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「ナンバー2」は「何でも屋」―、スタートアップCOOたちが語るやりがいとキャリアパス

スタートアップ企業の日常的な事業運営を統括し、組織強化の役割を担うCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)。会社の「ナンバー2」「CEOの右腕」とも呼ばれ、特に数人規模から急速にスケールしていくスタートアップでは、成長途上の組織に降りかかるさまざまな問題を処理する多面的なスキルが求められます。

Coral Capitalが2月8日に開催したキャリアイベント「STARTUP AQUARIUM」では、COOというポジションのやりがいや適性、さらにCOOを目指すためのキャリアプランについて、現職のCOO4人が語り合いました。

やらない仕事はない「その他事項の最高責任者」

「CEOが体調不良時は代役にも立つ。COOとは、Chief Other Officer(その他事項の最高責任者)ではないか」(グラファー・井原さん)

井原真吾氏(株式会社グラファー取締役COO)慶應義塾大学法学部を卒業後、リクルートに入社。システム開発・海外拠点構築・プロジェクトマネジメント・業務改革などの経験を経て、GovTech領域のスタートアップであるグラファーを2017年7月に共同創業。

セッション冒頭、登壇した4人が異口同音に語ったのは、スタートアップCOOが担う業務の広さと多様さでした。

「起業からずっと『燃えているところを消しに行く』ことを続けている。事業戦略をはじめ、コーディングやプロダクトオーナーといった技術サイド、セールスなどのビジネスサイド、給与振込に至るまで、3年半で社内のありとあらゆる仕事をやった実感がある」(Shippio・土屋さん)

「創業初期は事業提携や資金調達のかたわら、プロダクトの細かい仕様策定や営業をこなしていた。契約も押印して終わりではなく、明け方までひたすら書類の製本作業をやっていたので、製本の上手さには自信がある(笑)」(カケハシ・中川さん)

「価格改定や組織設計のような戦略面にとどまらず、何でもやる。マーケティングチームと一緒にサービスの動線設計を考えることも、展示会で接客して名刺を集めることもあり、創業間もないころは独習したApexでSalesforceをカスタマイズしていた」(SmartHR・倉橋さん)

組織体制に責任を負う者として、手薄な部分があれば自ら穴を埋めに行く「何でも屋」。いかに華麗なキャリアの持ち主であろうと、現場で泥くさく手を動かすのがスタートアップCOO共通のワークスタイルのようです。

会社と社員の成長が自身の喜び

重責を伴う激務なのにCEOほどは目立たない。際だった特徴が見えづらいオールラウンダーでもあるCOOのポジションを、なぜ目指すようになったのか。そんな問いに対する4人の回答からは、「COO属性」とも言うべき独特のパーソナリティーが浮かび上がります。

「起業にあたって本などを読む中で、COOは『バランサー』だと知ったが、一緒に起業した佐藤(孝徳CEO)は情熱的な猪突猛進タイプ。性格的に自分のほうがCOO向きだと考えて役割分担することにした」(Shippio・土屋氏)

土屋隆司氏(株式会社Shippio取締役COO)米国コロンビア大学理工学部を卒業後、三井物産に入社。中国・南米で排出権トレーディングや温室効果ガス削減プロジェクトなどに携わる。CEOの佐藤孝徳氏と共に2016年5月、国際物流の仲介をオンラインで行うサークルイン(現Shippio)を創業。

「起業する社員が多いリクルートに在籍していたときに、根っからのCEOタイプという同僚を間近で何人も見て『自分は違う』と悟り、COOを目指すことにした。多様な経験が必要になると考えて積極的に異動を希望し、8年間で36部署を経験した」(グラファー・井原氏)

「仮説を立てるまでのコンサルと違ってスタートアップ経営には決定権があり、進めたことが最終的にうまくいくかどうかの刈り取りまでできる。そこでのCOOは、組織設計の狙いどおりにみんなのパフォーマンスが出たときの『これ、来たな』といううれしさや、振り返ったとき『事業がここまで成長した』『こんなことができる組織になった』という人の親のような喜びを感じられる」(カケハシ・中川氏)

「飽き性な性格なので、いつも新しいことにチャレンジできるのがうれしい。学生時代は物理の研究者志望で大学院に進んだものの、あまりの孤独さに耐えられず就職した経緯もあり、いろんな人とつながって成長を見られるのが喜び」(SmartHR・倉橋氏)

倉橋隆文氏(株式会社SmartHR取締役・COO)東京大学理学系研究科を修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得後、楽天に転職。海外子会社社長や社長室勤務を経て、人事労務分野などの業務生産性向上サービスを提供するSmartHRに2017年7月から参画。

自身が長年思い描いたビジョンを形にしたいというより、常に新たな分野で成果を得たい。自分1人だけが成長するよりは、周囲の環境を整えて多くの仲間や組織全体を成長させることに喜びを感じる。スタートアップCOOに向くのは、そうしたタイプなのかもしれません。

フェーズで変わるCOOの役割、目指すなら早めにマネジメント経験を

セッションではまた、COOを目指す人がプレーヤー時代から重ねていくキャリアのあり方についても意見が交わされました。

「社内の問題を何でも解決しなければならないCOOに必要なスキルをチャート化すれば、極端な項目がないオールBとかCに近い」と分析したのは、Shippioの土屋さん。その上で、「まずコンサルティングファームや総合商社のような、まんべんなく経験が積めるフィールドを選ぶのは1つの方法。もっとも、小さいPDCAを回す習慣が身につくという意味では、早めにスタートアップにジョインする選択も勧めたい」と述べました。

直近で従業員数100人を超えたカケハシの中川さん、さらに社員200人を擁するSmartHRの倉橋さんからは、プレーヤーとマネジメントの違いに加えて、マネジメントの中でも組織拡大とともに役割が変化していくとの指摘がありました。

「社内15のチームを見ながら調整やリソース配分、戦略立案を進めている現在、1日のうち8割以上をミーティングが占めている」(カケハシ・中川さん)

中川貴史氏(株式会社カケハシ取締役COO)東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。製造業・ハイテク産業の業務最適化、企業買収、買収後統合マネジメントを専門とし、英国・インド・米国でのプロジェクトを経験。2016年3月にCEOの中尾豊氏と共に調剤薬局向けSaaSを提供するカケハシを創業。

「会社が育つにつれてCOOが実際に手を動かす機会は減り、人を束ねて力を発揮することが重要になる。それまでコンサルティングファームのような『常に全力疾走する人ばかり』の職場経験しかないと『普通の環境で、どうすれば人が動くのか』への理解でつまずくおそれがある」(SmartHR・倉橋さん)

中川さんと倉橋さんはともに、精鋭ぞろいのファームとして知られるマッキンゼー出身ですが、こと「人」の問題に関してはファームの外で、体当たりの実践から学んできたといいます。

「カケハシ創業までは少人数の起業とファームの経験しかなかったが、組織で社会を動かしたかったので過去を封印し、マネジメントをひたすらアンラーニング(意識的に忘れて学び直すこと)してきた」と中川さん。コンサル時代を上回る成長速度が求められる中でもゼロスタートの覚悟を決め、真正面から組織づくりに取り組んでいると明かしました。

「実際にやって初めて身につくのがマネジメント。私もマッキンゼーから楽天に転じ、海外子会社の社長経験で学んだことが多い」という倉橋さんは「父親に近い歳の社員に解雇を告げたり、社内に戦略発表した後の1週間で50人中4人に辞表を出されたりといった辛い思いから『決して事業を失敗させてはならない』という責任感が培われた」とコメント。スタートアップCOOを目指す上では「事業会社内でも、初期のスタートアップでも良いので、人のマネジメントをなるべく早く経験しておくべき」とアドバイスしました。

究極的に最重要となる「人の集団をまとめるスキル」の獲得には「相応のポジションを早くから得て実践を重ねるのが唯一の方法」である点について、4人のCOOの見解は一致。大いに盛り上がったセッションは「泥臭い中でも嘘偽りなく楽しいのがスタートアップCOOの仕事。興味があれば、マネジメントのポストが空きやすい成長企業に少しでも早く飛び込んで」と呼びかけるグラファー・井原さんの言葉で締めくくられました。

(取材・文:相馬大輔)

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