログをアップして、Twitterで20万インプレッションいって話題になったんですが、フルスタックなエンジニアは家を作る物理レイヤーからソフト作りまでやる、そういう記事です。そんな楽しい仕事をエンジニアと一緒にできます。
渡部 家って、プロダクトの寿命が長いじゃないですか。長いスパンでお客に寄り添う、そういう形があるんだと感動しました。
僕の自己紹介です。ノインの渡部です。化粧品のECやってます。お二人の話を聞きたいので、ここまでにします。
モデレーターの渡部賢さん(ノイン株式会社 代表取締役CEO)
優先順位を付け、プロダクトの価値を高める
渡部 お聞きしたいこととして、そもそもプロダクトマネージャーとはなんですか?
向山 プロダクトマネージャー、PMほどふわっとしている職種はありません。会社によっても違う。会社の中でもフェーズにより、プロダクトにより違う。エンジニアとデザイナーだけで価値があるプロダクトが作れるならPMという役割はいなくてもいいのかもしれない。全職種にエンジニア兼PMと役職を付けている会社もある。その中で共通項としては、価値があるプロダクトを作る、その部分なのかなと思います。
渡部 プロダクトマネージャーは何かを作らないじゃないですか。コードも書かないし。
向山 必要があれば自分でコードを書けばいいし、デザインもすればいい。できなければ人を集めればいい。それをやってこそプロダクトマネージャーなのかなと。
森 エンジニア、デザイナー、ビジネスを考える人、ユーザー、この4つのマルが重なったところを見る人、交通整理して優先順位を決める人です。そのマルのどこにも当てはまらないところも見て、より良いプロダクトにしていく。これがプロダクトマネージャーの共通の概念なのかなと。
エンジニアはコードを書く、デザイナーはお客さんのことを考えてデザインする、その中で、プロダクトマネージャーは、今このプロダクトはどんな問題を一番に解決しないといけないのかをすべての視点から見て、優先順位を付けて決めていく。プロダクトマネージャーがいない会社もあるけど、いた方がより良いプロダクトができると思います。
ミッションと目の前の仕事、両方を見る
渡部 皆さんの会社でのプロダクトマネージャーの役割を具体的に聞かせてください。
向山 クレジットエンジンでは、プロダクトマネージャーは明確に必要です。ビジネスやプロダクトの特徴が、そうなっています。
我々は、自分達でもオンラインレンディングをやるし、金融機関にも展開する。サービスを作り、プラットフォームを作る。金融業界を変えていくようなプロダクトを作るため、関係者が多く、考えることが多い。社内でもエンジニア、デザイナー、ビジネスサイド、法務など幅広く見る必要がある。対外的にも、いろいろなプレイヤーと関わらないといけない。優先順位を付けてコミュニケーションを取らないといけない。
機能をひとつ追加する場合でも、今機能を提供している会社さんに大きな影響を与えるしオペレーションを壊す可能性もある。全体を俯瞰して見てコントロールする役割が必要です。
私たちは「“かす”をかえる、“かりる”をかえる」というミッションを掲げていて、例えば事業者がお金を借りるにはいろいろな書類を作らないといけない、対面で店舗に行かないといけない、審査にすごく時間がかかる、そういった世の中の課題を解決したい。このミッションを達成できるのか、それを踏まえて、多くの関係者と法的事情とを調整しながら優先順位を決めて、社内外を動かして作っていくことが、うちのプロダクトマネージャーに求められる役割です。
渡部 すると「機能提供するよ」と言ってからリリースまでのリードタイムも取らないといけないし、説明のやり方もガイドラインを作ってやっていくと。
向山 そうです。
渡部 これは凄いことですよ。僕らはC向けサービスをやってますが「いったん出そう、後から改善しよう」というところがあって。でも、金融機関向けにはミスったものを出したらダメじゃないですか。事故を起こしたら業界の進捗が遅れるようなプレッシャーもありますよね。
向山 金融機関が今まで関わってきたベンダーは「やりたいこと」、つまり要件を聞き出して作っていた。僕らは「オンラインレンディングはこうあるべきだよ」と打ち出している。ワンプロダクトで多くの金融機関に導入できるよう、設定を変えるだけで多様なニーズに応えられるようにする。
渡部 例えば、金融機関のA社が採用すればB社も採用になる、みたいなことはありますか?
向山 基本的にはそれが多いと思います。ある機能を実現すると「うちもその機能を求めていた」という話は多いですね。どちらかというと機能を削る方が厳しい。うちとしてはシンプルな機能にしたいし使い方も制限したい。でも金融機関としては「これだと、こういうパターンに対応できないんじゃない?」と言ってくる。
渡部 そこを「めっちゃ分かるんですよ」と言いながら、でもやらない?
向山 プロダクトの思想として、オンラインレンディングはこうなんだと、思想として伝えていきます。
向山裕介さん(クレジットエンジン株式会社 共同創業者取締役)
渡部 森さんにお話聞きたいと思います。家作りのプロダクトマネージャーとは?
森 守備範囲が広いんですよね。家を建てて作るところは建築士と一緒に仕事をしていく。例えば、センサーをどこに置き、どう施工するか、既存のものか、我々で新たにハードウェアを作るのか、ソフトウェアをどうマネージするのか、外からアップデートできるようにしないといけない。それに家なので何年持てばいいのか、3年か5年か10年か。どういう体験を演出するのか、気持ちいい体験か、既存の問題の解決か。家を1つのハードウェア、IoTデバイスとして見ると、それをどういう外部サービスとつなげると世界が広がるのか。そういう世界を創造しながら優先順位を付けてやっていける人が必要です。
ソフトウェアにもハードウェアにも興味があって、家で生活することに興味がある人、好きだからやれる人が欲しいですね。言われたものを作るだけだと、辛くてやっていられない。
渡部 皆さんの会社にプロダクトマネージャーって何人いるんですか?
向山 私を含めて2名で、私はチームとプロダクト全体を見ていて、もう1名は、UXに強みのあるプロダクトマネージャーです。チームで思っていることの方向性がずれることが最大のリスクです。同じ方向性を向けるよう、日々すり合わせながらやっています。
森 うちの会社は私だけです。うらやましい(笑)。サンフランシスコ郊外にプロトタイプの家を作っています。製品としてはオレゴン州ポートランドに建てる家から始める予定です。
森俊介さん(HOMMA Inc. Chief Product Officer)
渡部 最後に一言お願いします。
向山 FinTech領域、融資の領域、でかい産業を変えにいっています。仕事はハードだけど世の中が大きく変わる。それができる位置にいるのが我々だと思っています。
森 5年後、10年後に当たり前になる家を今から一緒に考えるメンバーを探しています。グローバルな環境で一緒にやれる面白い機会になると思います。
渡部 2社とも世の中を変えようとしている。大変だけどやりがいがあるビジネスだと思って聞いていました。僕もそういう気持ちでやっていこうと思います!
(取材・文:星暁雄)
Editorial Team / 編集部